集会・行動案内 TOP
 
●「安保3文書」の憲法上の問題点 【日本体育大学教授・憲法学】 清水雅彦

■憲法9条と自衛隊違憲論

 日本国憲法9条は、まず1項で戦争と武力による威嚇又は武力の行使を放棄し、2項で戦力を保持しないと規定している。憲法学界では自衛隊違憲論が多数説であり、自衛隊違憲論からすれば、2022年12月16日閣議決定の「安保3文書」で保有するとした「反撃能力」(いわゆる「敵基地攻撃能力」)も、中身を検討するまでもなく当然違憲となる。

■憲法9条に関する政府解釈

 これに対して政府は、1954年に自衛隊が誕生する際に、自衛隊は「戦力」にあたらないと解釈した。現在でも『防衛白書』では、「憲法と防衛政策の基本」として、以下のように説明している(以下、『令和4年版 日本の防衛―防衛白書―』から)。

 「憲法と自衛権」=・・・この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いている。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではない。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解している。

 「専守防衛」=専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう。

■これまでの9条による制約とその形骸化

 また、平和を求める世論を背景に国会論戦によって、以下のような9条による制約を形成してきた。自衛権行使の3要件(1954年政府見解。自衛権行使を日本への攻撃時に限定)、自衛隊の海外派兵の禁止(1954年参議院決議)、専守防衛(1955年杉原荒太防衛庁長官答弁など)、集団的自衛権行使の否認(1972年政府見解など)、防衛費のGNP比1%枠(1976年閣議決定)である。これらの制約があったからこそ、政府は自衛隊が他国のような軍隊ではないと具体的に説明できた。

 しかし、これらの制約も以下のように変わってきた。自衛隊の海外派兵の禁止は、1991年の掃海艇「派遣」、1992年のPKO法制定、2001年のテロ対策特措法制定、2003年のイラク特措法制定、2015年の戦争法制定によって形骸化してきた。集団的自衛権行使の否認については、2014年の閣議決定(武力の行使の3要件。我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、存立危機事態に自衛権行使)と2015年の戦争法制定によって、限定的な集団的自衛権行使可能へと転換された。防衛費のGNP比1%枠は1986年に撤廃され、「安保3文書」では2027年度にGDP比2%にするとしている。

■今回の「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の問題点

 今回の「安保3文書」では、「反撃能力」の定義を、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の3要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としている。また、「2015年の平和安全法制に際して示された武力の行使の3要件・・・を満たす場合に行使し得るものである」としている。

 この定義では、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合」としているが、以前から政府は武力攻撃が発生した場合とは、「武力攻撃に着手したとき」(1999年野呂田芳成防衛庁長官答弁など)とも説明しており、さらに、武力の行使の3要件にいう「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した時点は、当該他国に対する武力攻撃の着手があった時点であると解され」(2022年5月17日政府答弁書)としている。ということは、日本または日本と密接な関係にある他国に対して、誰が見ても客観的に明らかな武力攻撃後以外に、「武力攻撃の着手」を含め、この「着手」の判断は誰かが行うという主観的要素が入り込む以上、実際に相手国が攻撃していない段階での「先制攻撃」も起こりうるのであり、そうすればそれは専守防衛に反することになる。「先制 攻撃」ではない「敵基地攻撃」にしても、海外派兵の禁止に反する。「反撃」対象についても、「安保3文書」では「敵基地」に限定しておらず、「相手の領域」における攻撃としており、これは相手国との全面戦争を意味する。



■従来の政府解釈からしても違憲となる

 自衛隊は憲法9条に反する「戦力」ではなく、そのことを具体的に示すのが先にあげた諸制約であった。しかし、既に集団的自衛権行使の否認と防衛費のGNP比1%枠という制約は存在せず、さらに自衛隊が専守防衛を投げ捨て、海外で武力行使をするなら、従来の政府解釈からしても許されないはずである。また、2027年度に防衛費をGDP比2%にすると、日本は防衛費・軍事費で世界第3位の国になる。果たして、このような自衛隊を「戦力(軍隊)」ではない「実力」と言えるのであろうか。自衛隊を違憲にしないためのこれら制約を完全に取り払う「安保3文書」が目指す自衛隊は、従来の政府解釈からしても説明できないものであり、自衛隊自体が違憲の存在になると言える。






関西共同行動ニュース No93