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【巻頭言】ストップ!対中対決型の大軍拡 中北龍太郎

なし崩し的に敵基地攻撃能力の保有が現実化されています。その根本的原因として、米国の対中敵視戦略とそれに追随する日本政府による自衛隊の攻撃軍への大転換があります。敵基地攻撃政策がさらにエスカレートしていくことが憂慮されます。今号は、そんなダークな日本の近未来を描きます。

■敵基地攻撃能力保有の現状

菅政権は、敵基地攻撃能力の保有が専守防衛原則からの決定的な転換にもかかわらず、世論の反発を恐れてその方針を決定しないまま、なし崩し的にその保有を現実化しています。

敵基地攻撃能力の保有とは、遠くから攻撃ができる装備を備え、中国や北朝鮮を射程におさめるということです。その具体例をいくつか見ていきましょう。



まずはミサイル(ミサイルとは、目標に向かって誘導されて進路を変え、自らの推進装置により飛ぶ兵器)です。昨年12月の閣議で、12式地対艦誘導弾の射程を大幅に延長し、敵基地攻撃に活用できるスタンドオフミサイル(敵の射程圏外から敵を攻撃できるミサイル)の国産開発が決定されました。2018年の防衛計画の大綱等により、戦闘機搭載のノルウェー製の射程500キロのミサイルの輸入を決め、さらに米国製で射程900キロのミサイル導入をめざしています。また、国産開発のミサイルの射程をなんと1500キロ、2000キロまで大幅に延ばす案まで浮上しています。しかも、高速滑空弾(一旦上昇し高高度に到達した後降下を始め敵基地を攻撃するミサイル)、極超音速誘導弾(音速時速約6000キロを超える速度で飛び、不規則に機動するミサイル)をも保有しようとしています。これらの長射程・変則型ミサイルは、他国に脅威を与える、まさに敵基地攻撃用に外なりません。

すでに、航続距離の長い空中給油機(飛行中の戦闘機に燃料を補給する飛行機)、戦闘機を指揮する管制機能を持つ空中警戒管制機(AWACS)が導入されています。今開発中の電子戦機は、妨害電波でレーダーや迎撃機をかく乱する敵基地攻撃になくてはならない航空機です。これらを爆弾投下のための精密誘導装置と結合すれば、米軍と同様のレベルの敵基地攻撃能力を持つことになります。決定済みの護衛艦「いずも」「かが」の空母化は、攻撃のためであり明らかに敵基地攻撃能力の保有です。両空母には射程500キロのミサイルを持つ戦闘機が搭載され、輸送機はオスプレイ(翼の両端に角度が変わる回転翼を持ち、垂直離着陸、空中停止、超低空飛行のできる航空機)で、その戦闘行動半径は600~1000キロに及びます。

昨年末の閣議決定で導入を決めた新型イージス艦(イージス艦は遠くの敵機探知、高度な情報処理、一度に多くの敵と交戦する能力を有するイージスシステムを備えた艦艇。日本の保有数は8隻で米国に次ぐ第2位)2隻に、防衛省はスタンドオフミサイル搭載案の検討を始めています。これにより、新型イージス艦は敵基地攻撃型になります。

軍拡の中心が高速で上空を飛ぶミサイルと、それを迎撃する対空システムに移っています。こうして、08年に宇宙基本法が制定され、宇宙の軍事化が始まりました。現在その目玉として米国とともに開発が進んでいるのが、衛星コンステレーション構想です。300~1000キロの低軌道に1千基以上の小型人工衛星を投入し、新型ミサイルを代わる代わる監視する方式で、切れ目のない情報収集ができるとされています。これが導入されれば、敵基地攻撃の装備体系がそろうことになります。現在の戦闘は、陸海空の領域ばかりでなく、宇宙・サイバー(コンピューターネットワーク)・電磁波といった新たな領域を組み合わせた領域横断作戦が重要とされています。宇宙等の戦場化が始まっているのです。

■水陸機動団―沖縄基地―南西地域

自衛隊が敵基地攻撃型装備への改編を急いでいるのは、日本が日米同盟を強化し中国包囲網の一翼を担っているからです。それには巨額の費用が必要で、現に21年度の防衛費は約5.5兆円で、過去最大となっています。しかも、防衛費の後年度負担=長期ローンの額もふくらんでおり、なんとその額は約6兆円に達しています。また、中国との対決を基軸にすると、尖閣列島を含む多数の島しょから構成される全長1200キロの南西地域にあって、沖縄はほぼ中心に位置し、沖縄は太平洋における戦略上要衝の地とされています。第1列島線(九州、沖縄、台湾、フィリピン等)が軍事上の焦点になり、自衛隊は沖縄―南西諸島にシフトするようになりました。

その中核を担うのが陸自の水陸両用作戦部隊である水陸機動団(水機団)です。18年創設の水機団は、長崎県佐世保市の相浦(あいのうら)駐屯地を拠点とし、海上から島しょ部に上陸して撃退・奪還することを主任務にしています。現在の人員は約2500人で、戦闘機や護衛艦の支援を受けて水陸両用車等による強襲上陸訓練を、陸海空が統合して実施しています。日本版海兵隊と呼ばれ、国内外で米軍と共同訓練を重ねています。水機団と連動して、空自の築城基地(福岡県)や新田原基地(宮崎県)の増強が進んでいます。水機団はいざとなれば沖縄―南西地域に急派されます。

沖縄における基地強化も進行しています。まず、自衛隊の大増強です。10年の約6300人から20年には約9000人に増大され、陸自は地対艦ミサイル部隊の配備計画を立て、海自は20機の対潜哨戒機配備を決定しています。水機団を沖縄に配備し、将来辺野古基地に米海兵隊と共同使用する案が検討されています。



南西地域の軍事化も着々と進められ、南西地域はミサイル拠点と化しています(小西氏の原稿参照)。こうして、島しょ奪還を目的とした水機団―沖縄―南西地域の軍事ネットワークがどんどん強化されています。敵基地攻撃能力が南西地域に集中されているのです。

■日米軍事一体化

中国を第1列島線に封じ込めることを眼目とする米国の戦略は、世界の経済覇権をめぐる対立に由来し、封鎖態勢を作って中国の海外貿易等の経済体制の遮断を狙ったものです。日本のインド・太平洋戦略は、この米戦略につき従うものです。自衛隊は、この戦略の下で島しょ戦争をにない、水機団と沖縄―南西地域に配備されたミサイル部隊が、第1列島線での対中戦争の先陣を切る役割を持っています。自衛隊と本命の米軍との共同作戦が展開されるのは、その後のことです。

共同作戦を遂行するために、日米軍事一体化がどんどん推し進められています。自衛隊と米軍は、日米安保体制の下、常日頃から様々な面で協力を強化しています。15年同盟調整メカニズムを設置し、平時から緊急事態までのあらゆる段階において、日米間の政策・運用面の調整、情報や情勢の共通化を行っています。米軍と自衛隊との共同訓練・演習は盛んに実施され、相互運用性、共同対処能力の向上が図られ、米国に部隊派遣も頻繁に行われています。ミサイルに対抗するための日米共同対処能力の向上、共同の情報収集・警戒監視・偵察活動、自衛隊の米軍に対する後方支援も進んでいます。

安全保障関連法=戦争法が施行されてから5年がたち、自衛隊の任務は大幅に広がり、日米の軍事一体化はさらに加速しています。自衛隊が米軍の艦艇や航空機を守る新任務である武器等防護は、17年に初めて2件実施され、18年に16件、19年14件でしたが、20年には過去最多の25件に増えました。こうして進む日米軍事一体化の究極のかたちが、自衛隊基地を米軍が共同使用し、在日米軍基地を自衛隊が共用するという事態です。辺野古米軍基地の共同使用などその時が次第に近づいています。

INF条約(1987年に米ソが結んだ、地上発射の射程500~5500キロのミサイル保有を制限する条約)をトランプ大統領が19年2月に破棄し、米国が開発した短・中距離ミサイルの配備先として沖縄・本土が浮上しています。このミサイルは攻撃型で、核弾頭も搭載できます。

今年3月にはオンラインでクァッド(米・豪・印・日)首脳会議が開催され、対中国包囲網戦略が確認されました。同じ月に東京で茂木外相、岸防衛相+ブリンケン国務長官、オースティン国防長官の日米安全保障協議委員会(2+2)が開催され、中国を名指しして、核の傘を含む日米軍事同盟の強化が打ち出されました。そして、4月の日米首脳会談で、台湾有事を想定した対中国共同作戦態勢づくりが確認されました。バイデン政権のタカ派政策がいよいよ本格化してきました。



再び沖縄―南西地域を戦争の最前線にする動きが強まる中、住民は粘り強く闘っています。私たちも、この闘いに支援・連帯を強め、戦争法廃止、憲法9条をいかす闘いを進めましょう。中国を敵視するのではなく、粘り強く対話と平和外交を進めましょう。






関西共同行動ニュース No87