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佐渡鉱山、歴史の真実に向き合って登録を
【神戸学生青年センター理事長/強制動員真相究明ネットワーク共同代表】飛田雄一


 私は、1980年代から朝鮮人強制連行の問題に取り組んでいる。私の生まれ育った神戸においても、アジア・太平洋戦争の時期に朝鮮人強制連行が行われた。1999年には「神戸港における戦時下朝鮮人・中国人強制連行を調査する会」が結成されて神戸港関連の調査活動が始まった。そこで初めて知る事実も多かった。私が高校時代に通っていた山陽電車の塩屋駅あたりに川崎重工に連行された朝鮮人の宿舎があったことも知った。高校時代にそのあたりをウロウロして古い宿舎が残っていたことも覚えている。また神戸港で働かされていた中国人の宿舎が神戸駅のすぐ北、宇治川商店街の南にあったことも知った。そこで生活していた中国人を招いて案内したこともある。当時なかったポートタワー(当たり前だ)に登って、「この弁天ふ頭から小さな船にのって突堤での荷揚げ作業をさせられていたのですよ」と説明した。ぽかんとされていた。それも当然で宿舎と仕事間の間を監視の下に移動させられていたのだから。1990年代には、各地で強制連行調査を進めていたグループ/個人と強制連行全国交流集会を開催した。2004年には韓国では真相究明のための法律制定をうけて、政府機関として日帝「強占」下強制動員被害真相究明委員会がつくられた。私たちは日韓両国政府の約束で遺骨調査等がはじまったのだから日本政府も政府機関としての委員会を作るべきだと訴えた。それは残念ながら望むべくもなく、2005年に日本の市民団体が「強制動員真相究明ネットワーク」をつくり韓国の委員会とも協力しながら活動を展開した。私はその共同代表をつとめており、その事務局は神戸学生青年センターにある。
 
 ネットワークは各地での調査活動をつなげる全国研究集会を各地で開催し、同時に強制連行の現場をたずねるフィールドワークも行った。また遺骨返還など日韓の間に未解決のまま残されている課題についての取り組みも行った。そしてここ数年取り組んでいるのがユネスコ世界遺産問題である。明治産業革命遺産(軍艦島等)について、日本政府は1910年までの遺産に限るとして申請し認められた。しかし、申請時にそれ以降の時期の歴史についても説明すると発言したが、それがなされていない。ユネスコからはそのことが再三指摘されているが十分な回答を行っていない。明治産業遺産登録時に佐藤地(ユネスコ代表部大使)は、「その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと」を理解できるようにすると発言していたのである。(2015年7月5日)



 今般話題となっている佐渡鉱山の世界遺産登録について、岸田政権はそのことが分かっていて(?)当初申請を見送る考えであった。が、安倍晋三元首相らの強力な働きかけがあり申請に踏み切ったと考えられている。ユネスコ委員会は、先の産業革命遺産のことがあるので、すんなりと認めるかどうかは疑問視されている。

 佐渡鉱山について日本政府は、江戸時代のことに限るとしたいようだ。政府は2022年1月21日の記者会見で、「佐渡の金山に関する韓国側の独自の主張につきましては日本側として全く受け入れられない」(木原官房副長官)と述べ、韓国側の戦時の朝鮮人強制労働に関する主張を否定した。しかし日本政府は、たとえば2002年12月20日付の近藤昭一衆議院議員提出の質問主意書に対する答弁書(閣議決定)では次のように言っている。

 「いわゆる朝鮮人徴用者等の問題を含め、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えており、戦争という異常な状況下とはいえ、多くの方々に耐え難い苦しみと悲しみを与えたことは極めて遺憾なことであったと考える」と。否定することはできないのである。

 佐渡鉱山について『新潟県史通史編8近代3』(1988年)には、「強制連行された朝鮮人」の項があり、次のように記載されている。

 「昭和十八年(1943年)六月東京鉱山監督局東京地方鉱山部会は、佐渡鉱山を会場に朝鮮人労務管理研究協議会を開催した。その要綱に盛られた佐渡鉱業所の報告は、移入者総計一〇〇五名、死者一〇人、公私傷送還三六人、不良送還二五人、逃走一四八人などで現在員数五八四人にすぎなかった」。逃走者が148名(14.7%)もいることは労働の過酷さをしめしていると言えよう。

 戦後、80年を迎えようとするのに、日本政府は、自治体史にも明記されている朝鮮人強制労働の事実を認定しようとしない。その姿勢にこそ問題の根源がある。韓国が悪いのではなく、歴史事実を否定して恥じない日本政府に問題があるのである。

 ユネスコの「人類の知的・精神的連帯に寄与し、平和と人権を尊重する普遍的な精神をつくる」という理念の下に、ユネスコの世界遺産がある。世界遺産登録にあたっては「歴史全体」が示されなければならない。日本政府が強制動員の歴史を否定したまま登録を推進するならば、これまで鉱山の歴史的価値を広めようと登録を推進してきた関係者や強制連行の歴史の事実に向き合って取り組んできた人々の努力を踏みにじることになる。そして連行被害者の尊厳を踏みにじることにもなるのである。

 私たちは、申請に反対しているのではない。日本政府が、佐渡鉱山の世界遺産登録問題に際し、戦時の朝鮮人強制労働を否定するのではなく、認知することを求めているのである。引き続きこの問題を注視していきたいと考えている。(関連する声明等については、ネットワークホームページ
https://ksyc.jp/sinsou-net/
をご覧いただきたい。本年8月27日~28日には、新潟で研究集会、佐渡でフィールドワークが行われる。)
(※全国商工新聞に掲載した報告を加筆修正した)






関西共同行動ニュース No91