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韓国の GSOMIA破棄と 日本政府・自衛隊の反応  【明治大学特任教授】 纐纈 厚

■安倍軍拡が止まらない

自衛隊の軍拡と国軍化への歩みが急ピッチである。来年度の防衛予算はこれまで最大であった今年以上の予算が計上される見込みだ。 「いづも」 や「かが」などヘリ空母が、F35Bの導入を前提として名実共に本格空母化するための予算計上が特に際立つ。自衛隊はいよいよ歯止めなき軍拡の時代に入る。

安倍首相は、F35を空自用のA型と海自用のB型を含め100機余と暫く先のこととは言えイージス・アショア配備計画など、アメリカからの〝武器爆買い〟に奔走している。中国の軍拡への対応、北朝鮮のミサイルへの脅威対処などを表向きの理由とし、国民の支持獲得に躍起となっている。

■GSOMIA破棄に踏み切った韓国の真意

日韓の軋轢が深まる一方で、韓国が北朝鮮との和解に本腰を入れている。今回、韓国が日韓の軍事情報包括協定(General Security of Military Information Agreement : GSOMIA )を破棄するに 及んだ。その理由を三点だけ指摘しておきたい。

第一に日本自衛隊への不信感が蓄積されていることだ。2018年 10月、韓国海軍の観艦式の折に海自の艦隊は旭日旗掲揚にこだわり、大きなしこりを残した。海自は観艦式への参加を見送った。また、同年 12月のレーザー照射問題での行き違いにより、そのしこりが増幅された。そしてまた歴史問題にこだわり、徴用工問題に端を発する日韓の軋轢が加速されていく。さらにここに来てGSOMIA破棄に至った点で、日本政府やメディア・世論は韓国の対応ぶりのラジカルさに驚くことになった。

GSOMIAはアメリカを中心に多国間で締結されているが、日本と韓国との間に締結されているGSOMIAは、正式に「日韓秘密軍事情報保護協定」(2016年 11月 23日署名)と言う。これに先立ち、2007年8月 10日、アメリカとの間で締結されたとき、日本国内では過剰な軍事的紐帯関係は自在な外交力の展開上、問題とする指摘や軍事的運命共同体への参入という視点から、私自身も反対の論陣を張った一人である。

日韓両国間で締結されていたGSOMIAは、韓国の通告を受け、2019年 11月 23日失効予定となったが、そもそも日韓間のGSOMIAに如何なる意味があったのだろうか。この締結については、締結までに両国間で相当の議論が飛び交った。特に韓国側には締結反対論が強く、李明博政権時代に締結に動いたが果たせず、結局は次の朴槿恵政権時代にようやく締結に漕ぎつけた経緯があった。

何故韓国の国防当局を中心に締結に動いたにもかかわらず、締結が遅れたのはかつて日本による植民地統治を 36 年の長きにわたり受けなければならなかった韓国と、如何にアメリカとの関係からと言え、軍事協力関係に置かれることは耐え難い屈辱とさえ感じる政府の高官や、何よりも韓国の世論があったからだ。先の旭日旗も旧帝国海軍を想起させるものであり、レーザー照射事件も日本の航空機の威圧的な飛行への警戒感からの過剰反応ともされた。最もそれはミサイル発射準備を示すものでは到底なかったが。

こうしたなかで時間が推移するなかでも、日本が依然として従軍慰安婦問題で真っ当な謝罪を回避し続け、さらに徴用工問題では韓国の大法院 (日本の最高裁判所に相当)の判決を批判する姿勢を露骨に見せたことが、韓国政府や韓国国民の怒りを招くことになった。



第二には、そうした未決の歴史問題が深い棘となっていたがため、今回のGSOMIA破棄に繋がったとみるのが間違いのないところであろう。そして、破棄への反応ぶりのなかで目立つのは、これが韓国バッシングの材料として使われていることだ。そこで疑問として思うのは、日本政府や世論・メディアの安全保障論の捉え方である。特に問題なのは、いつのまにか軍事主義の呪縛に囚われてしまっているのではないか、ということだ。

つまり、軍事関連については、徹底した情報共有によって敵対国に備えることが安全保障の要諦だとする考え方が、本当に正しいのかということである。軍事至上主義の観点からすれば、その通りかも知れない。その一方で情報共有することが、ここで言う敵対国との緊張関係を増幅する結果となり、緊張緩和への処方箋を何時までも獲得できない、一つの理由ともなる。

そのことへの判断が後方に追いやられてしまっているのだ。軍事協定にこだわり続けることが、本来の意味での安全を確保することに繋がるのか、ということである。軍事協定は、実は諸刃の剣であることを認識する必要があるということだ。

これは日米安保条約があるからロシアとの北方領土返還交渉が先に進まないのと同質の問題である。外交目的を達成するために、安保条約やGSOMIAのような軍事協定が阻害要因となっていることも確かである。

第三に、韓国側からすれば、日本による先の輸出制限措置が事実上韓国を〝敵国〟と見なしたものと認識せざる得ない以上、敵国との間の軍事情報の交換は妥当でないとする判断があったのであろう。そのことを理解しないまま、一方的なバッシングの材料としてみなされるのは、韓国ならずとも耐えられないことだ。ましてや、韓国側には36 年間にも及ぶ日本の朝鮮植民地支配に対し、真っ当な謝罪を回避し続けている日本政府への抜き難い不信感が存在しているのである。

■軍事に頼らない世界を

それで、私たちに求められているのは、日米安保やGSOMIAなどの軍事的運命共同体の呪縛から解放され、ハードパワーではなくソフトパワーに比重を据えた非軍事的安全保障論(人間の安全保障論等) を紡ぎだすことではないか。 それが、中長期的な安全保障体制を構築していく展望に繋がっていくはずだ。

日本国内では、北朝鮮の相次ぐミサイル発射実験を脅威と設定し、深刻な不安や脅威と捉えている感がある。韓国はさすがに、2014年 12月に締結した北朝鮮のミサイル情報に限定する日米韓情 報 共 有 協 定
(Trilateral Information Sharing Agreement : TISA) の破棄までは通告してきていな い。

兎に角も、韓国は従来の如く、アメリカと特に日本が脅威国と認定する北朝鮮との和解に大きく踏み込もうとし、統一時期まで公言するに至る。その意味で言えば、北朝鮮を敵国とする同様に韓国も〝敵国〟ないし〝準敵国〟扱いされている以上、日本自衛隊との軍事交流を推し進める理由が希薄になっていることも確かであろう。

その意味からすれば、GSOMIAの破棄は、日韓の安全保障体制に皹(ひび)を入れるものではなく、むしろ朝鮮半島と日本列島との間に非武装地帯を設定する好機かも知れない。現時点で自衛隊の幹部から今回の韓国の措置への具体的な反応は出ていない。それは自衛隊や日本政府の対北朝鮮政策を進めるうえで韓国には頼ることは出来ないとする判断があるからだ。韓国抜きで北朝鮮対応を進めるほうが、なまじ和解への道を追求する韓国の文政権との連携は、むしろ足枷となるとしか考えていないのであろう。

いま、私たちはGSOMIA破棄を決断した韓国政府とこれを支持する韓国国民の動きのなかに、本物の平和を実現しようとする強い意志を見て取るべきではないか。同時に、北朝鮮との和解に舵を切った韓国文政権を支える韓国国民との連帯を強化していくことで、日韓両国民の平和実現への思いが、一つなっていくために手を取り合うべきであろう。私たちの国境を越えた平和は、あらゆる軍事協定の破棄により実現するであろう。韓国政府の今回の措置は、それに先鞭をつけたものと受け止めたい。




関西共同行動ニュース No81