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朝鮮半島情勢の大転換と安倍政権
【日韓民衆連帯全国ネットワーク共同代表】 渡辺健樹

■重大な転機を迎えた朝鮮半島

南北首脳による4・27板門店宣言と、史上初となる6・12米朝首脳会談は、朝鮮半島の恒久的平和体制構築と非核化への歴史的転機をもたらした。何よりも、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)建国から70年にわたり、砲火を交え銃口を向けあってきた米朝首脳が歴史上初めて対面し、両首脳の名により包括的な目標が示されたことは画期的である。

 現在、後続交渉でポンペオ米国務長官が、朝鮮半島の平和体制構築の一歩である朝鮮戦争の終戦宣言は後回しにし、一方的に朝鮮側に非核化措置を迫り、核問題解決まで制裁を維持すると言明していることで、米朝交渉はこう着状態に陥っている。

このポンペオの姿勢は米朝共同声明の合意に反するものである。

6・12米朝共同声明は、「新たな米朝関係の確立が朝鮮半島および世界の平和と繁栄に貢献すると確信するとともに、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できる」との認識の上に、①米朝は新たな関係の確立に全力を挙げる、②米朝は朝鮮半島の平和体制構築に向けともに努力する、③朝鮮は4・27板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の非核化に全力で取り組む、④米朝は戦争捕虜・行方不明米兵の遺骨収集と返還を進める-の4項目で合意した。この4項目は、同時的かつ段階的に進められることが必要であり、その信頼醸成があって初めて「朝鮮半島の完全な非核化」も可能となるのである。

 しかし、今回の一連の動きが、「米朝枠組み合意」(94年)や「6か国共同声明」(05年)で包括的解決を掲げながらも頓挫したのと決定的違うのは、朝鮮半島の主人である南北が主導して米国に求め押し込んでいくかつてない構図となっていることにある。

南北首脳による4・27板門店宣言には、「停戦協定から65年にあたる今年、終戦を宣言し、停戦協定を平和協定に転換」するため「南北と米国の3者または南北と米中の4者会談」を積極的に推進することが明記されている。

9月の南北首脳会談で打ち出された、「9月平壌共同宣言」とその付属文書である「南北軍事合意書」では、板門店宣言をさらに具体化するとともに軍事分野でも「南と北は地上と海上、空中をはじめとするすべての空間で、軍事緊張と衝突の根源となる相手方に対する一切の敵対行為の全面的禁止」などを掲げ、そのための具体的で詳細な方策で合意した。そして、すでに板門店共同警備区域の非武装化や非武装地帯内の双方の監視所撤去などが国連軍司令部も巻き込んで進められている。

さらに、核問題でも「9月平壌共同宣言」は、「①朝鮮はまず、東倉里(トンチャンリ)のエンジン試験場とミサイル発射台を関係国専門家の立ち会いの下に永久に廃棄する。②朝鮮は米国が6・12朝米共同声明の精神に沿い、相応の措置を取れば、寧辺(ヨンビョン)の核施設の永久的廃棄などの追加措置を引き続き講じる用意がある」ことも確認している。

そして、これに呼応して中ロも段階に応じた対朝鮮制裁解除要求などで連携している。

早ければ「年明け早々」とされる第2次米朝首脳会談をめぐっても、ボールはすでにトランプの側に投げられているのである。
後続交渉では、国連軍司令部の解体や在韓米軍の撤収または何らかの地位変更問題なども”まな板”にのらざるを得ない。朝鮮側は、「朝鮮半島の非核化という場合、南北の領域内だけでなく、朝鮮半島を狙っている周辺全ての核脅威のもとを除去するということを意味する」(2018.12.20朝鮮中央通信)と繰り返し言明している。

あらためて日米安保体制そのものが問われている。そして、それは日韓が米国の核の傘から離脱することを前提とした東北アジア非核地帯化の道とも密接に関わっている。
 
■「蚊帳の外」で妨害者として振る舞う安倍政権

 朝鮮半島をめぐる対話局面の中で一人蚊帳の外に置かれてきたのが安倍政権である。

安倍政権は、昨年までの朝鮮半島をめぐる「戦争危機」の高まりの中で、トランプ米政権が唱えていた軍事力行使を含む「すべての選択肢」をいち早く支持し、朝鮮に対する「最大限の圧力」を一つ覚えのように繰り返しながら、朝鮮半島の緊張を煽り、それを最大限に利用して「戦争のできる国」作りを推し進めてきた。

 今年に入り対話局面に入っても、「微笑外交に騙されるな」「最大限の圧力を」と唱え続け、米韓合同軍事演習が延期となるや「これまで通りの規模で再開すべき」などと内政干渉発言すら行い、対話局面に冷水を浴びせることに躍起となってきた。

 4・27南北首脳会談、6・12朝米首脳会談が実現の見通しとなると、日本人拉致問題を政治利用し、文在寅大統領、トランプ大統領に口利きを依頼して回ることで自らの無策を取り繕ってきた。

いよいよ米朝首脳会談が実現すると、こんどは一転して「日朝首脳会談」を模索するポーズをとりはじめたが、それは「あくまで拉致問題解決に資することが前提」だと言い、依然として朝鮮敵視政策に変わりはない。安倍首相や河野外相の各国歴訪では、今なお「対朝鮮制裁維持」を一つ覚えのように唱え続け各国に同調を求めている。

■朝鮮半島の平和への動きと日朝国交正常化問題

安倍政権は、拉致問題を日朝交渉の入口としてすべての上に置いてきた。そして、①拉致問題は日本の最重要課題、②拉致問題の解決なくして国交正常化なし、③拉致被害者全員の生還-などを掲げている。

しかし、それ自体が日朝ピョンヤン宣言の歪曲であり、拉致問題を含め日朝関係が一歩も進んでこなかった要因である。

日朝国交正常化の基本は、かつて日本が朝鮮侵略・植民地支配をおこなった加害の歴史を反省し誠意をもって清算することである。そもそも朝鮮半島の南北分断・対決にかこつけて過去清算を逃れ、国交すら持ってこなかったこと自体が異常なことだ。

拉致問題について言うなら、朝鮮側は、02年9月の小泉首相の訪朝時に金正日国防委員長が謝罪し再発防止を約束、日本政府認定の13名のうち4人生存、8人死亡、1人未入国、認定外の1人の生存を通知し、生存者5人の帰国が実現した。その後、14年の日朝ストックホルム合意を受け、朝鮮側が拉致を含む包括的な在留日本人の調査を実施、拉致関連では02年時点と変わらない調査結果から、日本側が報告の受取りを拒否しているという(宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使)。 

「死亡」とされた人の家族が「生きて返せ」という感情を持つことは分からないではないが、政府が家族感情に乗っかり繰り返すのは外交ではなく、政権浮揚のために家族を利用した政治パフォーマンス以外の何ものでもない。

■問われる植民地主義の清算

―韓国大法院の徴用工判決をめぐって

10月30日、韓国大法院(最高裁)は、元徴用工4人が新日鉄住金を相手に損害賠償を求めた裁判で原告側請求を認め一人当たり1億ウォン(約1千万円)の支払いを命じた。

安倍首相や河野外相は、ただちに日韓請求権協定(65年)により「完全かつ最終的に解決済み」「国際法違反」などと声高に主張している。

私たちは、日本の朝鮮侵略・植民地支配を「合法」と居直り、朝鮮半島の南北分断に自ら関与して締結された日韓条約体制は、その前提から見直すべきだと考えているが、この安倍や河野の主張は、これまでの日韓請求権協定を前提とした政府見解や最高裁判決からも逸脱している。

日本政府はこれまで「完全かつ最終的に解決済み」について、外交保護権は消滅するが、個人の請求権は消滅していないとしてきた(91・92年、柳井俊二条約局長、加藤紘一外相らの国会答弁)。さらに西松建設に対する中国人強制連行被害者の裁判で、最高裁は「請求権放棄条項で失われたのは被害者が訴訟によって請求する権能であり、被害者個人の実体的権利は失われていない」(07年)と判示し、政府や企業による被害回復のための自主解決を求め、その後、被告企業は正式に謝罪し和解した事例もある。

ここで浮き彫りになっているのは、いまだ植民地主義を清算できずにいる日本の姿である。韓国では判決を控えている後続裁判や追加訴訟の準備も進められている。

これらの被害者は未だ国交すらない朝鮮にも多数いることを忘れてはならない。

安倍政権は、12月18日、新たな防衛計画大綱と中期防衛力整備計画を閣議決定した。主として対中国に向けたものだが、朝鮮に関しても「依然として差し迫った脅威」としており、イージス・アショアの2基導入、「いずも」の空母化や最新鋭ステルス戦闘機F35の105機追加購入等々、「専守防衛」の建前もかなぐり捨てた大軍拡の道に拍車をかけている。

今なお植民地主義を清算せず居直り、改憲・軍事大国化に向けた暴走を続ける安倍政治を一刻も早く終わらせることが、これらの状況を打開する一歩である。




関西共同行動ニュース No79