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米中対立の東アジアと日本 ~戦争回避と護憲の課題~(講演録) 
柳澤協二【新外交イニシアティブ理事】




「2021関西のつどい」での柳澤協二さん(国際地政学研究所理事長・内閣官房副長官補などを歴任)の講演要旨です(文責/齋藤郁夫)。


米国の高官が、2027年までに台湾有事があると発言。4月には菅総理が訪米して52年ぶりに台湾に言及した共同声明が出され、にわかに台湾が米中対立の焦点になってきた。

台湾をめぐる米中対立―何が心配か?次の4点だ。①戦争回避の条件が失われている。②米中戦争は日本を巻き込む。③米中が望まなくても戦争は起きる。④戦争を知らない政治家が国を動かしている。

この4点について話したい。

■『中国は一つ』が揺らぐ

国民党軍は内戦敗北後、政府を台湾に移し戒厳状態で統治したが、米国は反共の防波堤として台湾を支持。1996年台湾総統に民間人の李登輝が選ばれると、民主主義のシンボルとして支持した。一方、中国政府はいまだ内戦の継続と考え、台湾を中国に統一するという国家目標を捨てていない。米国はそれを許せないが、戦争がないままここまで来ている。

バランスが揺らいでいるその背景には、軍事バランス・政治的コンセンサス・経済問題がある。90年代まで米国が圧倒的に優位だった軍事バランスは、その後中国軍の急速な軍拡と近代化で崩れてきている。政治的側面では、72年に米中国交回復が成り、政治的合意(『中国は一つ』を米国は反対しない&台湾の独立を支持しない)がなされた。その合意がトランプ政権以来ゆらいでいる。

さらにその背景には、台湾の人々の独立志向(特に2019年の香港の弾圧以来)がある。統一を支持する人は多くて一割。米国議会は台湾の国際機関加入を支持する法律を通した。『中国は一つ』がもろいものになっている。

とはいえ、馬英九政権時代の中台の経済的関係は通商・通航・通郵という形の経済交流があった。現在は、台湾がもっている高性能半導体(世界シェアの90%)供給網を止めることで、中国ファウエイの生産が停滞するという問題が生じている。

■射程内で戦う

米国の軍事戦略としてのエアシーバトル(2010年~)は、中国のミサイルの射程外から中国に報復するというもの。軍事バランスが崩れたため、米国の新作戦構想(2020年3月)では、射程内で闘う戦略に変わってきている。そのため日本が戦場になる。現在米国は中距離弾道弾を持っていないので、今後その開発と配備を急ぐことになるが、日本がミサイル軍拡の舞台になる。

■日本が標的に

米中戦争では、米国は日本を拠点にしなければ戦えない。ミサイルは攻撃優位の武器だから、先制攻撃の誘惑に駆られる。中距離ミサイルの射程は、東京・北京間、北京・グアム間の距離で、米本土には届かない。ミサイル配備に日本は「NO!」といえるのか。米国を優位にするための中距離ミサイルの日本を舞台にした軍拡競争が始まる。安保法制法が成立した今、日米軍事一体化の下で自衛隊基地が標的になる。

■チキン・ゲーム

米中の相互不信があれば、双方とも途中で引くわけにいかず、引けば、米国は同盟国の信頼性を失い、中国は共産党支配の正当性を失う。小さな衝突が望まない戦争に拡大する。これを《安全保障のジレンマ》・《同盟のジレンマ》という。つまり、米国に頼れば安全という構図ではなくなった。

米国は少しずつ台湾支援を強化し、対する中国は軍事的威嚇をし、不満を表明する。それは、双方が相手の限界を試すチキン・ゲームだ。歴史的事例では、第1次大戦に発展した1915年サラエボ事件。もうひとつは1962年キューバ危機。キューバの場合、ソ連が我慢してデタントにつながった。そのときの政治指導者により、いずれもがあり得るだろう。

■戦争を知らない政治家たち

問題は、戦争を知らない政治家が国を動かしているということだ。この発言を見よ!『ミサイルを置けば抑止力になり、ミサイルは飛んでこない』―のではなく、ミサイルを置けば標的になる。『台湾有事なら日本は台湾を防衛する』とは、中国と戦争するということだ。『敵基地攻撃は有力な手段』・『EMP(電磁パルス)攻撃が出来ればいい』とは、上空で核爆発を起こし、その時発生する電磁波を使うことだ。それを知った上で言っているのか?

『国の名誉を守る』というがこの「名誉」とは何だ?この文言が自民党の選挙公約に入ったが、相手にも名誉がある。名誉は最大の戦争要因だ。戦争とは双方がどれだけ被害に耐えられるかということだ。戦争をどう終わらせるかのビジョンを持たずには戦争は出来ない。

■抑止力?

抑止力という言葉がある。先制攻撃力の高い兵器の意味か?そのようなものはない。技術的にミサイルを迎撃できないなら、相手が撃つ前にたたくというのが敵基地攻撃論だ。

しかし100%たたくのは不可能。必ず報復攻撃がくる。どこをたたくのか。相手のミサイルが日本向けであると判断できるのか。それは不可能だ。したがって、敵基地攻撃とは、つまりフツーの戦争をするということだ。

戦争には動機がある。自分がやられるという恐怖が動機だ。だから、動機をなくせばミサイルは来ない。今の政治家の発言レベルが低い。政治家が学ぶべき「抑止の常識」は次のことだ。抑止で重要なのは兵力数ではなく、相手の認識と意志をどう知るかだ。相手の動機が強ければ抑止は破綻する。第2次大戦の時のABCD対日包囲網(対日石油禁輸と在外資産凍結)と真珠湾攻撃がいい例だ。戦争せずに核心的利益が守れるかどうか。これを《安心供与》というが、安心供与があればあえて戦争する者はいない。

中国の場合、それは台湾独立の否定である。日本の論議にはこれが欠けている。

■愚かな戦争をしないための 憲法前文の実践

優秀な人たちが時に愚かなことをする。アフガン戦争は米建国史上最長の戦争で、米国の力と民主主義への過信があった。湾岸戦争の時、2佐の自衛官が私に言った言葉を思い出す、「訓練が役立つときは国民が不幸、訓練が役立たないことを願う」と。まさにその通りだ。

憲法九条を守る。九条にはしてはいけないことが書いてある。では何をしたらいいのか?それは憲法前文に明確に書いてある。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し、全世界の国民が恐怖と欠乏から免れ、平和に生存する権利を有する。自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」これを実践することだ。

中国にも米国にも、戦争回避を訴え、尊敬される大国になることを促す。日本は専守防衛に徹した自衛隊の運用をすべきである。




関西共同行動ニュース No89