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●不当寄付勧誘防止法の課題 【全国霊感商法対策弁護士連絡会・弁護士】阿部克臣

1 令和4年12月10日の臨時国会において、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(略称「不当寄附勧誘防止法」。以下「新法」)が成立しました。

 同年7月に起こった安倍元首相銃撃事件を契機に旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)問題が世間の耳目を集めておりますが、新法は旧統一教会による献金被害を念頭に成立したものです。旧統一教会は、日本社会において過去30年以上にわたり様々なかつ甚大な被害を生じさせてきました。それにもかかわらず、国は長年にわたり対応せず放置してきました。この度の新法は、わずかな期間に国会で議論が行われ成立まで至ったものであり、被害抑止・救済に向けた取り組みの第一歩として評価できると思います。また、この新法が民事効のみならず行政措置や刑罰という効果まで与えられたという点は、特に被害抑止という点で意味が大きいと思います。

 しかし、被害救済の実効性という観点から見ると以下のとおり新法には多くの課題があります。



2 まず、新法で規制対象となるのは、法人か又は代表者・管理人の定めがある社団・財団による寄附勧誘だけであり(第2条)、その他の団体や個人による寄附勧誘は対象となりません。
旧統一教会被害においては、法人による直接の寄附勧誘は行われず、所属教会の婦人部長や「アベル」と呼ばれる先輩信者などの個人から寄附勧誘が行われるのが通常であるため、そもそも新法の規制対象となるのかという問題があります。

3 次に新法の規制は適用範囲が狭すぎ、効果も十分ではありません。新法の規制は第4条から第6条の3つがありますが、順にご説明します。

 ① まず、寄附の勧誘に関する禁止行為(第4条)は、消費者契約法に準じた形で、不退去・退去妨害・霊感等による知見を用いた告知などの6類型について、取消し・行政措置・罰則という強い効果を付与しています。

 しかし、同条は旧統一教会被害にはほとんど適用の余地がありません。なぜなら、同条は「寄附の勧誘をするに際し」「困惑」したことが要件となっているところ、旧統一教会被害においては、信者は「困惑」して献金するのではなく、信仰心に基づいた義務感や使命感などから自ら進んで献金する形を取る場合が多く、献金した時点で「困惑」していたと評価できるか疑問があるからです。

 また、同条6号は霊感等による知見を用いた告知ですが、ここでは「重大な不利益を回避するためには、当該寄附をすることが必要不可欠である旨を告げる」との要件が必要となっています。これは、例えば、地獄に落ちるといった「重大な不利益を回避」するためには、献金をするしかない(献金が必要不可欠)と告げるというものですが、旧統一教会は通常はそのように告げないため適用されません。

 ② 次に、借入れ等による資金調達の要求の禁止(第5条)は、法人等が、個人に対し、借入れや自宅・重要な事業用資産の処分による寄附の資金調達を要求してはならないというものです。

 同条は飽くまで「要求」を禁止するものであり、信者が自主的に借入れ等を行ったとの形を取れば容易に潜脱することが可能です。また、自宅・重要な事業用資産そのものの譲渡による寄附も対象外となっています。

 さらに、同条違反については行政措置と罰則はあるものの取消しがなく、効果としても不十分です。

 ③ さらに、配慮義務(第3条)は、法人等が、個人に寄附を勧誘するにあたって、自由な意思を抑圧し適切な判断を困難にしたり(同条1号)、個人・家族の生活維持を困難にしたり(同条2号)、法人名を明かさなかったり寄附財産の使途を誤認させたりしないように(同条3号)、「十分に配慮」しなければならないというものです。

 この規制自体はある程度広範なものであり、旧統一教会被害にも適用される余地があります。また、同条2号においては家族被害にも配慮されています。

 ただ、同条は飽くまで「配慮義務」であり「禁止行為」ではないため弱く、効果としても勧告等の行政措置に結び付いているに過ぎません。

 同条も、第4条、第5条と同様に「禁止行為」とした上で、取消権を付与し、命令の行政措置の対象とするなど強い効果を付与すべきです。

4 さらに新法では、家族被害の救済について民法の債権者代位権という制度(同法第423条)の特例により行うものとされています(新法第10条)。

 しかし、この規定は要件が厳し過ぎるためほとんど適用の余地がないばかりか、適用されたとしても取り戻せるのは家族の扶養請求権の範囲内の金額(多くは月数万円レベルの金額)に過ぎず、家族被害の救済にはほとんど役立たないものとなっています。特に2世信者などの未成年者がこの規定を使うにあたっては、多くの場合未成年後見制度なども併せて利用することが必要になるため、現実的にほぼ使えないものとなっています。

5 このように新法には被害救済の実効性という観点から多くの課題があります。その理由としては、立法過程において特に政府・与党が被害者の声を十分に聞いておらず、旧統一教会被害の実態を十分に理解していなかったことから、新法が想定する被害と現実の被害実態との間に乖離が生じたということがあります。
新法の規定は施行後2年以内に改めて検討するとされています(附則第5条)。今後は、被害者の声に十分に耳を傾けた上で、新法の規定を被害救済に役立つようにきちんと見直していくことが必要です。




関西共同行動ニュース No93