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【巻頭言】 土地規制法を廃止しよう! 中北龍太郎

6月16日未明、自衛隊基地周辺などの土地の利用を規制する法律(土地規制法)が成立しました。政府・与党は、野党の反対を踏みにじって数の力で押し切りました。しかし、この法には、揺るがせにできない数々の問題点があります。

法は、昨年7月安倍政権が「安全保障等の観点」を理由に打ち出したもので、菅政権が引き継いで国会に提出し、自民党保守派が強く成立を求めてきました。この法で政府は、自衛隊や在日米軍の基地、原発(重要施設)などの周辺や国境近くの離島で土地や建物の利用状況を調べ、施設の機能を阻害する行為に懲役を含む罰則つきで中止を勧告・命令でき、土地収用もできるようになります。しかし、規制対象となる区域、調査の範囲や機能阻害行為は、政令に大部分白紙委任しており、時の政権によって安全保障を口実に濫用される強い危険があります。

■規制区域、調査範囲

まず、規制の対象地域です。法では「重要施設」の周囲1キロや国境離島を「注視区域」に指定し、土地・建物の利用状況や持ち主などを調べることができます。司令部機能がある自衛隊基地など特に重要な地域は「特別注視区域」とし、土地・建物を売買する際事前に氏名や利用目的の届け出が義務づけられます。

国会審議で政府は対象地域のリストを明らかにせず、どこに住む市民が調査の対象になるのかさえ不明のままです。基地1か所だけでもぼう大な住民・通勤・通学者などに大きな影響を与えます。また、自衛隊が共有する空港、鉄道や放送局などへの拡大も懸念されます。鉄道の駅が対象となると、東京23区全域を監視対象にできるようにもなります。防衛省のある市谷が「特別注視区域」になると、東京のど真ん中で事前届け出が必要ということになります。なかでも、米軍専用基地の7割が集中し全域が国境離島にあたる沖縄県は、全県民が監視対象になりかねません。

次に、利用状況の調査も、その対象者や中身がはっきりしていません。対象となるのは、会社の従業員、ホテル・飲食店の従業員・客、病院・福祉施設の職員・入所者など、土地・建物を利用するあらゆる人が入る可能性があります。しかも、調査対象者に1キロの縛りはなく、関係者だと見られれば地理的範囲は際限なく広がります。調査の範囲は、職業、活動歴、思想信条、所属団体、交友関係などあらゆる情報が収集される危険もあります。土地等の利用者・関係者に報告や資料の提出を求めることができるとされ拒否すると処罰されることから、個人情報の提供を強いられ密告が奨励されるおそれもあります。調査の方法に限定はなく、尾行を含めた行動監視もできます。自衛隊、公安調査庁、警察なども調査できることから、これら機関に基地・原発に反対する住民が常時監視されることになります。



■機能阻害行為

機能阻害行為は、「防衛関係施設を防衛するための基盤としての機能」「有人国境離島の領海保全に関する活動の拠点としての機能」を阻害する行為と定義されていますが、これでは余りにも曖昧であり抽象的です。阻害行為という文言も広範に過ぎ、定義の体をなしていません。しかも、機能を阻害するおそれがあるだけで、行動を規制することができるようになっています。これでは、基地の建設に反対する市民運動や基地監視が厳しい弾圧にさらされかねません。こうした事態も法の内容が余りにも白紙委任的になっているからです。

勧告や命令に従うとその土地の利用に著しい支障が生じる場合、所有者から総理大臣に対し買い入れを申し出ることができ、総理大臣は買い取るものとされています。これは事実上の強制収用といえます。また、国家安全保障上特に必要と認めるときは、国が収用できることにもなっています。

日本側に返還された沖縄本島北部の米軍訓練場跡地に多量の廃棄物が残されていることを継続して指摘してきたチョウ類研究者宮城秋乃さんの自宅が沖縄県警によって威力業務妨害容疑で家宅捜索されました。宮城さんからの通報を受けた県警はこれまで廃棄物を回収してきましたが、ある時期を境に回収に来なくなったので、宮城さんは仕方なく発見した米軍の廃棄物を米軍訓練場のゲート前におきました。この行動が威力業務妨害容疑にあたるというのです。これは、県警が廃棄物を置いた行為を機能阻害行為と認定したからです。何が機能阻害にあたるかは、認定する側のさじ加減一つであることを示した悪しき前例であり、法を先取りするものです。

映画「この世界の片隅に」の中で、主人公すずが呉湾に停泊している艦船をスケッチしていたところ、憲兵に見つかり怒られるシーンがあります。これは呉湾が要塞だったからです。戦前の要塞地帯法は、国防を理由に要塞の一定距離内を要塞地帯として指定し、この地域において立入り、撮影、模写、測量、築造物の変更、地形の改造、樹木の伐採などを禁止・制限し、罰則を設けて厳重に保護していました。法は要塞地帯法の再来です。

■法の狙い

法は、重要施設の周辺土地を外国人が買っており、国家安全保障上容認できないという議論から出発しています。しかし果たして、法の必要性を根拠づける立法事実はあるのでしょうか。2013~17、17~20年度に自衛隊・米軍関連施設の隣接地約6万筆を調査していますが、所有者が外国人あるいは住所が外国にある土地はわずか7筆しかありませんでした。法の骨格を決めた有識者会議の提言では、千歳基地や対馬防衛隊の周辺で外国資本が土地を買ったとの風評があり不安が広がっているとありますが、調査の結果どちらもそうした例は確認されていません。このように法には必要性がなく立法事実に欠けています。

法は、安倍自公政権が成立させた秘密保護法、安保法制、共謀罪などとつらなる戦争する国づくりの一環に外なりません。国民を監視する一方で、国民が軍隊を監視することを禁止しており、国民主権を否定しています。法は、安全保障や軍事目的のために、個人の自由や権利を大幅に制限することになります。

今後は、平和と人権保障の立脚点に立って、地方自治体に協力を拒否させるなど、具体化を許さない取り組みが重要となります。そして、法の廃止をめざしましょう!







関西共同行動ニュース No88