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辺野古新基地建設問題の現状と平和憲法 【参議院議員・琉球大学名誉教授 】高良鉄美


2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻した。沖縄では辺野古新基地建設の賛否を問う県民投票の3周年を迎えた日であり、若者を中心に県民投票の意義や普天間・辺野古問題を振り返るイベントなどが行われていた。沖縄本島からさらに南の石垣市では、27日投開票で白熱した市長選挙の最後の攻防「三日戦争」に突入した当日であった。

一見、何も関連性がなさそうに思えるが、関係はある。ロシアの軍事侵攻は非難されて然るべきである。そこに異論はないが、ロシアにとってNATOの拡大は脅威で、ウクライナが加盟をすれば、首根っこを押さえつけられる状態になるのも全く理解できないことではなかろう。

現状の老朽化した普天間基地と建設工事中の辺野古新基地とでは、その持つ軍事的ポテンシャルには大きな差がある。辺野古は軍港と弾薬庫が付属し、近代設備の充実した新戦略型航空基地になるからである。軍事的には大きな脅威であることは言うまでもない。四分の三世紀以上前の悲惨な沖縄戦の歴史的経験から、軍事要塞化する辺野古新基地建設に県民が命の危険や不安を感じることは想像に難くない。皮肉なことに敵基地攻撃能力を政権与党内で声高に叫んでいるが、真っ先にその攻撃対象となるモノを建設しよう
としているのである。沖縄戦の経験がない世代でも、ひとたび攻撃を受けるということが自分の生活をどう変えてしまうのかはウクライナの戦況で想像に難くない。その新基地建設に対して、県民投票という形で若者が中心的役割を果たし、民意を表明したのである。

新基地建設、NO!見事なほど明確に辺野古新基地建設反対の民意が示された。民主主義の基本からいえば、民意に従い工事は中止される。それが民主国家であり、民主政である。憲法95条の趣旨からすれば、法律でさえも止めることができる住民投票が、工事を止めることができないという解釈で強行することは「法の支配」ではなく、「人の支配(政権の支配)」に他ならない。このやみくもな辺野古埋立て工事の強行に対し、オキナワは闘っている。ジュゴン、サンゴ、生物多様性など自然環境保護を盾に、また軟弱地盤、活断層など土木建設工事の技術的問題を盾に、さらに沖縄戦の地中等に眠る遺骨混じりの沖縄本島南部の土砂を盾に、オキナワが闘っているのである。翁長雄志知事の埋立て承認取消、承認撤回、その遺志を継ぐ玉城デニー知事の埋立て承認撤回の取消裁決(国交省)に対する訴え、埋立て設計変更不承認、いずれも民意はもちろんのこと、公有水面埋立て法の趣旨や上記の自然環境、土木技術をはじめ、地理的・歴史的要素をしっかりと盛り込んだ理のある内容であった。

石垣市長選の争点の一つに自衛隊基地建設にかかる住民投票の実施が挙げられていた。石垣市自治基本条例の規定では、住民有権者の3分の1以上の署名で、住民投票を実施しなければならないことになっていた。自衛隊基地建設をめぐり、若者を中心に3分の1を優に超える1万4千筆もの署名を集めたが、現職の市長は住民投票を実施しなかった。対立候補は署名した住民の権利を主張し、住民投票の実施を公約に挙げていた。市長選は現職の4選という結果に終わってしまったが、相も変わらず、この日本最南端の
市でも民意を問うことなく、自衛隊基地建設が進んでいるのである。

すでにある沖縄本島の自衛隊ミサイル基地に加え、辺野古新基地建設も宮古、石垣の自衛隊ミサイル基地建設も、与那国島のサイバー戦部隊配備も、かつての沖縄戦軍事戦略の元となったオレンジ作戦でいうところの、太平洋の島々を島伝いに北上し、日本の首根っこを押さえる作戦にハマってしまう。現在の沖縄における日米軍事同盟の南西シフトの展開は、わざわざ、首根っこを押さえつける誘い水となりかねない形であって、構図的には、沖縄戦のフォーメーションを採っているといってよい。

3月2日、参議院本会議において「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」が圧倒的賛成多数で可決された。反対は令和新選組のお二人。起立採決のため、反対は着席となるが、筆者は棄権するため、たった一人本会議場を退場した。最前列の議席から退場する際、多くの議員らの視線が突き刺さった。

ロシアのウクライナ侵攻は断じて許せないとすることを問題にしたのではない。この決議の持つDNA(潜在する性格)に強い問題性を感じたのである。「力による一方的な現状変更」を非難し、「アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがしかねない極めて深刻な事態」として、中国への警戒感を滲ませる。住民の民意を蔑ろにした、あるいは問わない、大規模な基地建設強行やミサイル基地配備等は「力による一方的な現状変更」ではないのか。そして、突然台湾有事を想定するようなアジア危機を持ち出すのは、南西シフトの正当化の口実にするのではないか。仲介でも、仲裁でも、和解でも、調停でもあらゆる平和的手段を徹底的に講ずることを何度でも強く訴える。それが平和憲法の国、日本に対する世界からの期待、希望ではないのか。残念ながら、現在、むしろ日本が敵基地攻撃能力の対象と想定している国の一つであろう中国が、国際的にはロシアとウクライナの仲介をしてくれると期待されている。何とも皮肉なことであり、日本政府に失望を禁じ得ない。逆に緊張をあおるかのように、ロシアのウクライナ軍事侵攻問題の構図を沖縄に作り出そうとしていることに目を向けなければならないであろう。

「良識の府」の参議院の決議があらぬ方向に展開するやもしれない。強い懸念を抱いた上での「棄権」であったが、「唯一の被爆国として非難する」という文言も入っていたロシア非難決議は、今や核共有や敵基地攻撃能力が飛び交う国政の議論へと「シフト」しようとしている。




関西共同行動ニュース No90