集会・行動案内 TOP
 
●フジ住宅事件大阪高裁判決の示した規範を社会の隅々に 【弁護士】村田浩治


(1)事件の概要

 フジ住宅株式会社(東証1部上場、従業員1000名以上)内では創業者の代表者である今井光郎会長や宮脇宣綱社長の指示だとして総務部が「全役職員各位(含む出向者、契約社員、派遣社員、嘱託社員の方、パートの方、マンション管理員の方)という配布表紙つきで全従業員に配布される資料に、遅くとも2013年頃から、①社内で全従業員に対し、人種民族差別的な記載及びこれらを助長する記載のある資料(例えば○○人は嘘つきだ、「在日特権」というデマ文書等で以下「人種民族差別的資料ないし差別助長資料」という。)や今井会長が信奉する政治家や政治評論家の見解を記載した文書などを大量かつ反復継続的に配布した。また、②地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に参加するよう呼びかけ実際に車で動員した。さらに、③原告がフジ住宅の行為で精神的苦痛をうけたとして提訴すると、社内で、原告を含む全役職員各位」と題して、従業員らが原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する多数の従業員の感想文や(会社と密接な関係にある者の)原告を攻撃するブログ記事をコピーして配布した。

(2)一審判決及び高裁での審理状況

 2020年7月2日に大阪地裁堺支部で、上記①②③の行為の違法性を認め、フジ住宅及び会長に110万円の支払いを命じる判決が出された。

 これに対し、フジ住宅及び会長は判決を受け入れることなく控訴し、また、原告側も、一審判決の不十分な点をただすべく控訴した。

 さらに、一審判決後もフジ住宅が資料配布を辞める気配が全く無く、相変わらず人種民族差別的資料ないし差別助長資料を配付し、さらに「原告は今も在籍して働いていると思うと虫唾が走ります」などと原告を攻撃する多数の従業員の感想文を全従業員に配布するなど原告攻撃も激しくなっ
た。

 このような事態を受け、控訴審で上記①及び③の行為を差し止める請求を追加するとともに仮処分も申し立てた。

(3)高裁判決の内容

(1)大阪高等裁判所(清水響、川畑正文、佐々木愛彦)の判決は第一審に引き続き、上記①②③の行為の違法性を認めた。

 ア上記①の人種民族差別的資料ないし差別助長資料の配布行為については、憲法14条、人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして、自己の民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることがない職場において就労する人格的利益があるとした上で、フジ住宅及び会長が、上記資料配布行為を使用者の優越的地位を背景に行った結果、職場において、朝鮮民族はすべて嘘つきであり、信用することができず、親中・親韓的態度を取る人物はすべて嫌悪されるべきであるなどといった意識を醸成させ、上記人格的利益を侵害したと認めた。また、差別目的によるものではないなどというフジ住宅及び今井会長の弁解を退けて、差別を煽動する効果を有する行為を行ったことに変わりはないとして、違法性を認めた。

 イ上記②の動員行為について、使用者が自己の支持する政治活動への参加を労働者に促すことについては、たとえ参加を強制するものではないとしても、参加の任意性が十分に確保されている必要があるとして、その違法性を認めた。

 ウ上記③の原告攻撃の資料配布行為については、職場において抑圧されることなく裁判を受けることができる人格的利益を認めた上で、フジ住宅及び今井会長が優越的地位を利用し、本件訴訟の提起を非難する他の従業員や第三者の意見を、社内の従業員に対しても広く周知させ、原告に対し職場における強い疎外感を与えて孤立させ、本件訴訟の提起及び追行を抑圧したとして、このような人格的利益の侵害を認め、違法性を認めた。

(3)そして、フジ住宅が、原判決で違法性が指摘されても省みることなく上記①及び③の行為を続けてきたことから、㋐韓国の民族的出自等を有する者又は韓国に友好的な発言若しくは行動をする者に対する侮辱の文書及び㋑原告を批判し又は誹謗中傷する文書に限定した上で差止めを認めた。



(4)高裁判決の意義

 高裁判決は、人種差別撤廃条約の趣旨を実現するために企業に対して民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益を保障する義務を求め、パワハラ防止法の趣旨にも言及した上で、使用者が、労働者に対する関係で、民族的出自等に関わる差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけでは足りず、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が使用者自らの行為又は他者の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることが無いよう配慮する義務があるとの規範を示した。

 使用者が職場内において、差別的な思想が醸成されないよう積極的に配慮する義務を示した判断は、今後、職場環境配慮義務の内容として活用できる。

 また、文書を限定したとはいえ、差別を助長する文書とは何かを示して差し止めを認めたことも原告保護の実効あるものにすると共にこのような文書は配布してはならないという規範も示した。

(5)判決の示した規範を社会的な規範に

 フジ住宅は高裁判決の翌日にはさっそくHPで 上告する旨のコメントを出し、フジ住宅及び会長 ともに上告・上告受理申立を行うとともに仮処分に対しても保全異議を行った。原告は、仮処分について間接強制の申立を行い、2022年2月25日に間接強制の決定が出た。

 フジ住宅は、上記保全異議や間接強制の審理において仮処分で禁じられた文書の配布はしないと明言し、実際に仮処分決定以降は裁判所が禁じた資料の配布をされなくなった。

 原告は、一貫して会社に変わって欲しい(働きやすかった元の会社に戻って欲しい)という思いを述べており、高裁判決後の記者会見でも、「今度 こそ会社に変わってほしい」と述べた。原告が目指すのは、自分が生まれ育った社会や働いている職場が、差別がなく人種や民族にとらわれない健全さを取り戻すことなのである。

「なぜみんな黙っているの」と不安を感じながら、裁判を起こした原告の思いに応えること、自分の職場やコミュニティで実現するために裁判所が示した規範を広めていくことが求められている。



関西共同行動ニュース No91