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【巻頭言】とめよう!中東派兵   中北龍太郎

■自衛隊の中東派兵

 政府は19年12月に閣議で中東派兵を決定し、20年早々にも海上自衛隊の護衛艦1隻と海賊対処のためソマリア沖に派遣中のP3C哨戒機を派兵しようとしています。
その目的は「我が国として中東地域における平和と安定、および我が国に関係する船舶の安全の確保のために独自の取り組みを行う」(18日の菅官房長官記者発表)とされています。
 菅官房長官は、海自の活動海域として①オマーン湾、②アラビア海北部の公海、③イエメン沖のバブルマンデブ海峡東方の公海をあげましたが、イラン近海のホルムズ海峡には言及しませんでした。
しかしながら、河野防衛大臣は記者会見で「(ホルムズ海峡も)含め検討していきたい」とし、ホルムズ海峡の内側での活動も排除しませんでした。



■「調査・研究」名目での派兵
 
 派兵の法的根拠とされているのが、防衛省設置法4条18号の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」という規定です。しかし、これは防衛省がつかさどる事務に関する規定に過ぎず、
本来は部隊運用まで想定したとはいえず、自衛隊の海外派兵の法的根拠には到底なりません。4条18号を根拠規定とすることは脱法行為です。
 こうした脱法行為=恣意的解釈を認めると、「調査・研究」名目でどこにでも自衛隊を派兵できることになってしまいます。ところが、残念なことに、過去にも脱法行為が行なわれてきました。2001年の米同時多発テロ後政府は、アフガン戦争でペルシャ湾に向かう米空母キティホークに、海自艦を横須賀基地沖から同行させました。同じ年に、テロ対策特別措置法にもとづく活動の前に、佐世保基地から護衛艦をインド洋に先行派遣しました。政府は、この活動についていずれも「調査・研究」名目で正当化しました。だが、米空母を事実上「護衛」したことは、日本有事でないと実行できない「日米共同行動」にあたります。このように、「調査・研究」規定はこれまでも融通無碍に拡大解釈されてきたのです。
 「調査・研究」名目の場合、首相や国会の承認は不要で、防衛相の判断だけで派兵が可能となります。こうしたハードルの低さから、「打ち出の小づち」「魔法の杖」とさえ呼ばれています。このため、政府関係者からさえ、「漠然とした規定で何でもやってしまうのは、法の支配の観点から問題だ」との声が上がっているほどです。
 「調査・研究」名目で派兵された場合の武器使用権限は、自衛隊法95条にもとづく正当防衛、緊急避難が認められています。万一攻撃を受けた場合、反撃のための武器使用はでき、艦長の判断で機銃、艦砲射撃が可能です。政府は、派兵後さらに事態が緊迫すれば、自衛隊法82条の海上警備行動に切り替えて、日本関係船舶の護衛をすることも視野に入れています。海上警備行動の場合は船舶の立ち入りや、停船のための武器使用も可能となります。
 仮に自衛隊がイラン軍との交戦を余儀なくされれば、憲法が禁じる海外での武力行使に踏み切ることになります。



■核合意と離脱そして軍事緊張へ

 中東派兵のきっかけとなったのは、イラン核合意から米国が離脱したことにあります。
イラン核合意は、イランと6か国(米・英・仏・独・ロ・中)が2015年7月に結び、イランが濃縮ウランや遠心分離機を大幅に削減し、見返りとしてイランへの経済制裁を段階的に解除していくというものです。軍事衝突の恐れもあったイランの核問題を、外交交渉で解決に導く歴史的な意義のある合意です。
 ところが、米国のトランプ大統領は18年5月、イラン核合意から離脱すると決定しました。しかも、イランに対し、過去最大級の制裁を発動するとしています。これに対し、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国は合意を守っていく方針を明確にしています。
 米国のイラン核合意からの離脱により、中東地域における軍事緊張が一気に高まりました。米国は、昨年5月空母と爆撃機部隊を中東に派遣すると決定し、6月にはイランがイラン上空を侵犯した米国のドローンを撃墜した報復として、トランプ大統領は「報復として攻撃を命じたが、150人の犠牲者が出るとの報告を受け、攻撃10分前に中止した」と発表しました。イランは、制裁を科した米国への対抗措置として、ウラン濃縮度の引き上げを繰り返してきました。こうして、「米国とイランは戦争に向けて進んでいる」(米外交専門誌フォーリン・アフェアーズ)といった記事にみられるように、戦争の危機が深まっています。

■米国への加担と戦争の危機
 
 米国は、対イラン有志連合・海洋安全保障イニシアチブへの参加を呼びかけていますが、賛同は広がらず、現時点での参加表明は、英国、オーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦、アルバニアの6か国だけです。日本政府は、米国の提唱する有志連合には参加しない方針です。もっとも、米国に対し艦船派遣の貢献をアピールし、「日本独自の取り組みを行うが、米国とは緊密に連携していく」(菅長官)と言明しています。情報は日米両国で共有するとされています。これでは、実質的に参加するのと同じです。
 イランをはじめ中東に米国が積極的に軍事介入するのはどうしてなのでしょうか。冷戦終結後、石油産出など経済的、地政学的に重要な中東に、米国が直接軍事介入する傾向が強まっています。米国はイラクの脅威を強調して湾岸戦争、イラク戦争を戦い、アフガニスタン戦争を仕掛けてきましたが、その次の標的がイランです。トランプ大統領はイラン核合意から一方的に離脱し、イランを公然と敵視する政策を取るようになりました。この政策に協力し中東内部で対イラン包囲網を形成する中心になっているのがサウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦など有志連合参加国です。米国とイスラエルとの蜜月関係も重要です。イスラエルが自国にとって最大の脅威とみなしているのがイランであり、イラン核疑惑を最大限あおっているのもイスラエルです。米国の中東介入はしばしば「イスラエルの安全が脅かされている」との名目で行われてきたことも忘れてはなりません。
 日本とイランには長い友好の歴史があり、日本は、米国とイランとの仲介役として大きな役割を果たせる可能性をもっている国です。しかし、現在の日本の外交・安保政策のもとでは、それは困難になっています。90年代以降、米国の一連の戦争に対して、日本政府は協力してきました。湾岸戦争では戦費を負担、アフガン戦争時にはインド洋上での給油活動、イラク戦争ではサマワに陸上自衛隊を派兵してきました。このように、日本は米国の中東攻撃に加担を強めてきました。また、日本は09年以来、ソマリア沖の「海賊対処」名目で艦船を派遣し、東アフリカのジブチに自衛隊初の海外拠点を設けています。さらに、15年成立の安保法制の審議過程で、集団的自衛権の行使の具体例として、「ホルムズ海峡が封鎖されて石油供給が途絶した場合」をあげ、現在の中東情勢を先取りするかのような説明をしてきました。
 仲介役には中立性が求められますが、今の日本政府は余りにも米国一辺倒です。こんな日本が、米国呼びかけの有志連合に協力し、米国と緊密に連携するために、派兵計画を準備しているのです。海自の中東派兵は米国のイラン軍事包囲網に加担することにほかなりません。しかも、米国は、イラン制裁の手段として、軍事攻撃を究極の選択肢として排除していません。米国との同盟を最重視する政策が、日本を中東の戦争に引きずり込んでいく可能性が高まっているのです。
 
 いま日本がなすべきことは自衛隊派遣ではなく、米国に核合意への復帰を促すことです。欧州諸国も米国が核合意に復帰することを求めており、米主導の有志連合とは距離を置いています。中東派兵ではなく、憲法9条を活かした平和外交こそ日本がとるべき道です。
※米国は、年明け早々イラン司令官を殺害し、軍事緊張は極限に達しました。これにより、中東派兵はますます危険なものとなりました。
 中東派兵をただちにやめるよう大きな声を上げましょう!




関西共同行動ニュース No82