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維新、いまだ「都構想」あきらめず -住民投票勝利の意義と課題 「新聞うずみ火」代表 矢野 宏


 大阪市を廃止し特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が11月1日に投開票され、反対が賛成を上回った。2015年に続く2度目の否決。政令指定都市を存続させた原動力は、世代を超えた草の根の市民の踏ん張りだった。大阪維新の会は看板政策に「ノー」を突き付けられたにもかかわらず、再び民意を踏みにじろうとしている。

 維新は「一丁目一番地」の政策での連敗。否決直後の記者会見はお通夜のようだった。代表の松井一郎大阪市長は無理に笑顔を作り、任期満了(2023年4月)で政治家を引退する意向を表明した。代表代行の吉村洋文大阪府知事は目を真っ赤にして「僕が都構想に挑戦することはない」と明言、悔しさをにじませた。

 維新にとって今回の住民投票は勝てると踏み、突き進んだ戦いだった。

 2019年4月に行われた大阪府知事選と大阪市長選、府・市議選のトリプル選挙で圧勝し、2度目の住民投票に道を切り開いた。前回反対した公明党は、現職4人がいる衆院大阪選挙区に「刺客を擁立する」とけん制され、方針を転換した。

 前回の住民投票の差はわずか1万票。新型コロナ対策で注目を集めた吉村知事がテレビにひんぱんに出演することで全国的に知名度を上げたこともあり、反対派に勝目がないのは誰の目にも明らかだった。案の定、10月12日の告示日直後の世論調査では、反対派は10ポイント以上の差をつけられた。ところが、投票日が近付くにつれて差は縮まっていった。なぜか。危機感を強めた市民たちが自発的・多発的に動き出したことが大きかった。

 デザインなど各分野に心得のある人たちが工夫を凝らし、問題点をわかりやすくまとめたチラシやパンフレット、動画を次々と生み出した。大阪市廃止「反対」の思いを持つ人たちがSNSでシェアし合い、街頭に立ち、道行く人たちにチラシを配ったり、手作りポスターを掲げたりして、「大阪都にはならない。大阪府のまま」「大阪市が消滅すると二度と戻れない」「特別区に分割されると住民サービスは低下する」など、維新が隠していた事実を一つひとつ丁寧に訴えた。

 居ても立ってもいられずに、初めて活動に参加したという人も少なくなかった。小さなアンプを用意し仕事帰りに一人街宣する人、自転車にチラシを張って走る人、家の塀にポスターやチラシをいくつも張り出した人、情報公開請求や監査請求をする人。ツイッターデモも何度も行われた。

 一人街宣するケアマネジャーのMさん(53)を取材していた時、賛成派の男から「どうせ利権(のため)やろが」と罵声を浴びせられた。Mさんが「落ち着いて一度読んでください」と差し出したチラシは目の前でクシャクシャに握りつぶされた。「1カ月も立っているといろいろなことがありますよ。『死ね』と怒鳴られたこともあります」

 それでもMさんが街頭に立ち続けたのは「大阪市が廃止されたら福祉行政が崩壊する」という危機感からだった。

 投票日前夜、淀川区十三で街頭演説を終えた自民党市議団の北野妙子幹事長がしみじみ語った。

 「いろんな方々が、これで進めてしまっていいのかと気づいた。市民の中に事実が伝わっていないことを知り、動かなければいけないと一人ひとりが立ち上がった。私たち政党がやっているのはちっぽけなこと。本当に市民の力が大きい。市民が主役でした」

 一方、維新は敗因をどう考えているのか。大阪維新の会政調会長の守島正市議は「投票用紙に『大阪市廃止』と書かれるなど、大阪市がなくなるという哀愁を前面に出されるロジックを全方位でつくられたのが大きかった」と語り、「市4分割でコスト218億円増」という毎日新聞報道を上げた。「投票日直前に市財政局の誤った試算が出されたことで、『特別区にして大丈夫か』との疑問を持った市民が多かったのでしょう」

 住民投票から4日後、松井市長は「広域一元化条例」の制定をぶち上げた。大阪市が持っている成長戦略、水道、消防など約430の事務と財源約2000億円を府に移管するという内容で、来年の2月議会に提案するという。まさに「都構想」の簡易版だ。



 さらに、市を残したまま24行政区を再編する「総合区設置案」も提案すると明言した。公明党が過去に「都構想」の対案として出した案だ。松井市長は12月4日の記者会見で、公明党が反対したら次の衆院選で公明党現職がいる選挙区に対抗馬を擁立する考えを示した。

 議会の多数決で決めるというのなら、2回にわたる住民投票は何だったのか。

 吉村知事は「都構想は否決されたが、約半数の賛成の声を尊重することも大事だ」とうそぶくが、条例化という新たな看板を掲げることで党勢維持をはかるのが狙いのようだ。

 3度目の住民投票はあるのか。奈良女子大教授の中山徹さんは「条例はあくまで条例、議会で反対派が多数になれば廃止される。維新が『都構想』を諦めることは、自民党が憲法改正の看板を下ろすようなもの。維新が諦めることはない」と断言する。その時期はいつか。「維新が2023年4月の府知事選と市長選で圧勝すれば、翌24年秋に言い出すかもしれない。常識的には考えられないが、常識が通じない人たちだから。それより、25~26年に万博開催とカジノ誘致し、27年4月の府知事選と市長選で勝利すると現実味を帯びてくる」

 維新が「制度いじり」に熱中している間に、新型コロナ感染拡大で大阪は医療体制がひっ迫してきた。
12月3日には独自基準「大阪モデル」に基づき、非常事態を示す「赤信号」が初めて点滅した。府内では3日以降も1日当たりの新規感染者数は200人以上で推移し、10日には415人、重症者も150人を超えて過去最多となった。

 このような深刻な事態を招いたのは、維新のツートップがコロナ対応に集中すべき時に「都構想」の住民投票を優先させたからだ。第2波が収まったあと時間があったのにコロナ対策を行ってこなかった。重症病床数の確保数は206床のまま。医療スタッフ確保も怠っていた。

 慌てて「大阪コロナ重症者センター」を設置したが、看護師が足りない。皮肉なことに、これまで1万8000人を超える卒業生を医療現場に送り出してきた大阪府医師会看護専門学校の予算をカットし、22年3月末の閉校へ追い込んだのは維新だった。

 維新は民意を踏みにじるだけでなく、府民の命を危険にさらしても制度いじりをやめようとしない。ええ加減にせえ。





関西共同行動ニュース No85