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ウトロでのヘイトクライムを許さない社会を 郭辰雄【特定非営利活動法人コリアNGOセンター・代表理事】


8月30日に京都府宇治市にあるウトロ地区で倉庫、民家など7棟が被害を受ける火災が起こりました。当初は建物の老朽化による失火と見られていましたが、12月6日に京都府警は放火の疑いで奈良県在住の22歳男性を逮捕したことを発表しました。同容疑者は名古屋市内にある在日本大韓民国民団愛知県本部と隣接する名古屋韓国学校の排水管にも放火した容疑で10月に逮捕・起訴されています。



今回の事件はウトロの住宅が立ち並ぶ地区での放火で、住民の生命と財産を脅かす重大犯罪であり、決して許されるものではありません。また一連の事件がすべて在日コリアンの関連施設であることからも特定の民族に対する憎悪にもとづくヘイトクライムである可能性が高いと思われます。もしそうであれば、地区住民のみならず在日コリアンたちの平穏な生活を破壊し不安に貶める極めて深刻な問題であると言わざるをえません。

朝鮮半島が日本の植民地となっていた時代、ウトロには飛行場建設が計画され、多くの朝鮮人が建設労働者として集められました。戦後、ウトロの土地が地上げ会社に転売されたことにより、一方的に立ち退きを迫られることになった住民は厳しい差別と困難に向き合いながらも生活と権利を守るために自ら立ち上がり声をあげました。その声が日本市民、韓国市民に伝わって支援の輪が広がり、ウトロの土地を買い取り、そこに日本の行政が住環境整備のための集合住宅建設を進め、ウトロの新しいまちづくりが進められています。

今回の犯行はこうした住民たち、在日コリアン、日本人、韓国市民社会が力を合わせ、過去の歴史を乗り越えて未来に向けた歩みを進めるなかでおきた許しがたいものです。

事件の容疑者は一連の犯行の動機に関連して「在日コリアンが嫌いだった」「注目を集めたくて火をつけた」という趣旨の供述をしていると報道されています。日本国内のマイノリティである韓国人・朝鮮人を攻撃すれば世間の注目を集められるという発想は、まるでネオナチのようです。一連の犯罪行為の犯人は別であったとしても、上記の事件は全て在日コリアンに対する憎悪・差別を背景としたヘイトクライムの可能性が極めて高いと言えます。

ヘイトクライムはそれ自体が深刻な被害を与える犯罪行為です。ウトロでは建物の焼失だけでなく、倉庫に保管してあった住民たちの生活と権利を守る努力を伝える史料、立て看板などが失われるという取り返しのつかない被害が生まれました。幸いにして人的被害はなかったものの現住住宅にも被害がおよんでいることから、場合によっては人命が失われていた可能性も否定できません。

こうした直接的な被害のみならずヘイトクライムはより深刻な社会的影響を与えます。ヘイトクライムは単なる個人による偶発的犯罪ではなく、社会的につくられた差別構造に起因しておこります。根強い在日コリアンに対する偏見や見下し、蔑視などがヘイトスピーチによって増幅、拡散するとともに敵愾心をあおり、「目立ちたい」「憎かった」などの「軽々な」理由で犯罪行為を引き起こすのです。つまりヘイトクライムは誰が加害者になるかもわからず、そしていつ、どこで在日コリアンが犯罪の被害を受けるかもわからない状況を生み出すのです。そればかりかヘイトクライムが起こった時点で、直接被害を受けていない在日コリアンも、いつ自分たちが被害者になるかもわからない恐怖心を感じる被害者となるのです。こうした一連の動きが、ジェノサイド(大量虐殺)を招いた過去の経験もあります。

ヘイトクライム被害の深刻さから、国連人種差別撤廃委員会は2001年以降の4回の審査において毎回日本にヘイトクライム対策を勧告しています。これに対して日本政府は「刑事裁判において差別的動機がある場合、量刑事情として適切に考慮されているから特別な対策は必要ない」と主張しています。しかしながら、これまで在日コリアンはじめマイノリティがターゲットになった刑事事件で、差別、憎悪が犯罪の動機である疑いがあるにもかかわらず、警察及び検察や裁判所は、差別、憎悪という人種主義的動機の有無について、捜査及び立証の対象として取り扱うことに積極的な姿勢を示したことはなく、表面的な被害のみを処罰の対象にしてきています。こうした捜査、司法の在り方は、日本政府の上記主張と矛盾するうえ、ヘイトクライムへの対応としては大きな問題であると言えます。

また司法のみならず、行政機関である日本政府、地方自治体もヘイトクライムに対する毅然とした姿勢を示す必要があると考えます。特に、マイノリティがターゲットになる犯罪は模倣犯が継続する可能性があるため、ヘイトクライムの可能性がある場合にはそれを許さないという姿勢を明確に示すべきだと考えます。残念ながら一連の事件の報道に対するネット記事のコメントでは「自作自演」「原因は在日にある」「危険だから早く帰国しろ」などのヘイトスピーチが数多く流され、二次被害を生み出し、第二の犯罪を誘発しかねない状況でもあります。
今後こうした事件が起こらないためにも、ウトロでの放火事件に対して徹底した捜査と差別的意識がどのように事件に結び付いたのかという動機の解明が求められます。のみならず、日本政府、地方自治体、市民社会がこうしたヘイトクライムを許さないという姿勢を示すことが求められると思います。

また2022年4月、困難に直面しながら声を上げたウトロ住民たちと日本市民、在日コリアン、そして韓国市民が力を合わせて権利と暮らしを守った歴史を伝え、共に平和を学びあう場として「ウトロ平和祈念館」が開館します。

憎しみの連鎖を断ち切るためには「差別」に対して厳しい姿勢で臨むと同時に、互いに出会い、学びあうことが不可欠です。ぜひとも市民の皆様の「ウトロ平和祈念館」への関心とご支援を寄せてくださることをお願いする次第です。(ウトロ平和祈念館ホームページ https://www.utoro.jp/





関西共同行動ニュース No90