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岐路にある朝鮮半島 平和プロセス

【 立命館大学特任教授】 文京洙(ムン・ギョンス)

2017年後半、朝鮮半島は戦争の危機に揺れた。北朝鮮が6度目の核実験(9月)やICBM(火星 15 号)発射( 11 月)を強行したのに対して、米国政府内では制裁的軍事攻撃案(いわゆる鼻血作戦Bloody Nose Strike) まで検討された。そういう一触即発の危うい状況にあって2018年の朝鮮半島の平和プロセスの劇的な進展を想像しえたものはほとんどいなかったかもしれない。2018年の一年を通して3度(4・ 27 及び5・ 26 板門店、9・ 18 ~ 20 平壌)にわたる南北首脳会談に加えて米朝首脳会談(6・ 12 シンガポール)も実現して朝鮮半島の和解と平和への機運が高まった。



だが、9月の3度目の南北首脳会談以降、非核化をめぐる米朝交渉が停滞した上に、今年2月のハノイ会談では期待された米朝合意は不発に終わった。80 %台という高い支持率を追い風にこの間の情勢変化を主導した文在寅政権もやや失速気味で、核廃棄か、制裁解除か、をめぐって米・朝、および韓国、さらには中・露両国も加わってぎりぎりの駆け引きが水面下ですすむ不透明な状況にある。ここではこうしていわば重大な岐路に直面しているともいえる朝鮮半島平和プロセスのこの間の進展を改めて振り返り、今後の朝鮮半島情勢を占う素材としたい。

朝鮮半島平和プロセスを起動させるきっかけは、2017年 11月のアメリカ本土をも射程にした北朝鮮のICBM(火星15号)実験の成功にあった。この成功を受けて金正恩は「核武力完成」を宣言し、北朝鮮の核兵器の高度化が、かりに米国からの核攻撃があってもこれに核兵器で反撃できるような報復力の確立、つまり、米国との関係で「相互確証破壊」 (MAD)の状況に達したことが示唆された。北朝鮮の核開発がMADの水準にあるかどうかは、核弾頭の小型化や、大気圏再突入技術のレベルなどで疑問の余地が指摘されているが、それでも米国を対話の場に引き出すうえでは充分であった。

核兵器の高度化に加えて、金正恩政権がひと頃言われていたような後継体制の危機( 「急変事態」=「内部崩壊」 )を乗り切り、一定の安定性を確保しえたことにある。2016年には、金正日の時代にはついに一度も開かれることもなかった党大会の開催に漕ぎつけ、金正恩後継体制の完成を内外にアピールした。

2017年後半、戦争の危機が極度に高まる中で、逆説的に改めて確認されたのは、朝鮮半島では戦争が不可能だということだ。北朝鮮は、核兵器を用いなくても、1万を越える大口径砲や多連式ロケット砲を非武装地帯付近に配置していて、いったん戦争となるとソウルが「火の海」となることは避けられない。これにスカッド(800基)やノドン(300基) 、テポドン(50基)など中距離ミサイルを加えると西日本の米軍基地や主要都市も「火の海」となる可能性が高い。

内部崩壊もなく戦争も不可能であるなら、韓国や米国にとって残る道は 「 対話 」 しかない。もちろん、この間の朝鮮半島情勢の転換をめぐって発揮された強力なイニシアティブは、ろうそく革命を背景とする文在寅政権によるものであり、紆余曲折の末に実現した6月の歴史的な米朝首脳会談も文在寅政権の果たした役割が大きい。

4月の板門店会談で南北の両首脳は、
(1) 「南北関係の全面的で画期的な改善と発展」を目指す南北間の多様なレベルでの対話・交渉・交流の推進
(2)軍事境界線一帯での敵対行為の中止による非武装地帯(DMZ)の「平和地帯」化
(3)朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結、さらには朝鮮半島の「完全な非核化」による「確固たる平和体制を樹立」
に合意した。

この3項目は、2018年の朝鮮半島平和プロセスの成果を測るうえでの枠組みともなるが、この間、南北関係にかかわる(1)、 (2)については劇的な進展を示した。

一方の終戦協定や非核化については米朝対話の進展が前提となり、文在寅政権の粘り強い仲介が功を奏して6月 12 日シンガポールで米朝の歴史的首脳会談が実現した。ところが、「非核化」と「制裁解除」の具体的なプロセスをめぐって朝米間の思惑に相当な開きがあることが、その後の米朝間の交渉の過程で明らかになる。北朝鮮は段階的な非核化措置をすすめる一方、その見返り(相応の措置)として、終戦宣言や制裁の段階的な解除を求めた。これに対してトランプ政権は、ポンぺオ国務長官の言うFFVD(最終的かつ完全に検証された非核化) 、具体的には 「核リストの申告」「査察」「検証」 なしには終戦協定や制裁解除はあ
りえないという、いわばall or nothingの姿勢を崩さなかった。

シンガポール会談以降、ポンペオ国務長官・金英哲統一戦線部長などの閣僚級はもとより、それぞれに対北朝鮮、対米国の特別代表(スティーブ・ビーガン、金革哲)をたてた交渉が、紆余曲折を重ねながら続いた。その結果、2月 27 ~ 28 日にハノイで実現した朝米首脳会談では、米国側が段階的かつ並行的な非核化と制裁解除をすすめるという北側の主張に歩み寄って共同声明が発せられるのでは、との観測が有力となった。

だが、周知のように会談は物別れに終わった。米国側は、北朝鮮が全面的な制裁解除を求めたことを物別れの原因としたが、 実際には、 米国側が、トランプのスキャンダルをめぐって窮地にあった国内政治を考慮して、それまでの交渉の積み重ねを覆して従来の非核化前提論を持ち出したことから物別れに終わったという見方が有力である。

ハノイ会談以後、トランプは金正恩とのトップダウンの交渉を重視しつつも、北朝鮮の全面的な非核化措置を前提としたビッグディール(一括妥結)を主張し、これに対する北朝鮮の反発が続いている。こうして朝米交渉が膠着するなかで、北朝鮮は制裁解除のために中国・ロシアへのアプローチ(4月 27 ~ 28 日のロシア訪問など)をつよめている。文在寅政権は事態の打開をはかって米国を訪問(4月 11 日)するがこれといった成果はなかった。

こうしたなかで5月2日、 これまで朝鮮半島平和プロセスの蚊帳の外に置かれていた安倍首相が、ここは日本の出番といわんばかりに、日朝首脳会談について前提条件をつけず交渉する用意があることを明言した。朝鮮半島平和プロセスへの日本の介入がこれを主導してきた韓国と協調的なものとなれば、と願っている。


関西共同行動ニュース No80