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「強制送還の拒否を犯罪化し、難民申請者を強制送還することを可能とする入管法改悪を許すな!」
【弁護士】  指宿昭一

■収容・送還専門部会の提言に基づく入管法改悪法案

 2020年7月14日、法務大臣の諮問機関である「収容・送還に関する専門部会」(専門部会)は、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」を森法務大臣に提出した。法務省は2020年秋の臨時国会でこの法案を成立させようとしている。9月中に法案が閣議決定されるという情報もある。

 入国在留管理局の収容施設においては、収容期間の長期化が進んでおり、2019年6月には、これに抗議してハンガーストライキを行った大村入国管理センターの被収容者が餓死するという事件が起き、社会的な批判を受けていた。法務省は、これに対処すべく、10月21日に専門部会を立ち上げた。専門部会は、収容長期化の原因を、「送還忌避者」(強制送還を拒否する者)が多数いること、送還忌避者の中には強制送還を免れる目的で難民申請を行っている者がいることが原因であるととらえてこの「提言」の検討を進めてきた。「提言」の骨子は、①送還忌避者に刑罰を科すこと(送還拒否罪創設)、②難民申請が認められず、2回目以降の難民申請を行った者を強制送還することを可能にすること(送還停止効の例外容認)、③無期限の収容が可能であり、収容につき事前の司法審査が不要である現在の制度を維持することである。

 「提言」は、収容の長期化やこれを原因とする問題が噴出していることの原因を問わずに、力でもって問題を「解決」しようとしている。そもそも、収容の長期化は、2015年から入管が仮放免をしなくなったからであり、更に同じころから在留特別許可の運用を厳格にして、これを出さなくなったからである。入管が自ら長期収容の原因を作ったのである。入管は、長期収容や在特の厳格運用をすれば、退去強制を受けた外国人が諦めて帰国すると考えていた。しかし、日本に家族がいる者、長期間の滞在により日本に生活基盤があり、出身国には生活基盤がない者、そして政治的な迫害等を理由として出国してきた難民申請者などは、帰るに帰れないのである。入管は、送還忌避者の実態を知らず、頭の中だけで政策を考え、それが誤っていても改めようとはしないのである。

■送還拒否罪の創設
 
 強制送還を拒否している外国人には、必ずその理由がある。前述したように、入管は、日本人や永住者の配偶者等の家族がいる。長期に日本に在留してきているため日本に生活の基盤があり、出身国に帰国しても生活のあてがない。帰国すれば迫害を受ける恐れがある。このような帰国できない理由のある外国人に対して在留特別許可を出すのではなく、刑罰を科すというのである。帰るに帰れない者に対しても、何ら効果は期待できない。多くの送還忌避者は、「もし、刑務所に行っても、帰国はできない。」と言っている。

 そして、退去命令が出ていても、強制送還を受け入れることのできない者を励ましたり、裁判の援助をしたり、食べ物や住居を提供して生活を支えたりすることは送還忌避罪の共犯として処罰の対象になる。つまり、難民申請者の支援者や弁護士などが送還忌避罪で処罰される可能性が生じるのである。これは、入管版「共謀罪」である。

 これは、いわゆる送還忌避者を市民社会の支援から引き離すだけではなく、困窮する外国人に対する支援をためらわせ、外国人を市民社会の支援から隔絶させるという効果をもたらすであろう。



■難民再申請者の強制送還を可能にすること

 日本における難民認定の手続きは適正に機能しておらず、難民認定率はほとんどゼロ(約0.4%)という状況である。ほとんどの難民申請者は何度も難民申請を繰り返さざるをえない。これを、専門部会は強制送還を免れるための難民申請の濫用であると決めつける。二回目以降の難民申請者については、強制送還を可能にするという入管法改悪を提言しているのである。これが実現し、難民申請者の送還が実施されれば、多くの人々が命を奪われるであろう。難民申請者の送還は「殺人」行為である。

 これは、ノン・ルフールマン原則(難民などの、生命や自由が脅かされかねない人々の入国を拒みあるいはそれらの場所に追放したり、送還することを禁止する国際法上の原則)に違反する立法であり、この改悪は日本が実質的に難民条約から脱退するに等しい。

 入管は、「日本に本当の難民はほとんど来ていない。」、「難民認定率は適正な認定の結果だ。」などと説明しているようであるが、とんでもないことである。日本にも難民は来ている。諸外国では難民として認定されるようなケースでも、日本ではほとんど認定がされない。2回目以降の申請で認定されるケースもあるし、裁判で難民不認定が誤りであったという判断が出されることもある。また、クルド人は全く難民認定がされていないが、これは日本がクルド人の多くいるトルコとの関係を意識して政治的な判断をしているとしか思えない。

■管理強化ではなく共生の道を

 今、日本には約300万人の外国人住民がいる。少子高齢化の進む日本において、社会の担い手としての外国人はますます増えていくはずであり、日本は適切な移民政策を取る必要がある。

 移民政策は2つの政策によって成り立っている。1つが多文化共生政策であり、もう一つが出入国在留政策である。多文化共生政策とは、国籍や民族が異なる人々が互いの文化を認め合い、対等な関係を構築しながら、社会の構成員として生きていけるような政策である。これを社会統合政策ということもある。これは、同化政策のようにマイノリティをマジョリティに同化させるというものではなく、あくまでも対等な関係を前提に、相互承認を通じて、共生の道を探るものである。

 日本の移民政策は出入国在留管理政策のみで成り立っており、多文化共生政策はほとんど存在しない。移民受け入れの地方自治体には多文化共生政策はあるが、国レベルでは掛け声程度しか存在していない。このような移民政策の欠陥をそのままにして、外国人労働者の受入れをしようとするとき、社会統合に失敗した外国人は管理と排除の対象になり、また、そもそも外国人を社会の仲間として受け入れるよりも使い捨てにして、いらなくなったら帰国させようという発想に進みやすい。

 このような日本の方向は、外国人の人権保障の観点から大きな問題があるだけではなく、日本の将来にとってもきわめて危険なことである。多文化共生は移民受け入れのための社会基盤(インフラストラクチャー)である。これがない日本は、アジアの労働市場の中で劣位に置かれ、日本に働きに来る、そして、日本社会を支えるために定住しようという外国人はいなくなっていくであろう。

 今回の提言とこれに基づく入管法改悪は、共生の方向ではなく、一面的な管理強化の方向を歩む危険なものである。多くの外国人支援団体や弁護士から反対の意思が表明され、商業新聞各紙も反対の社説を掲載している。それでも、入管は入管法改悪を強行しようとしている。

 これに対して、今、日本社会が、どういう方向を選択するのかが問われている。提言とこれに基づく入管法改悪を許してはならない。




関西共同行動ニュース No84