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「物価偽装」による生活保護基準引き下げを争う、いのちのとりで裁判

小久保哲郎【生活保護基準引き下げにNO!全国訴訟ネット/弁護士】

■大阪地裁が断罪した 生活保護基準引下げのデタラメ

2021年2月22日、大阪地方裁判所の大法廷で歴史的な判決が言い渡された。2013年からの史上最大の生活保護基準引下げの違法性を問う「いのちのとりで裁判」において、第2民事部(森鍵一裁判長)が、引下げ処分の取り消しを命じたのだ。基準生活費ともいわれる生活扶助基準(生活費部分の基準)の設定について、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用が認められたのは、著名な朝日訴訟の1960年10月19日東京地裁判決から60年以上ぶりのことである(注1)。

(注1)いのちのとりで裁判の詳細、大阪地裁をはじめとする各地裁判決文全文等については、「いのちのとりで裁判全国アクション」HPをご参照いただきたい。ブックレット「だまってへんで、これからも~大阪地裁勝訴判決への軌跡~」(全140頁、600円)も同HPからご購入いただけます。

総額670億円の削減のうち9割近い580億円は「デフレ調整」といって物価下落を理由になされた。この「デフレ調整」について、大阪地裁は、①特異な物価上昇が起きた2008年を起点とした点、②厚生労働省が「生活扶助相当CPI」という独自の指数を作出し、消費者物価指数の下落率(2.35%)よりも著しく大きい下落率(4.78%)をもとに改定率を設定した点において、「統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性」を欠き違法と判断した。

そもそも、現行の生活保護基準の改定方式(消費水準均衡方式)は物価の本格的考慮を否定しているのに、厚生労働省は、後にも先にもこの時だけ物価を考慮した。しかも、「生活保護基準部会」という専門家の審議会の意見を聞くことのないまま、全く独自の指数を作り上げて4.78%もの異常に大きな下落率を導いたのである。私たちは「物価偽装」だと批判してきたが、その余りのデタラメぶりが裁判所によっても認められたのだ。

■保護基準引下げの背景にある 「新自由主義的福祉改革」

2012年春、人気お笑いタレントの母親の生活保護利用を自民党の片山さつき議員らが問題視したことを契機に「生活保護バッシング」ともいえる報道が過熱した。その余波で同年8月、自助・共助を基本とし社会保障費抑制を志向する「社会保障制度改革推進法」が成立し、その付則に生活保護制度の見直しが盛り込まれた。同年12月の総選挙で自民党は、「生活保護基準の10%削減」を公約に掲げて政権に復帰し、翌2013年1月、いの一番に決めたのが史上最大(平均6.5%、最大10%)の生活保護基準引下げだった。

1996年からの〝アメリカ福祉改革〟に先立っては「福祉女王(ウェルフェアクイーン)」が、2013年からの〝イギリス福祉改革〟に先立っては「チャヴ(労働者階級の若いゴロツキ)」がやり玉に挙げられたことに見られるように(注2)生活保護制度(又はその利用者のモラル)をバッシングすることは新自由主義的福祉改革の常套手段である。

(注2)オーウェン・ジョーンズ「チャヴ~弱者を敵視する社会」海と月社参照。

その意味で、いのちのとりで裁判は、「生活保護バッシング」と「物価偽装」という卑劣な方法で推進されている我が国の新自由主義的福祉改革という政策の根幹に挑む闘いである。訴訟においても、私たちは、「生活保護基準10%削減」という自民党の政権公約実現のため結論先にありきの「動機の不正」によるもので裁量権の逸脱・濫用があると主張してきた。

■司法の職責を放棄する「コピペ判決」の山

大阪地裁判決より前に名古屋地裁(2020年6月)で、大阪地裁判決より後に札幌地裁(2021年3月)、福岡地裁(同年5月)、京都地裁(同年9月)、金沢地裁(同年11月)でそれぞれ判決が言い渡されている。残念ながら、これらの判決はいずれも請求棄却であるが、内容的には前の判決を見比べて継ぎはぎした「コピペ判決」である。福岡地裁判決には「NHK受診料」という誤字があるのだが、その後の京都地裁、金沢地裁判決は、この誤字までそのままコピペしている。

驚いたことに、初戦の名古屋地裁判決は、今回の引下げが自民党の政権公約の影響を受けたことを認めながら、それは「国民感情や国の財政事情を踏まえたもの」だから「考慮できることは明らか」とお墨付きを与えた。被告国は、「自民党の公約実現目的」という原告側の主張を否定し、それが「国民感情や国の財政事情を踏まえたもの」といった主張も立証も一切行っていないのに、である。さらに唖然とすることに、名古屋に続く4つの敗訴判決群も、トーンの強弱はあれ同様の判断を示している。

行政(厚生労働大臣)が、法律(生活保護法8条等)ではなく政権党の公約に従って保護基準を決め、司法までもがそれを追認する。この国の三権分立は一体どうなってしまったのか、司法はこれでいいのか!?と思わざるを得ない状況である。

■判決ラッシュに注目とご支援を

その中でも、大阪地裁判決は、判断すべきことから逃げずに判断し、司法の矜持を示した。

いのちのとりで裁判は、全国29地域で30の訴訟団、1000人を超える原告によって闘われており、地裁、高裁で全部で60の判決が言い渡されることになる。これまでに6つの地裁判決が出たので、残りは54である。

私は、ことあるごとに「今回の引下げは余りに酷いので、裁判所に勇気さえあれば勝たなければおかしい事件だ」と話してきた。今後、大阪地裁同様に司法の矜持を示す判決が2つ、3つと出てくる可能性は十分にあるし、そうしていかなければならないと考えている。

2021年12月16日には神戸地裁で、2022年3月7日には秋田地裁で判決が予定されており、その後も判決ラッシュが続く。ぜひ訴訟の行く末に関心をお持ちのうえ、ご支援をいただければ幸いである(注3)。

(注3)署名やカンパも募っているので、ご支援いただける方は、「いのちのとりで裁判」HPにアクセスをお願いいたします。




関西共同行動ニュース No89