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検察庁法改悪案を廃案に! 中北龍太郎

政府・与党は5月 18 日今通常国会での検察庁法改悪案の採決を断念しました。市民の反対・抗議の声で勝利したことを共に喜び合いましょう。そしてその後間もなく黒川検事長の賭けマージャンが発覚し辞任する事態になりました。しかしながら、安倍政権は検察庁法改悪を決してあきらめた訳ではなく、今秋の臨時国会での成立をめざしています。検察庁法改悪案を廃案に追い込んでいくための反対運動の強化が求められています。

■検察庁法改悪の狙い

検察庁法改定案は、すべての検察官の定年を現行の 63 歳から 65 歳に引き上げた(検察トップの検事総長だけは現行法でも65歳) うえで、定年や役 職定年の延長 ( 役職定年とは、定年の前に一定年齢 に達したことを理由に管理職から外れる制度のことで、検事総長を補佐する次長検事および全国8か所にある高等検察庁の検事長が対象となり、改定案では63歳です ) を認めています。定年延長が 改悪案の核心です。延長は1年ごとで、最長3年まで認められています。

検察官は、捜査権を持ち、起訴・不起訴を決定する権限(公訴権)を独占しています。政財界の不正も対象で、権力の腐敗を摘発し裁判を遂行するという特殊な使命を与えられています。こうした捜査や公訴権の在り方が時の政権の圧力で歪められてはなりません。戦前検察官には定年延長制がありましたが、戦後の司法改革の中で、延長なき定年制が採用されました。これには、政治権力に対する検察の独立性確保の意識が働いていたことは言うまでもありません。

検察官も行政官であることは間違いないのですが、証拠と法にもとづいて起訴すべきかどうかを判定する役割を担っており、その意味で準司法官でもあります。こうした検察官の地位・職責の特殊性から、一般の国家公務員を対象とした国家公務員法とは別に検察庁法という特別法が制定されているのです。同法には検察官は検察官適格審査会によらなければ罷免されないなどの身分保障が定められています。また、内閣が任命権を持ちながらも、検察の独立性を保障するため、これまで政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという慣例が確立してきました。

検察庁法改悪案では、検事総長の定年や役職定年の延長は内閣が判断し、それ以外の検察官の定年延長は法務大臣が判断することになっています。これは、政治権力が検察の人事に介入できる道を開くものに外なりません。検察の人事に権力が介入すればどうなるでしょうか。政権側の都合で検察を動かしたり、動きを止めることもできるようになります。検察が捜査せず意図的に不正を見逃せば、市民の目に一切触れることなく、不正が闇に葬られる結果になってしまいます。また、定年延長を得て首脳ポストに就く見込みがあれば、政権の顔色をうかがう検察官も現れるでしょう。文字どおり検察官が政権に忖度するようになります。こうして、政権が人事を通じて、強大な権限を持つ検察を支配し、捜査や公訴権をコントロールすることになります。さらに、法改悪を許せば、検察は政権の操り人形になってしまい、検察の独立に対する市民の信頼は地に落ちてしまいます。



■定年延長から法改悪へ

事の発端は 16 年夏にさかのぼります。法務検察側が官邸に示した検察の人事案は、稲田伸夫法務事務次官(当時、現検事総長)の後任に林真琴刑事局長を昇格させ、黒川を地方の高検検事長に転出させるというものでした。この人事案は総長人事の布石で、次の総長は稲田、その次は林という方針にもとづくものでした。ところが、官邸は、黒川を次官に起用し、林を刑事局長に留任させました。この人事は黒川を次の次の総長にすえるための伏線でした。翌 17 年は、官邸の強い意向で黒川・林とも留任となりました。 18 年には法務検察側は林を次官にと訴えますが、上川陽子法務大臣に拒否され、林は 18 年1月に名古屋高検検事長に転出しました。 18 年7月稲田が総長に就任し、19年1月黒川は東京高検検事長に栄転します。

総長の就任には、最近では8人中7人が次官→東京高検検事長を経ています。黒川は総長就任のトップコースに乗ったことになります。ところが、定年の時期は林が 20 年7月、黒川は 20 年2月で、稲田総長の慣例による退任予定時期は 20 年7月であり、黒川の定年退職時期が稲田の退任時期より約半年も早くやってきます。このままでは黒川が総長になる目はありませんでした。

19 年 11 月法務検察側は、次期総長は林との既定方針にもとづいて、黒川検事長の定年退官について官邸の意向を確かめたところ、官邸は黒川の総長昇格を求めてきました。黒川の定年退職が刻々と迫っており、そこで、何としても黒川を総長に押し上げたい官邸がとった策が、黒川の定年延長でした。 20 年1月 31 日の閣議で半年間の定年延長が決定されたのです。この決定により、 20 年7月の稲田退任時期より黒川の定年が少しの日時後に来ることになり、黒川総長の実現可能性が一気に高まりました。

検察の人事について、時の政権はこれまで法務検察側の人事案を尊重してきました。繰り返しになりますが、検察の独立性を保障するため、政権は検察の人事に介入しないという慣例が確立していたのです。ところが、 16 年から毎年繰り返されてきた官邸側の慣例を踏みにじる政治介入のうえに、前代未聞の定年延長決定という暴挙がなされたのです。安倍政権はこの決定から法改悪の企てまで一気に突き進んでいきます。

なぜ官邸は黒川総長にこだわったのでしょうか。黒川は 12 年 12 月の第2次安倍政権発足後、官房長として3年 10 ヶ月、事務次官として2年4ヶ月、安倍政権を支えてきました。この間、経産大臣の小渕優子、特命大臣の甘利明の不正経理問題、森友学園の国有地不正売買、公文書改ざん、友達優遇の加計学園問題、 「桜を見る会」 の背任容疑など、これらはいずれも検察が捜査に乗り出しています。しかしながら、捜査は政権中枢どころか議員らにすら届かず、その大部分は不起訴に終わっています。こうしたことが、黒川は安倍政権の守護神とやゆされるゆえんです。内閣法制局長官の恣意的人事を行い、内閣人事局を通じた官僚支配を一貫して強めてきた安倍政権が、ついに検察のトップ人事にまで手を突っ込んできたのです。

延長決定できるという根拠は、定年延長を定める国家公務員法が検察官にも適用されるというものです。しかしながら、国家公務員法との関係では、検察庁法は特別法にあたります。 「特別法は一般法に優先する」との法理から、検察庁法に規定のある定年に関しては、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されません。この解釈が従来からの政府見解でした。国家公務員に定年制を導入した国家公務員法改正時の1981年4月には、人事院総局局長は国会で「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」と明言しています。実際、定年延長は全くありませんでした。このような解釈と運用がすっかり定着していたのです。 ところが、 安倍政権は今年2月、 「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」と表明しました。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法解釈を変更するというとんでもない脱法行為です。近代国家の理念である三権分立主義の否定につながりかねない危険なものです。

法務省は2019年秋に、検察官の定年を 65 歳に引き上げる検察庁法改定案を策定していました。この法案には、定年延長規定は全く含まれていませんでした。ところが、閣議による黒川の定年延長と法解釈の変更に合わせるように、今年3月定年延長を盛り込んだ改悪案を閣議決定したのです。まさに政権自らが脱法的な人事と法解釈を事後的に正当化するために法案化したというしかありません。



■法案を廃案に!

検察庁法改悪案に対しては、SNSで、女性会社員の投稿に始まった抗議の声は約1千万人にも達し、小泉今日子さんなども反対の声を上げました。元検事総長をはじめ検察首脳OBも反対声明を出しました。安倍政権への支持率は 27 %と低下し、不支持率は 64 %まで上昇しています(5月6日毎日新聞調査 ) 。こうした大きな市民の反対の声、 安倍NOのうねりが採決断念を勝ち取ったのです。検察庁法改悪反対の声をどんどん広げ、廃案を勝ち取りましょう。

また、定年延長の閣議決定と延長可能とする法解釈の撤回を求めることも重要です。さらに、黒川を訓告にとどめた処分は、官邸の意向に従ったものであり、人事院の指針からも外れています。速やかに処分をやり直し懲戒処分にすべきです。そんな市民のまっとうな声を大きく響かせましょう!そして、安倍政権にサヨナラしましょう!






関西共同行動ニュース No83