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4/25止めよう改憲!おおさかネットワーク講演会より

日本学術会議会員の「任命拒否」を問う 【立命館大学 法務研究科教授 】 松宮孝明

松宮孝明さん(立命館大学教授)は日本刑法学会理事であり、共謀罪の創設を含む改正組織犯罪処罰法についての参議院法務委員会の参考人質疑(2017年6月)では、同法を「戦後最悪の治安立法」と批判しました。

以下は講演の要旨です。(文責齋藤郁夫)。

■コロナ対策と任命拒否は同根

学術会議の会員に推薦されながら任命されていない問題のもつ深刻な本質について話をしたい。学術会議会員の任命拒否とコロナ禍対策の失敗は、同根の問題だと思います。GOTOキャンペーンと五輪開催にこだわり、コロナ対策は後手後手に。それについて国民に説得的な説明ができない菅首相、その背景には専門家軽視と「耳の痛い話」を聴かない態度があります。

任命拒否が明らかになり、学術界だけでなく法曹界・映画界・文学・芸術界などから、政府と首相の対応を批判する声が上がりました。問題は学問の自由だけでなく思想・良心の自由や表現の自由全般に関わる問題です。でも、拒否の理由について説明はなく、必要な情報を国民に提供しません。ワクチン接種も後手に回りながら、政権のために五輪中止は決定したくないということなのでしょう。

ワクチン接種は国民のわずかに2%、医療関係者を優先するとしていた接種は未だ終わっていないのに、高齢者に接種をするというリスクのあるやり方が行われています。ファイザーのワクチンもいつ確保できるかは不透明。なぜ?詳しい説明は何もありません。NHKが毎朝聖火リレーをライブで放映、大阪では万博公園太陽の塔の周りでの聖火リレーを長々とライブで放映していたのには、正直情けなくなりました。

■事務局長から「任命簿に名前がない」

さて本論の任命拒否のことですが、話を半年前に戻します。私と学術会議の関係は、08年秋、連携会員に任命(任命は会長)されたときからです。それ以来12年間、刑法学者として仕事をしてきました。例えば、日本の法学教育や国際化・法学と心理学の連携(えん罪事件の場合の自白や目撃証言の信用性、被害者が子供の場合の供述の取り方)・自動運転の実用化の際の法律の観点からのチェック点などについてです。自動運転については提言をしました。そして、学術会議から、次の会員に推薦されました。

学術会議総会(昨年10月1日)の前に任命式がありますが、その2日前つまり昨年9月29日に学術会議の事務局長から電話があり、会員に推薦されているのに任命簿に名前がないことを伝えられました。「何かの間違いではないか」と事務局が官邸に問い合わせたら、「間違いではないが、理由は言えない」とのこと。私は「そんな違法行為ができるわけがない」とフェイスブックでコメントしたことで、マスコミの取材を受けることになりました。

政権は軍事研究への抵抗を排除するための布石を打ってきたと思われます。「言うことをきかない公務員には辞めてもらう」と学術会議の会員推薦者6人を外したことで、学術会議に影響を与えて会議をコントロールすることを狙ったものです。

政権は、理由のない任命拒否の違法性は明らかなので、世間が問題に気付かないように組織的にデマを流しました。学術会議会員は年間250万円の終身年金をもらっているとか、中国との軍事研究を学術会議が共同でやっているとかなどです。

■日本学術会議法

そもそも学術会議は何をするところでしょうか。日本学術会議法(1948年7月に成立)は、前文をもった格調高い法律です。「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、我が国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と連携して学術の進歩に寄与する」とうたわれています。「日本社会」といわず「人類社会」と言っているところがすばらしい。

この法律では、「学術会議は内閣総理大臣の所轄で、経費は国庫の負担、学術会議は政府から独立して科学に関する重要事項を審議し研究する。政府は科学の研究や試験等の助成・科学振興のための交付金や補助金の配分について諮問、また学術会議は科学の研究成果の活用や科学研究者の養成に関する方策などを政府に勧告することができる」とされています。ところで、大臣の諮問機関の人選では、大臣に耳の痛いことを言う人を選ばない傾向があります。

例えば法制審議会。共謀罪法案は同審議会に2002年に諮問されていますが、当時法制審は政府の思うとおりの「準備行為を要しない共謀」を処罰する答申を出しました。近代刑法では客観的に有害な行為しか罪に問えないはず。ゆえに、不十分ではあるが、出来上がったのは、法制審議会の答申とは異なる「準備行為を要する共謀罪」となりました。また、国際条約批准のための共謀罪といわれましたが、それはすでに国内法で十分整備されています。

■学問の自由と軍事研究

学術会議法第7条では、「会員は推薦に基づいて内閣総理大臣が任命、会員の任期は6年、3年ごとにその半数を任命する」と明確に書いてあります。「任命することができる」ということではありません。会員は、優れた研究又は業績のある科学者の中から会員候補者を推薦するとなっています。

学術会議は、創立の時から、戦争を目的とする科学研究には従わない決意を表明してきました。それは、前身の組織が戦争協力をしてきたことの反省の上に学術会議がつくられているからです。

研究内容の自由も研究発表の自由も学問の自由の一角です。軍事研究についての学術会議の声明(2017年3月)では、防衛装備庁の『安全保障技術研究推進制度』について、「研究者の自主・自律性、研究成果の公開性を担保することが必要」だと述べていますが、「応募するな」と言ってはいません。しかし応募することでその研究が「学問の自由を保障できる」のか、ということです。

「好きなことやって何が悪い?」という意見もあります。個々人は、社会に役立つという前提で研究する必要はありませんが、学術会議としては、その視点は大切です。自由に研究発表し、学問で得た成果を世界の人々の幸福に役立てることも学問の自由に属します。若手の研究者(大学の助教・講師、場合によっては准教授も5年契約)は、研究成果が自由に発表できないと職が保証されません。軍事研究では、研究成果の発表の自由がなくなります。守秘義務を伴う研究を若手研究者養成が使命である大学でやらせてはいけません。「この件については慎重にしてほしい」と学術会議が要請するのは当たり前のことです。

一般研究の予算を削って、軍事研究に予算をつけるのはおかしい。研究成果は広く公開して軍需・民需いずれにも利用できるようにしておくべきです。大学の研究者も含め、軍事研究に動員しようとして防衛装備庁に多額の予算をつけたのが安倍―菅政権です。研究者は、軍事予算に手を染めてしまったら、軍事研究の中で生きていくしかなくなります。

今の日本では、すぐ役立つことにしかお金が出ません。自民党PTのいう学術会議改革と任命拒否問題とは筋違いの問題です。学術会議は予算が足りません。会員・連携会員に支払われるのは、一人月1万9千円です。これでは東京出張の交通費にもなりません。元学術会議会長だった有馬朗人さんは生前、大学を独立行政法人にしたことを悔やんでいました。「大学の自由の拡大のためを思ってやったのに、結果は逆になってしまった」と。



■勝手な憲法解釈は許されない

日本は法治国家と言いながら、憲法15条1項(公務員の選定・罷免)、65条(行政権は内閣に属する)、72条(内閣総理大臣の職務)を勝手に解釈して、暴走しています。しかし、15条1項には、「公務員の選定・罷免は国民固有の権利である」と書かれています。また、73条には、内閣の職務として「法律を誠実に執行すること」とあります。

しかし、学術会議問題で官邸はこうした法律を守っていません。憲法15条1項に対して、「意に沿わない人物は任命しないことができる」という態度をとり続けるなら、裁判官や国立大学の学長のような役職についても、今後政権の意向に沿った人間でないと任命しないということが可能になります。

このような解釈は、憲法15条1項をナチスドイツの全権委任法※に変えてしまうものです。これは放置できない大問題です。

※最も「民主主義的」と言われたワイマール憲法であったが1933年、ナチスドイツは国家の非常事態を捏造してその隙を狙い「議会から立法権を政府に移譲し、ナチ政府の制定した法律は憲法に背反しても有効とする」法律=全権委任法を成立させ、ナチスに逆らう者に「公益を害する者」というレッテルを貼り、人権を剥奪することを合法化することで、実質的に憲法を無効化した(編集者注)。





関西共同行動ニュース No87