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-新型コロナウィルスと気候危機- 収束後の「日常」はこれまでと同じであってはならない
【ATTAC関西グループ】寺本 勉(翻訳)

新型コロナウイルスのパンデミック[感染爆発]について、世界の社会運動ではすでに多くの議論がおこなわれており、さまざまなウエブセミナーも開催されている。その中で、パンデミック、気候危機、貧困・格差はいずれも、現在のシステムにその原因があり、新型コロナウイルス収束後の世界はこれまでとは異なったものとなるし、異なったものでなければならないことが強調されている。

以下に紹介する論評は、新型コロナウイルスと気候危機の関連について明らかにしたもので、筆者のドロシー・グレース・ゲレーロはフィリピン出身の活動家で、かつては「フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス」で、現在はイギリスの「グローバル・ジャスティス・ナウ」で働いている。なお、紙面の都合上、論評の一部を略していることをお断りしたい。 (寺本勉:ATTAC関西グループ)


『気候アクションは新型コロナウイルス のために先延ばしすべきではない。二つの危機は両方ともわれわれすべてに とっての脅威なのだから。 』
2020年4月 16 日 ドロシー・グレース・ゲレーロ(グローバル・ジャスティス・ナウ=ATTAC・UK)


新型コロナウイルスは、われわれがいかに相互に結びついているのか、世界経済システムがいかに脆弱なのかをわれわれに示した。昨年 12 月中旬に中国・武漢で最初に確認されたときから、そのウイルスは世界のほとんどあらゆる国に急速に拡散し、パンデミックとなった。ウイルスは拡散し続けている。すぐに対処しなければ、推定で世界人口の3分の2あるいは 60 %が感染するだろう。

パンデミックは気候非常事態のさなかに起きた。気候非常事態は、すでに特にグローバルサウス [世界的な南北構造の中でのいわゆる「南」の諸国]の生命、生活、地域に影響を及ぼしている。この二つの危機は、世界の政治・経済の指導者が過去の危機から教訓を学ぶ能力を欠いていること、現在の危機に直面してもまったく準備できていないことをはっきりと暴露している。

世界的レベルで予想される経済不況は、とりわけ貧困国において困難な状況をもたらすだろう。その一方で、何兆ドルもの資本救済措置がすでに準備され、割り当てられている。 パンデミックは、巨大な国内危機や世界的危機の解決を政府だけに任せることができない理由を明らかにしている。特にその政府が新自由主義、レイシスト、反民主主義、エリート主義である場合にはなおさらである。

■地球温暖化から新型コロナウイルスへの 世界的関心の移行

グテーレス国連事務総長によれば、「新型コロナウイルスのパンデミックはいまや世界の第一優先事項であり、気候変動はいまのところ後回しにすべきである」 。 気候非常事態にとりくむための一連の会合は、今年 11 月にグラスゴーで開催予定だったCOP 26 [第 26 回国連気候変動枠組み条約締約国会議]も含め、すでにキャンセルされている。

二つの危機は両方とも世界的な格差や不平等な関係に大きな影響を与え、 相互に結びついている。「北」であろうと「南」であろうと、パンデミック危機が損失をもたらす一方で世界各国の経済のほとんどをどうしようもない状態にしたのは、多くの種を(一般的に言えば地球を)気候変動による絶滅のリスクにさらしてきたのと同一の基本的な経済諸条件なのである。とりわけグローバルサウスにおける貧困や不安定は、過剰蓄積、破壊的な鉱物採掘事業、 アグリビジネス [農業関連産業] 、市場原理への社会の従属、基本的サービスの民営化によって生み出されている。

地球は小休止に入っているが、これが終わったときに、われわれは通常状態(ノーマル)に戻らないことをはっきりさせる必要がある。その通常状態こそがそもそも気候非常事態とこのパンデミックをもたらしたからである。多くのレポートによれば、新型コロナウイルスの拡散を食い止めるために、世界第二位の規模を持つ経済が都市・工場・企業を一〜二月に閉鎖したとき、中国における(温室効果ガスの)排出量と汚染が劇的に減少している。しかし、中国における生産が急停止されたために、イギリスでの基本的医療用品の不足をまねいている。 生産とその結果としての排出が、人権と労働が抑圧・過小評価されている地域へと輸出されるという、世界的なサプライ・チェーン[供給連鎖]の論理は変革しなければならない。

ロックダウン[都市封鎖]による汚染のない都市という楽しげな物語が示しているのは、航空便、自動車、工業生産が減少すれば、われわれの世界が癒されるということである。世界的危機の終了にともなって、世界の炭素排出量が回復することを早い段階で理解する必要がある。それは、二〇〇八〜九年の金融危機や一九七〇年代の石油危機のあとで起こったことであり、現在の危機においても起こるだろう。今回、排出量が世界的に減少している一方で、人命が多数失われていることもまた強調しておく必要がある。

■通常状態が死を意味する以上、そこに戻る ことはできない

各国政府はパンデミックのあとで、気候アクションを加速させるべきである。経済回復には資源が必要であるという理由で、通常状態に戻って気候アクションを先延ばししてはならない。われわれは排出量を減少させ続ける必要がある。それがわれわれと地球を救う唯一の方法だからである。そのために、 以下のことが考慮されるべきである。

*中止となったCOP 26は、各国政府がパリ協定のもとでの排出量削減の公約を見直すという再検討のための会合である。排出量削減のため2015年に各国政府が作った拘束力のない目標では、世界の気温上昇を一・五%未満に抑えるという目標を達成できないだろう。パンデミックは、以前は不可能だと見なされた多くの政策が実現できたことを明らかにした。気候野心や気候アクションにおいて必要な「不可能に思えること」を、現在のパンデミックに対応しているのと同じ方法で実行すべきである。

*コロナウイルスのパンデミックは、再生可能エネルギー市場をスローダウンさせた。化石燃料や他の鉱物の採掘は続いている。パンデミックのあいだやそのあとで、再生可能エネルギーのプロジェクトを加速させるのに必要な資金調達を保証することは重要である。

*ヨーロッパの各国政府やG7の他のメンバーはすでに、パンデミックに対応するための景気刺激パッケージに数兆ドルを用意した。その資金はまた、化石燃料産業、航空産業や汚染をまき散らしている他のセクターを救済するためにばらまかれてきた。公正な移行はこうした産業の労働者への支援を含まなければならないが、政府には、気候変動に対する責任に即してそれらの産業を再編成するために、これらの救済措置の力を用いるチャンスがあるのだ。そうする代わりに、航空産業はいかなる状況にも反対してロビー活動を展開している。その一方で、再生可能エネルギー産業もまた支援を必要としている。

*パンデミックは、多国籍企業やアグリビジネスによる自然との戦争を止めるための目覚ましコールである。パンデミックは、人間が野生生物やその生息地域を破壊し続けるときに何が起きるのかを示している。大規模な鉱業、森林伐採、持続不可能な資源略奪のようなメガ・プロジェクトは停止されるべきである。

*世界的なグリーン・ニューディール、脱成長、その他の制度的なオルタナティブ[もう一つの選択肢]が採用・実行されなければならない。われわれは、財政調整や不正開発政策の継続を是正する新たな経済の枠組みを必要とする。それらは、われわれの生態系を破壊し、環境保護のための法律を縮小し、労働権と社会保護スキーム[戦略]を弱体化させてきたからである。気候危機を解決することは、人間と自然との間の関係とともに、われわれの生産・消費・貿易・国家間関係システムを全面的に変革することを意味する。


新型コロナウイルス以前と以後とでは世界に大きな違いが生じるだろう。いま世界的に知られている制度的オルタナティブの諸要素や諸契機の多くは、クライメート・ジャスティス運動[気候の公平性の実現をめざす運動]に由来するものであり、そのうちの多く(債務帳消し、「北」の気候債務の存在、自然の権利、公正な移行など)は南の運動が呼びかけていたものだった。

ポスト・パンデミック社会のための闘いは、政治的であるのと同じくらい理論的・イデオロギー的である。

われわれは過去の経済に復帰する必要はない。政府の優先順位を変更し、社会的力関係を変え、未来のための野心レベルを高くする絶好の機会なのである。徹底的な利益創出ではなく、人々のニーズと経済を再結合することは、世界がこの危機のなかで失ったものを取り戻さないかもしれないが、次の危機が起こらないようにすることはできるだろう。

パンデミックのあとでわれわれが望んでいる世界は、資源搾取のない、気候の点で公平な、持続可能な世界なのである。





関西共同行動ニュース No83