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ミサイル戦争の実験場と化した琉球弧  【軍事ジャーナリスト】 小西 誠

■フェイクとしての「尖閣有事」「台湾有事 」

今年4月の日米首脳会談以来、凄まじい「尖閣有事」「台湾有事」キャンペーンが、メディアを巻き込んで始まっている。しかし、冷静に考えれば、この内容がフェイクであることは明かだ。例えば、自衛隊の奄美大島へのミサイル部隊配備は、尖閣とは全く関係がない(尖閣まで約800キロ)。陸自は、今秋14万動員という戦後最大の「南西演習」を予定しているが、岩山ばかりの尖閣など、数十人の上陸で手一杯。「領土ナショナリズム」を鼓吹すれば、軍拡を煽れるという典型的なフェイクである。

では、「台湾有事」はどうか。常識的に考えると、中国が台湾に侵攻し米中が軍事衝突すれば、西太平洋全域を巻き込む世界大戦に発展、世界経済は崩壊する。米中日の経済的相互依存関係をみれば一見明白。この点では、経済的相互依存の関係になかった米ソ冷戦態勢とは明らかに異なる。

それにしても、なぜ今アメリカは、「台湾有事」をことさら煽っているのか?今年3月、インド太平洋司令官デービットソンは、「6年以内に中国が台湾侵攻」と米議会で発言している。実は司令官のこの後の議会発言に意図が明確に表れている。「台湾有事」対処のために「地上配備型を含む長距離精密ミサイルが必要」と。このミサイルこそ、米海兵隊・陸軍が、第1列島線上に配備予定の地対艦・地対空ミサイル、地上発射型トマホーク、中距離弾道ミサイルなどだ。そして、第1列島線での増強のために、インド太平洋軍は、米国防予算とは別に2027年までの6年間で約3兆円の要求を行っている(太平洋抑止構想PDI)。

また、アメリカのここ数年の台湾への武器売却を見れば、その意図はもっと明白だ。昨年アメリカは、総額42億ドル、ここ4年間では約1兆8千億円もの売却、台湾の年間軍事予算1兆3千億を上回る。

その売却武器は、対艦ミサイル・ハープーン400発・地上発射装置100基などだ。ハープーンといえば、海自も装備する艦対艦ミサイルだが、これは地対艦の改良型。これをどこで使用するのか?台湾海峡を挟んで中国に向けて!それもある。だが重点配備は、フィリピンとの間のバシー海峡だ。つまり、第1列島線の海峡戦争を制するには、アメリカは、琉球弧への地対艦・地対空ミサイル配備だけでなく、その南の配備態勢をとらねば海峡封鎖は完結しない。いわば、琉球弧のミサイル防御帯は自衛隊が、それ以南のバシー海
峡、シンガポールに至る海峡封鎖は、米海兵隊・陸軍のミサイル部隊が担うというわけだ。

見ての通り、「台湾有事」論で目論まれている事態は、琉球弧=第1列島線の海峡封鎖戦略であり、島嶼戦争―海洋限定戦争戦略である。結論すれば、これらの第1列島線上に配備する米軍の地対艦・地対空ミサイル部隊、トマホーク(地対艦・地対地の改良型)、中距離弾道ミサイルという、凄まじいミサイル戦争態勢づくりのために、「台湾有事」の一大キャンペーンが始まっているということだ。

歴史は繰り返す。80年代の「シーレーン防衛論」を覚えているだろうか。この時代、81年の鈴木首相(当時)訪米では「グアム、フィリピンに至る1千カイリのシーレーン防衛」をアメリカに約束してきた。その1千カイリの先はどうするのか?貿易立国であり、世界にシーレーンを張り巡らす日本が、シーレーン防衛など出来るわけがないことは、あのアジア太平洋戦争で「石油の一滴、血の一滴」として辛酸をなめ尽くしてきたはずだ。



しかし、「日本人はエネルギーを守る」と言えば、何にでもなびくとして(当時の米大統領顧問マイケル・グリーン)、首相だけでなく海自の最高幹部陣までフェイクにかけ、「シーレーン防衛論」を口実とした、海自に対潜哨戒機(P3C)100機態勢という途方もない、米海軍のいびつな補完戦力を作り上げさせた。この目的は、ソ連太平洋艦隊の司令部ウラジオストークを宗谷・津軽・対馬の3海峡で封鎖し、ペトロパブロスクを拠点とするソ連原潜(SLBM=潜水艦発射弾道ミサイル搭載)をオホーツク海に封じ込める、日米共同作戦態勢であった。

地図を見てほしい。今述べてきた「シーレーン防衛論」―「三海峡封鎖」という自衛隊の北方シフト態勢と、琉球弧の海峡封鎖―第1列島線封鎖の南西シフト態勢である。つまり、日米の南西シフト態勢は、北方シフトを南西シフトに転換しただけである。始まっている事態は、中国を第1列島線―東シナ海に封じ込める軍事態勢作りである。これが、新冷戦という対中封じ込め戦略であり、海洋限定戦争態勢だ。このために日米は、日米豪印のクワッド(4ヶ国協議)を始め、英仏加独の海上部隊まで動員する対中包囲態勢を敷こうとしている(安倍前政権のインド太平洋戦略)。

■琉球弧に自衛隊のミサイル防御帯

そして今、急ピッチで進んでいるのが、九州から与那国島に至る、琉球弧―第1列島線の島々に沿う自衛隊ミサイル部隊を中心とする、大がかりな新基地建設―配備計画だ。この南西シフト態勢の中で、いち早く配備されたのは、日本の最西端・与那国島。台湾まで約110キロという距離にある与那国島は、台湾との間の海峡を頻繁に中国の軍民艦船が行き来する。この与那国島の山頂に5基、異様な風景で聳えているのが、陸自沿岸監視隊160人(2016年3月配備)の部隊であり、沿岸監視レーダーサイトだ。

与那国島の東隣、石垣島には、陸自の対艦・対空ミサイル部隊、警備部隊計約600人が配備される予定。同島では、宮古島・奄美大島よりもかに遅れて、2019年3月に基地造成工事が始まった。しかし、石垣島では、ミサイル基地に反対する住民の激しい抵抗が起きた。基地建設の発表以来、予定地・平得大俣地区の農民らの大多数はもとより、石垣市民の中にも根強く反対が広がっていく。これは、基地建設の是非を問う、住民投票を求める闘いへと発展している。防衛省は2023年までにミサイル基地を完成させると発表しているが、住民の激しい闘いは続く。

また、ミサイル基地建設に今なお激しい抵抗を続けているのが、宮古島だ。宮古島は、2019~2020年中に約800人の陸自の地対艦・地対空ミサイル部隊、警備部隊が配備された。だが、宮古島のミサイル部隊は、未だに「ミサイルなし」(弾なし)の部隊だ。というのは、この対艦・対空ミサイル弾体を保管する弾薬庫が未だに完成していない。ミサイル弾薬庫は、宮古島南西端の保良地区に造られつつあり、今年4月に弾薬庫の運用開始が通知されたが、予定の3棟のうち2棟だけの完成、1棟は未だに土地を買収できていないという状況だ。この原因は、地元保良住民の激しい反対運動が起こり、今なおゲート前で連日座り込みを続けていることによる。

さらに、19年3月、宮古島と同時に開設したのが、奄美大島のミサイル基地だ。ここでも警備部隊と地対艦・地対空ミサイル部隊が、奄美大島の3カ所、計550人規模で配備。同島の大熊地区、瀬戸内町節子地区だ。驚くべきは、瀬戸内分屯地に造られつつあるミサイル弾薬庫(約31ヘクタール)。山中にトンネル5本を掘ったこの弾薬庫は、それぞれが約250メートルの長さの巨大な地中式弾薬庫だ。完成は2024年。このミサイル弾薬庫には、別の作戦運用上(南西シフトの武器弾薬庫)の意味もある。

つまり、奄美―馬毛島(薩南諸島)は、南西シフト態勢下の、沖縄本島―先島諸島有事への、一大兵站・機動展開・訓練演習拠点として位置付けられたということだ。

このために馬毛島―種子島は、2本の滑走路を持つ航空要塞島(自衛隊統合基地)の建設が予定され、南西シフト下の兵站・機動展開・訓練の一大基地になろうとしている(米軍のFCLP=陸上空母離着陸訓練はその一部)。

そして、この態勢下、沖縄本島へは1個中隊の地対艦ミサイル部隊配備が計画(新中期防・2018年)されているが、ここで琉球弧の地対艦ミサイル「連隊」が完結。

この他、南西シフト態勢下では、九州の空自増強と日米共同基地化が進行、築城基地(福岡県)、新田原基地(宮崎県)の増強が同時進行している。両基地では、米軍供用の弾薬庫、駐機場等の工事が始まり、新田原基地は、馬毛島基地化とタイアップしたF‐35Bの基地化が発表されている。



こうして南西シフトによる新兵力配置は、先島―奄美の事前配備約2千200人、沖縄本島増強約2千人、水陸機動団約4千人で総計約8千200人。ここに沖縄本島の既配備部隊約7千人(2016年)が加わり、合計約1万5千人が事前配置に就く。

■ミサイル戦場と化す南西諸島

2018年新防衛大綱は「島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊」の新設を明記。この他トマホークの開発など、凄まじいミサイル戦争態勢が進行。また、米軍はINF(中距離核戦力全廃)条約を廃止し、この直後、琉球弧―九州への中距離弾道ミサイルの配備(非核戦力)を発表。同時に米海兵隊・陸軍もまた、第1列島線への地対艦・空ミサイルの配備を発表。こうして今、琉球弧への凄まじいミサイル配備が進み、これが対中国のミサイル軍拡競争へと発展しつつある。

この中で、琉球諸島の住民らは本土から孤立しながら、基地建設に抗し、必死の激しい抵抗を繰り広げている。私たち本土民衆は、再び沖縄を最前線とするこの戦争態勢づくりに黙するのか?今これが厳しく問われている。






関西共同行動ニュース No87