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馬毛島を破壊することが国防なのか 【馬毛島への米軍施設に反対する市民の会 】 長野広美


馬毛島は、種子島の玄関口西之表港の真西10㎞に位置し、周囲50㎞内に、北に大隅半島や薩摩半島、さらに西にトカラ列島、南に屋久島と、島々に囲まれている。冬は特に、東シナ海の北西から厳しい季節風が吹くので、屋久島航路だけではなく、奄美航路や大型タンカーも風よけに、馬毛島付近を通過する。

その馬毛島は、食糧難が続いた戦後から入植者が増え、小中学校があり、西之表港から市営の定期船が通っていた。レジャーランド構想を名目に土地の買収が始まったのが75年で、ゴルフ場建設が急増し全国の問題となり始めたころである。80年無人島となった後は、大型石油備蓄基地、自衛隊レーダー基地などの様々な投機目的に利用され、政界と財界の癒着で揺れた平和相銀事件や金屛風事件などの舞台としても、時代に翻弄されてきた。

そして今や、米軍の空母艦載機によるタッチアンドゴー(FCLP)と呼ばれる訓練地として、また陸海空自衛隊の様々な総合訓練地として、防衛省が着々と基地建設を、地元市長の不同意の立場を無視し、なし崩し的に強行しようとしている。まさに辺野古基地建設が地元を分断し、環境を破壊している様と重なる。

95年無人島となっていた馬毛島を買収した事業者は、最初に採石事業を始めるものの、林地開発許可手続きで不備な点が、地元漁師らが中心に起こした裁判によって明らかになる。密室化した島の中で、その後も農地造成などを名目に林地開発許可を取り続けた結果、馬毛島には南北に4000m、東西2500mの巨大な滑走路にみたてた裸地が十字架のように造成されてしまった。



かつて馬毛島での農業は厳しかった一方で、近海は、トビウオ、イセエビやトコブシなど一大漁場であり、「馬毛島で子どもたちを育ててきた。どんな時でもなにがしか獲れた。」と、今でも漁師たちは宝の島だという。しかし、2010年頃から始まった砕石工事や巨大な造成工事によって近海が土砂で汚染され、漁業も厳しい環境に置かれている。

2000年からこれまで、漁師らは工事差止、損害賠償請求、さらに入会地確認などの長年の裁判運動を続けてきた。この結果として、事業者は明らかに許可範囲を超えた開発であることが、2016年10月公害等調整委員会の裁定及び2021年2月福岡高裁宮崎支部の判決によって認定されている。現在4000mもの巨大な滑走路を持つ空港は、日本には2本しか存在していない。それが8.17平方キロメートルほどの島の中に造成されたことは、いかに自然生態系を破壊し、周辺海域への影響が大きいか、容易に想像される。そもそも、森林法による林地開発許可権限を有する鹿児島県は、これまでに一度も適切な行政指導を行っていない。さらにより深刻な問題となるのは、鹿児島県の無作為だけではない。



防衛省の、馬毛島への基地建設は2011年6月の日米安全保障協議委員会で、馬毛島を米軍FCLP訓練地の候補地として合意文書に明記して以来、一貫しているように見える。その当時から地元に対し、事前協議は一切無く、また「候補地」である等のみの事後報告であった。2019年11月に、多額の負債で経営が行き詰った事業者と、一方的に買収合意を取り付けた。ついに今年1月7日防衛大臣は、米国政府が馬毛島を歓迎すると表明し、令和4年度の馬毛島基地建設費に3183億円予算を閣議決定したことを理由に、馬毛島を候補地から整備地に決定したと宣言した。ここに至るまでの馬毛島基地建設に向けた政府及び防衛省には、以下の重要な問題点があると考える。

これまでに、地元自治体に対し、防衛省は地元の理解を得るために丁寧な説明を行うとしてきたが、一度も事前協議は無く、事後報告のみである。最も心配される騒音問題に対しても、昨年5月実施されたデモフライトは、真夜中3時まで計画されているFCLPと大きくかけ離れたもので、種子島の住民から多くの不満が寄せられている。また、前地権者との買収合意について、防衛省自ら行った不動産鑑定の評価額を大幅に上回る160億円もの買収額も、さらに先の違法開発によって出来上がった造成工事に対する補償金が35億円積み増しされた事実も含めて、依然として全体概要は明らかになっていない。

土地問題も深刻である。地元自治体が保有する学校跡地や個人所有地、漁業集落による入会地などが存在し、防衛省所有100%には至っていないにも関わらず、21年2月防衛省は全島を対象にした環境影響評価手続きを着手した。森林法を違反した前地権者に対しても、国有地化した後は不問に付すとの見解は、法を順守するのではなく、捻じ曲げた解釈でしかない。

国会予算審議も開始されていない今年1月26日の時点で、総額500億円を上る、滑走路、管制塔、さらに仮設桟橋など、本体工事の入札が告示された。3月に入って、戦闘機による訓練回数は年間約3万回との、新たな、しかしこれまで同様に、追加的な事後報告が防衛省から出てきた。
明らかに地方自治権を蔑ろにし、地元住民の不安も無視し、国家権力が暴走している。ウクライナ侵攻によって一気に緊迫した世界情勢の中で、敵地攻撃も辞さない、米軍に南西諸島をも差し出す、現政権の防衛戦略には、私たち国民の安全は全く担保されていない。





関西共同行動ニュース No90