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核禁条約発効の意義と課題 -今こそ、北東アジア非核兵器地帯条約をー 【ピースデポ代表 】 湯浅一郎


■被爆者の悲願である 核兵器を禁止する条約が動き出す

 コロナ禍の感染が世界的に拡大しているなか、2021年初頭、世界では核軍縮に関し新たに画期的な要素が産まれようとしている。それは、核兵器禁止条約(以下、TPNW)の批准国が50に達し、21年1月22日に発効することである。TPNWは前文で「核兵器の使用の被害者」という意味で「ヒバクシャ」という言葉を2度使用し、彼らの苦痛に触れて核兵器の非人道性を強調し、「全廃こそが核兵器が二度と使われないことを保証する唯一の方法だ」とうたい、核兵器を非人道的で国際法上違法であるとしている。国連のグテーレス事務総長は、「条約批准国に賛辞を贈るとともに、同条約の交渉と批准の促進に極めて大きな役割を果たした市民社会の活動に敬意を表します。条約発効は、これを強く求めてきた核爆発と核実験の生存者たちに報いるものです」と被爆者らの行動をたたえ、さらに「核兵器禁止条約の発効は、核兵器の使用が壊滅的な人道的被害をもたらすことに対する関心を集めるため、これまで積み重ねられた全世界的な運動の成果です」と条約の意義を強調した。

 TPNWは、核兵器の存在そのものを禁止する初の国際法であり、その第1条は、核兵器の開発、実験、生産、製造、保有、貯蔵、移譲、使用及び使用の威嚇を禁止し、加えてこれら禁止行為の奨励や誘導を禁止している(注1)。従って、他国に核使用を要請することになる「核兵器依存政策」をも禁止する。国際法で禁止された核兵器に、自らの安全保障を依存する核兵器国や日本を含む核兵器依存国のありようが問われ、とりわけ戦争被爆国としての日本政府のありようが強く問われることになる。

 これまで、核軍縮に関する国際的議論は、核不拡散条約(以下、NPT)再検討会議と国連総会第1委員会において行われてきた。核不拡散を目的とした条約であるNPTは、条約ができる前に核兵器を保有した5か国(米露英仏中)を核兵器国として容認し、それ以上に核兵器を保有する国を産みださないことを目的にして生まれた、ある意味で差別的な条約である。しかし、その第6条は「核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理のもとにおける全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」としており、核兵器国が核軍縮を進めねばならないという規定がある。この第6条の履行をめぐるNPTでの激しい議論の末、例えば「核兵器国は保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束を改めて行う」(2000年NPT合意)などの合意が蓄積されてきている。2021年からは、これらに加えてもう一つTPNW締約国が核兵器を禁止する条約に基き、2年毎に締約国会議を開いていくプロセスが同時併行して走る時代が始まるのである。

■TPNWは、 NPTを補完しながら核軍縮をめざす

 しかし、現状では、TPNWが発効しても「核兵器のない世界」が自動的にやってくるわけではない。残念ながら米ロ英仏中などの核保有国はTPNWに強く反対している。言うまでもなく、核兵器の廃絶は、それを保有する国が自分の意志で核兵器をなくしていくという政策をとらない限り廃絶に向けて動くことはない。また条約に加盟していない国にとっては、条約の拘束を受けないの で、TPNWに加盟しない核保有国が自主的に核兵器を廃棄することはない。それどころか、彼らは今後も保持することを前提に保有核戦力の近代化を続けている。さらに日本を初め、韓国、オーストラリア、NATO加盟国の多くなどの核兵器依存国も、核抑止政策を止めねばならないということでTPNWは、時期尚早として反対している。
 
 それでもTPNWが運用されることで国際的な環境、雰囲気が変わっていくことは十分、考えられる。まず核兵器の非人道性と違法性についての認識が世界的に広がることは間違いなく、これにより、核兵器は、これまで以上に使用しにくくなるはずである。核保有国への圧力を強めるためにも、条約を支持する批准国や国際NGOは、次の目標として国連加盟国の半数を超える100ヶ国・地域が批准することを目指すべきである。2017年7月、条約が採択された時、122ヶ国が賛成したことからすれば、100ヶ国が批准するというのは遠い目標ではない。



■TPNW発効の今こそ、北東アジア 非核兵器地帯構想を打ち出すとき

 日本政府は、「唯一の戦争被爆国」を自認しながらも「TPNWは、現状の安全保障環境を踏まえずに作られたもので、日本とアプローチが異なるので、署名できないし、従って原則的支持表明もできない」としている。政府が言う「厳しい安全保障環境」とは、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)の核・ミサイル開発など北東アジアの安全保障環境であるらしい。そうであれば、2018年に生まれた南北、米朝の首脳会談を通じた首脳合意を活かして、「安全保障環境を改善していくための」外交的努力をするべきである。しかるに、この間、政府は、国連決議に基く北朝鮮に対する経済制裁を完全に履行することが重要という姿勢を変えることはなく、北朝鮮を敵視する政策を続けている。これでは、北朝鮮との対話など成立するはずもなく「厳しい安全保障環境」が良くなるわけはない。

 世論調査によれば、約7割の市民は、日本はTPNWに参加すべきだとしている。これを実現するために、市民がなすべきことは、日本政府に対し、TPNWに参加するために核抑止依存政策を変えるよう求めていくことである。そのためには、朝鮮半島の非核化と平和に関する首脳外交を活かし、北東アジア非核兵器地帯構想を打ち出すことで、政府がTPNWに反対する理由である「厳しい安全保障環境」は改善するはずである。北東アジア非核兵器地帯ができれば、日本、韓国は「米国の核の傘」から解き放たれ、非核の傘の下で生きていくことになる。TPNW発効前夜の今こそ、北東アジア非核兵器地帯条約をという声を上げることを訴えたい。

(注1)ピースデポ刊『ピース・アルマナック2020』P.43-49 に条約の全訳。





関西共同行動ニュース No85