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【巻頭言】日米地位協定の抜本改正を! 中北龍太郎

地位協定の様ざまな問題点

日米安保条約にもとづいて、日本には130カ所 ( 専用施設 78、共同使用施設 52/2018年3月末 ) の米軍基地がおかれています。どの場所・どの施設を米軍に提供するのか、 駐留した後の米軍、米兵・軍属 ( 米国籍の民間人で在日米軍に勤務する者)やその家族はどのような取扱いを受けるのかなどを定めているのが、日米地位協定 ( 地位協定 )です。

地位協定の前身は1952年に結ばれた日米行政協定 ( 行政協定 ) で、 60年の安保条約改定にともなって地位協定に変えられました。名称は変わったものの、行政協定の内容がほとんどそのまま引き継がれています。しかも驚くべきことに、今日まで一度も改正されていません。地位協定は、今から 67年以上前の古い考え方のままに化石化され、大きな問題を抱えています。例えば、次のような問題点があります。

①日本の全土基地化。
②国内法の適用除外。
③日本政府は米軍の財産に対し捜索・差押を行えない。
④米軍基地への立ち入りができない。
⑤基地返還時の原状回復義務免除。
⑥裁判における米軍の優先権。
⑦思いやり予算。
⑧密室の日米合同委員会。

こうした重大な問題点を抱えているからこそ、抜本改正が不可欠なのです。

地位協定の歴史

45年の敗戦から約6年半日本は占領され、占領軍 ( 実態は米軍 ) は日本国内で好き勝手にふるまうことができました。 52年4月に講和条約が発効し日本は独立を果たしましたが、占領軍は新たに結ばれた日米安保条約 ( 旧安保 ) で、在日米軍と名前を変え駐留を続けることになりました。旧安保と同時に発効した行政協定が、日本の全土基地化を認めていたからです。

全土基地化とは、日本全土を米軍にとっての潜在的基地にするということです。米軍は日本国内のどんな場所でも、必要があり日本政府の承認があれば、基地にできるのです。米側の交渉担当者だったダレスによれば、交渉の最大の目的は「われわれが望む数の兵力を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保すること」だったのです。講和条約や安保条約に書きこめない属国的な条項は、国会の承認を必要としない「秘密の了解」( =行政協定 ) として結ばれたのです。

占領が終わった後、占領軍の基地だったところはすべてそのまま基地として残され、占領軍は在日米軍と名前こそ変わりましたが、実質的には軍事占領状態が続いたのです。寺崎太郎・元外務次官は「行政協定のための安保条約、安保条約のための平和条約でしかなかったことは、明瞭であろう。つまり本能寺 ( =本当の目的 ) は行政協定にこそあったのだ」と語っています。

行政協定を引き継いだ地位協定は、全土基地化を本質としているのです。

広大な管理空域と高度規制なし

横田基地の上空は、1都8県 ( 東京都、栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県 ) がスッポリと入る、米軍の巨大な支配空域になっています。日本の首都・東京は、巨大な米軍の支配空域によって上空を制圧され、そのため航空機同士のニアミスが発生するなど危険性が大変高くなっています。
日本の航空法令では、人口密集地で300m、それ以外の場所で150mという最低安全高度を定めています。ところが、米軍機は日本の航空法令の適用除外であり、事故を頻繁に起こしている米軍の最新鋭輸送機・オスプレイは、米海兵隊の訓練マニュアルでは、最低高度 60mで訓練することが求められています。低空飛行訓練は、オスプレイに限らず各種戦闘機が、日本全国のどの場所でも公然と行っています。低空飛行訓練中の米軍艦載機が、高知県のダム湖面に墜落したり ( 1994年 ) 、 奈良県十津川村でワイヤーロープを切断する ( 91年 ) という事故も起きています。

捜索・差押と立入権

2004年8月沖縄国際大学の本館ビルに、米軍の大型ヘリが墜落して爆発炎上し、多数の部品が周辺に飛散するという大事故を起こしました。
米兵が事故現場を封鎖し、現地の警察、自治体の長、取材記者や民間人を排除しました。なぜこうした異常な行動が許されるのでしょうか。 それは、日米両政府が「日本政府は米軍の財産について捜索または差し押さえを行なう権利を行使しない」「米軍機が私有の財産に墜落した場合、米政府は事前の承認なくして私有の財産に立ち入ることが許される」という密約を交わしているからです。

地位協定3条には、米国は基地内で、その「設定、運営,警護および管理のため必要なすべての措置を執ることができる」との定めがあります。これが米軍の排他的管理権といわれるものです。
そのため、基地内の米軍の活動などは日本の法令に反していても規制できません。また、米軍基地周辺住民に被害やその危険が起こり拡大しても、日本当局や地方自治体も対策がとれないという問題があります。日本法令が適用されないため、日本当局側の基地内立入権もないのです。

環境問題と米兵犯罪の処罰

環境保全・回復について定めた規定はなく、地位協定4条は、米軍がいくら土壌や環境を汚染しても、米国にはそれを元通りにする義務はないことになっています。そのため、米軍による環境破壊が多発しています。航空機による騒音被害、赤土流出、PCB・鉛・核物質などの汚染が多岐かつ広範囲にわたっています。また、基地が返還されても、日本政府や自治体には汚染除去など重い負担が課せられています。

地位協定では、公務執行中の犯罪については米側が裁判権をもち、公務中でない犯罪については日本側が裁判権をもつが、後者の場合でも犯人の身柄が米側にあるときは、日本側が起訴するまで引き渡さなくてもよいとされています。しかしながら、犯人を逮捕して尋問しなければ起訴できる可能性は非常に低くなってしまいます。また、日米合同委員会で、「日本にとって著しく重要と考えられる事例以外は裁判権を行使するつもりはない」という密約が結ばれています。まさに治外法権を認める密約です。

思いやり予算と合同委員会

地位協定では、在日米軍駐留経費の負担について、日本側の負担は基地や演習場、土地の賃料や地主への補償、それ以外のすべての駐留経費は米国の負担と定めています。ところが、 78年度以降「思いやり予算」と称して、基地従業員の福利厚生費の負担を開始しました。その後、労務費の一部や米軍の家族住宅、娯楽施設、さらに戦闘機の格納庫などといった施設建設費を負担するようになりました。こうした拡大解釈も限界に達し、 87年度には特別協定を締結し、日本側の負担を水光熱費、従業員の基本給、空母艦載機の訓練移転費にまで拡大しました。 78年度に始まり 40年を迎えた「思いやり予算」は 20年度までで、累計の支出総額はなんと約7兆6千億円までふくれ上がっています。そればかりか、トランプ政権は、駐留経費総額の 1.5倍の経費負担を要求する計画を進めようとしています。

地位協定で、一握りの官僚や軍人で構成される日米合同委員会を設けています。会合はおおむね月に2~3回開かれていますが、日時・場所、回数、議事録などすべて非公開です。合同委員会の合意の多くは隠され、密約と化しています。合同委員会は密約製造マシーンであり、米軍優位の地位協定の構造を裏側から支える仕組みになっています。



安倍軍拡下の基地一体化

最新の 15 年改定のガイドライン(日米防衛協力の指針 ) には、日本政府の米軍に対する基地の追加提供、日米両政府の基地の共同使用における協力強化、日本政府の民間空港・港湾を米軍に一時使用に供するといった条項が含まれています。これらの条項は、全土基地化の現れです。

18年 10月発表の第4次アーミテージ報告(第1次~第3次のアーミテージ報告は集団的自衛権の行使容認を日本政府に働きかける内容 ) は、 米軍は自衛隊基地を共同基地として利用すること、また日米共同統合部隊の創設を提言しています。安倍政権下で、こうした提言の方向で事態が進んでいることは、 15年ガイドラインの諸条項からも明らかです。

地位協定の抜本改正を

全国知事会は昨年7月、「日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること」「米軍人等による事件・事故に対し、具体的かつ実効的な防止策を提示し、継続的に取組みを進めること」「施設ごとに必要性や使用状況等を点検した上で、基地の整理・縮小・返還を積極的に促進すること」などを内容とする「米軍基地負担に関する提言」を全会一致で採択し、政府に提出しました。地位協定の抜本改正を求める全会一致での知事会決議は、政府のこれまでの対応の根本的転換を迫る画期的なものであり、何としてもその実現を図っていかなければなりません。また、日本弁護士連合会 ( 略称「日弁連」 )も2014年 10月に地位協定の改正案を提言しています。沖縄県が今年4月に公表したヨーロッパ4カ国 ( ドイツ、イタリア、ベルギー、イギリス )の地位協定の内容や運用などをまとめた「他国地位協定調査報告書」では、これらの国が米軍に自国の法令を適用して自国の主権を確立している実態を明らかにしています。

今こそ、知事会の抜本改正の動きを受けて、私たちも日本政府に、地位協定の抜本改正を迫っていきましょう!


関西共同行動ニュース No80