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【巻頭言】 敵基地攻撃戦略を許すな!  中北龍太郎

■最近の動向

 敵基地攻撃戦略が、いよいよ法理論から政策論のレベルにせり上がってきました。

 今年6月15日突如、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止が発表されました。
理由は技術の未熟と予算の膨張でした。住民の反対闘争の完全勝利でした。ところが、3日と経たない18日安倍首相は、敵基地攻撃を含む「国家安全保障戦略」の初改訂を公言しました。25日河野防衛相は正式に配備断念を表明しましたが、その見返りに、30日自民党はミサイル防衛検討チームを発足させました。そして、検討チームは8月4日、敵基地攻撃能力保有などを求めた「国民を守るための抑止力向上に関する提言」を発表し、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を打ち出しました。表現こそ変えられていますが、敵基地攻撃の本質に変わりはありません。提言を受けて、安倍政権はこの秋にも新たな安全保障戦略の方向性を示そうとしています。 

 こうして今、防衛政策が大転換を遂げようとしています。

■敵基地攻撃論の法理

 敵基地攻撃論の法理は1956年に鳩山内閣の統一見解として示されました。

「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」

 これによれば、敵基地攻撃は、日本が国家存亡の危機にあって、「他に手段がない」とき、例えば米国の打撃力が全く期待できないといった「極端」「例外的」な場合に限定されます。この見解は、実際にはありえない状況における一つの理論として提示されたのであって、現実的政策としては完全に否定されていました。

 では法理として、9条2項の戦力不保持と敵基地攻撃能力との関係はどうなるのでしょうか。この点については、59年の岸内閣の政府統一見解によって示されました。

 「しかしこのような事態(敵基地攻撃を行うような事態)は今日においては現実の問題として起りがたいのでありまして、 こういう仮定の事態を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない。」

 このような解釈により、行為は合憲だが手段は違憲というところに落ち着き、敵基地攻撃をめぐる論争は解消されたのです。

 また、69年の法制局長官答弁により、「武力攻撃が発生した場合」とは「武力攻撃に着手したとき」とされ、単なる「恐れ」だけでは自衛権の発動はできないとされました。90年代後半には政府答弁で、この解釈は敵基地攻撃にもあてはまるとされました。

 70年に「防衛白書」が初公刊され、専守防衛原則がより明確にされます。

 「わが国の防衛は、専守防衛を本旨とする。専守防衛の防衛力は、侵略があった場合に、自衛権の発動により、戦略守勢に徹し、独立と平和を守るためのものである。したがって防衛力の大きさおよびいかなる兵器で装備するかという防衛力の質、侵略に対処する場合いかなる行動をするかという行動の対応等すべての自衛の範囲に限られている。」

 専守防衛原則は、現在も日本の防衛政策の基本原則であり、敵基地攻撃や先制攻撃は排除されているのです。

■法理から政策へ

 90年代以降北朝鮮の核・ミサイル問題が深刻化して行く中で、具体的政策として敵基地攻撃能力の保有をめざす動きが強まってきました。
 2003年には、石破防衛庁長官が「『東京を火の海にしてやる』という表明があり、その実現のために(ミサイルに)燃料を注入し始めたということになれば(日本への攻撃の意図も明白)、それは(攻撃の)着手ということではないか」と述べ、「攻撃の着手」の範囲を緩める見解を表明しました。この「突出発言」の後同調者がつぎつぎと登場しました。同じ年額賀元防衛庁長官は、「相手が仕掛ける以前には原則として何の対処もできず、国民の犠牲を傍観することになりかねない」とし、敵基地を攻撃できる装備をもち、憲法改正や政府見解の変更により先制攻撃を認めるべきだと強調しました。

 こうした党内の先制攻撃容認論が強まる中、09年自民党国防部会・防衛政策小委員会は敵基地攻撃能力の保有を容認する提言を了承しました。「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」が17年に発表した提言では、「弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセット(装備)の導入」の項でイージス・アショアの配備を盛り込むとともに、「わが国独自の敵基地反撃能力の保有」を打ち出しました。こうした動きに対し、岩屋防衛相は19年に、「敵基地攻撃を目的とした装備体系を整備することは考えておらず、敵基地攻撃を行うことは想定していない」と反対を明らかにしています。また、20年1月には安倍首相も「敵基地攻撃は日米の役割分担の中で米国に依存しており、今後とも日米間の基本的な役割分担を変更することは考えていない」と答弁しています。

 ところが、今年イージス・アショアの断念を発表すると、安倍首相は180度見解を変え、敵基地攻撃能力の保有に向かって突き進もうとしているのです。

 敵基地攻撃能力として導入されようとしているのが、地上発射型ミサイル「トマホーク」です。トマホークは海面すれすれの低高度を敵レーダーに察知されずに接近でき、目標を精密に攻撃できます。最新の米国製トマホークは射程1800kmで、配備の地点にもよりますが、ロシアから朝鮮半島と中国の大部分を射程に収めることができます。また、日本型巡航ミサイルを南西諸島に配備していますが、その狙いは中国包囲網を形成し、3海峡封鎖(東シナ海・黄海・南シナ海)を狙っています。



■先制攻撃への道

 敵基地攻撃能力保有論は、日本の軍事政策の大転換となり、防衛政策を一変することになります。

 第1は、敵基地攻撃論は先制攻撃に行きつかざるをえないという点です。攻撃着手の判断は固体式燃料のため準備段階を見極めるのは不可能に近く、発射装置は移動式で、潜水艦からも発射されるので、「着手」の認定は極めて困難です。また、どこから撃ってくるのか、ミサイルはどこに向かうかの判断も困難です。それらを確定できないまま攻撃を仕掛ければ、国際法違反の先制攻撃になってしまいます。また、石破見解のように「着手」を緩めると、ますます先制攻撃の危険性が増します。さらに、安保法制により、他国例えば在日米軍基地への武力攻撃の着手でも存立危機事態と認められれば敵基地攻撃が可能です。



 第2に、この政策の採用により、自衛隊活動を統制してきた専守防衛原則が完全に覆り、武力行使を放棄した憲法9条や自衛のための必要最小限度の制約が反故にされ、9条は完全に死文化してしまいます。また、敵基地攻撃能力の保有政策を進めていくと、自衛隊は北朝鮮をはじめ東北アジアの軍事施設を先制攻撃できる兵器を装備することになります。その結果、東北アジア諸国の警戒感を高め、軍拡競争をさらに加速させ、安保環境を極限まで緊張させてしまいます。まさに安全保障のジレンマに陥ってしまいます。

 第3に、これにより、日米安保体制の下で、米軍=矛、自衛隊=盾とされてきた日米関係が崩れてしまいます。しかも、今年の自民党「提言」に「同盟全体の抑止力・対処力向上」がうたわれています。これは自衛隊が矛の役割を一部担うことを意味しています。そうなると、日米両国が先制攻撃で協力をすることになってしまいます。

 第4に、北朝鮮保有の移動式ミサイル発射機は200台と言われており、この200台すべてを破壊しないと日本の安全は保障されず、残ったミサイルが核付きであれば、大都会で数百万規模の犠牲者が生じるのは確実です。敵基地攻撃能力を実際に行使したならば、国や国民を戦禍の恐怖に陥れることになります。

 敵基地攻撃能力保有論は、専守防衛から他国侵攻用の装備体系への大転換を迫るものであり、極めて危険です。こんな政策を決して許してはなりません。06年久間防衛庁長官は敵基地攻撃について、「敵地まで攻撃するというようなことは、そういうことはしませんというようなことをやはり言い続けることが、どれだけ我が国の姿勢をよそに伝えるか、そういう点で非常に大事なことでございます」と答弁しています。

 自民党タカ派の保有論を絶対にとめましょう!







関西共同行動ニュース No84