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維新の改憲案を斬る 【大阪経済法科大学教授】澤野義一


■維新の改憲提案

日本維新の会の全体的な改憲事項は、「維新八策」2021政策提言で公表されている。①教育無償化、②道州制(統治機構改革)、③憲法裁判所、④その他として憲法9条、国民投票、緊急事態条項、皇室などである。そのうち、すでに改憲案(2016年)として条文化されているのは①②③である。改憲3項目案は、自民党の2018年「改憲4項目案」(自衛隊明記、緊急事態条項、教育の充実規定、参院選合区解消規定)と対比すると、関連項目は教育規定だけである。2012年自民党の全面的改憲草案を含めると、地方自治規定の改正(道州制)も関連する。維新が教育無償化と二重行政解消にかかわる道州制を改憲項目に掲げる理由は、同党のこれまでの政策から理解しうるが、憲法裁判所提案には説明がなく不可解である。予定の9条改正(自衛隊容認)と緊急事態(内閣独裁)条項の改憲案はまだ提示されていないが、自民党案などに近いものになると思われる。しかし、維新の改憲提言や改憲案は、これまでの保守派、読売新聞社、財界、自民党議員らの改憲案にみられるもので、教育無償化以外は特に新規性はない。

■教育無償化条項

現行憲法26条が国民の教育を受ける権利と義務教育無償を規定しているのに比べ、維新の改憲案は幼児期から高等教育までの教育無償を規定しているのがアピールポイントであるが、改憲を誘導するものである。憲法26条は義務教育無償以外を禁止するものではなく、教育無償化は改憲しなくとも法律(学校教育法)で実施可能である。外国の高等教育無償は憲法で明記されていなくとも実施されている例もある。改憲で時間と労力をとるまでもなく、直ちに法律で実施すべきである。民主党政権で高校授業料無償化法が制定されるときに、高等教育の段階的無償化を定める国際人権A規約を無視し、自民党とともに維新も反対したのに、その反省もない。また維新がいう無償化は実態的には授業料に限定され、学校への公的助成を行うものではない。むしろ助成は削減されている。また、改憲案の「公の性質」を有する学校への無償化を口実に、教育への国家・自治体の統制(大学組織運営への関与や大阪教育基本条例など)も懸念される。

■道州制条項

道州制は一般論としては、憲法の理念である住民自治と団体自治を否定しない内容であれば、現行憲法92条のもとでも法律レベルで導入が可能という憲法学説もあり、改憲の必要性・緊急性はない。また提案の道州制の内容にも問題がある。国は「強い国家」をめざして軍事・外交を担い、福祉や教育(財源)は基礎自治体の自己責任とする。都道府県を廃止した広域自治体の道州は、財界の要請するグローバル経済を独自に展開する権限(地域主権)を行使する。このように国と自治体の役割分担が固定されると、自治体の平和行政は完全に否定され、米軍や自衛隊基地の受け入れなどに関する地方の許可権限が奪われる。現行憲法95条が定める地方特別法の住民投票制度も廃止される。これは新自由主義的分権化に基づく新たな中央集権的国家改造である。維新の場合は、関西州という道州制を指向しつつ、当面は大阪都構想により、大阪市(権限)を廃止して大阪都と基礎自治体の特別区に再編(二重行政廃止)し、大阪都に強い権限を付与するものであるが、大阪都を不要とするはずの道州制と両立するのか疑問もある。

■憲法裁判所条項

現行憲法( 81・98条)では、一切の法令や行政処分等が憲法に適合するか否かを決定する終審裁判所である最高裁判所によって違憲とされた法令は無効となる。この違憲審査制度は、具体的な権利侵害を伴う事件に限って適用法令を審査するもので(アメリカ型「具体的違憲審査制」)、事件と無関係に法令等の審査を行う「抽象的違憲審査制」(ドイツ等欧州型)は採用していないというのが、最高裁見解や通説とされてきた。

しかし、これまで違憲判決が少なく、安保や自衛隊にかかわる政治性の高い「統治行為」については判断を回避する最高裁の消極的姿勢への批判的対応として、通常の最高裁判所と併存する形で、法令や国家行為等の憲法適合性を最終的に決定(最高裁判所の単なる審査と区別)する「憲法裁判所」を導入すれば憲法判断が積極的に下せるようになるという見解が、90年代から肯定的に提案されるようになり、読売新聞社の改憲案(2004年)などでも提言されている。維新の改憲案もそれに倣ったものと思われるが、提案の理由や説明は公式にはなされていない。憲法裁判所導入論自体については、実は戦後の憲法制定時から憲法学の世界や改憲論議の中で賛否両論のある相当専門的な法技術的テーマ(改憲しなくとも法律で導入できるという説も有力)で、国民が直ちに理解するのはむずかしいと思われる。したがって、この改憲項目は国民投票にふさわしい緊急性のあるテーマとはいえない。また、改憲派の憲法裁判所導入論は9条改正とセットになっており、安保関連法や自衛隊の軍事活動を迅速に合憲と判断させることがねらいであることにも留意する必要がある。







関西共同行動ニュース No90