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とめよう!改憲!おおさかネットワーク講演集会(11月24日) 講演要旨
“安倍支持”はなぜ強固なのか
【安倍9条改憲NO!全国市民アクション発起人】 香山リカ



この文章は11月24日の「とめよう改憲!大阪ネットワー」の「講演とパネル討論」で香山さんが行った講演に基づくものです。香山さんは安倍支持の「強さ」の社会的な根拠を示してくれました。この講演のあと大阪大学准教授の木戸衛一さん、「新聞うずみ火」代表の矢野宏さんとのパネル討論に参加しました。(文責 星川洋史)

 安倍支持者にとって、憲法9条に3項を付け加えることが何を意味するのか、どんな危険があるのかというような事はほとんど関心事ではありません。安倍支持者には排外主義者が多いのですが、安倍首相が中国へ行き習近平と会談したり、外国人労働者を受け入れたりすることは元々いやなはずですが、だからといって、安倍支持から寝返るかというと「安倍さんがやっている限り間違っているはずはない」ということになります。これはカルト的でありファシズムと言っても良い状態にあります。

 2014年2月に「憲法解釈の変更による集団的自衛権行使を容認できるのか」と問われ「解釈の最高責任者は(首相の)私だ」と間違った断言を行いました。そういう事できる背景には日本社会に重層的な不安があって「不安と否認」の中であんな変な発言になったのではないかと言うことです。否認とは認めたくない現実、不快体験や邪悪な欲求を無意識的に無かったこととすることを言います。癌患者が突如、癌を告げられ「そんなことはない。医者の診断が間違っている」などと考え、誤った対応をすることを心理学的には「否認」と言います。

 安倍首相の、モリ・カケ問題では、安倍さんが嘘をつくのがうまいと言うよりは、嘘の自覚さえなく、本当に無かったと思っているとさえ考えられます。

 こうしたことが社会現象で現れてくるようになったのは、1990年代からでしょう。95年に阪神淡路大震災があり、地下鉄サリン事件も起きました。日本の安全・安心を揺るがす大きな事件が起きました。97年には北海道拓殖銀行問題や山一証券の破綻もありました。自殺者も⒊万人を超えました。「日本はやばいのではないか」と思うことが10年以上つづきました。99年にはカルロス・ゴーンさんがやってきて「日本は何をやっているのだ」と声を荒げ、強引な対応をしました。日本社会で、「このままでは生きていけない」という気運が生まれました。それが、「現実を直視することができない」「否認しなければならない」ということになっていきました。

 そうした中で、97年歴史修正主義に基づく新しい歴史教科書を作る会が生まれ、98年には小林よしのりさんの「ゴーマニズム宣言」や「戦争論」が出版されました。日本のアジア侵略、従軍慰安婦問題など明らかな歴史的事実否定し、特攻隊や靖国神社を称揚する教科書をつくろうとするに至りました。日本のリベラルな人たちやインテリ、私も含めて、こうした動きを相手にする必要さえないと軽視していました。しかし、これが百万部のベストセラーになり、若い人たちに多大な影響を及ぼすようになったのです。

 そうなったからと言って、日本の不況が解消されたわけでも他の多くの問題が解決されたわけでもありません。「不安」を否認しきくれなくなりました。そうしたとき、2014年に「朝日新聞」の従軍慰安婦問題の報道に関する謝罪がありました。朝日新聞の謝罪は、「従軍慰安婦問題が無かった」などというものではなかったのですが、安倍首相は、これを最大限利用し、ニッポン放送の質問に答える形で「例えば慰安婦問題の誤報によって多くの人が苦しみ国際社会での日本の名誉が傷つけられた」と応えました。これを聞いた視聴者は、何も朝日新聞から具体的被害を受けていないにもかかわらす、自分の「不安」の原因は朝日新聞が捏造しているのだと錯覚するようになるのです。「朝日新聞を糺す国民会議」が結成され、2万5千人の原告団が朝日新聞を名誉毀損で訴え、一人、2万5千円の損害賠償を要求しました。もちろん最高裁はこの訴えを退けました。しかし、安倍首相は、このように「自分の不安や欠陥を他のものを攻撃することで解消」しようとする「投影」を煽る名人です。敵は朝日新聞だったり、中国や北朝鮮だったり憲法9条だったりします。不安があり、いらつく人々に「悪いのはあなたではない。朝日新聞、中国、北朝鮮だと錯覚させ、日本人の優越意識をくすぐり癒やします。

 しかし今の日本は全然すごくありません。かっては日本の大学にあこがれていたアジアの優秀な若者は、中国、インド、シンガポールなどに留学を希望し、日本に来るのはそれから外れた人になっています。科学技術や企業にしても昔のようではありません。アメリカに留学して帰ってきた学生に聞いても、期待に反してみんなの注目は日本人の自分には向けられなかった。テレビなど寮の家電もほとんどが中国や韓国製で、日本製のものは廊下の隅にほこりをかぶって放置されているといいます。しかし安部政権と日本のメディアはかつてのすごかった日本を宣伝し続けています。しかし、オリンピックや万博などのカンフル剤を打ち続けても、かっての夢の持続は不可能でしょう。

 私たちは、この夢を見続けていて、「憲法を守ろう」などという私たちがこの夢を邪魔していると思っている人々に日本の現実を伝え、「憲法を変えたら大変なことになってしまうよ」と伝え、「この現実を見つめながらきちっと対応すれば大丈夫だよ。憲法を変えなくても大丈夫だよ」と、最初に触れた癌の否認の話と同じように厳しい現実を「否認」して逃げるのでなく、前向きに対処しようと働きかけることが大事だと思います。

 具体的に何をすべきかなどは、この後のシンポジウムで話し合えたらと思います。



「改憲反対」が政治的であるという理由で市共催の会場使用が不許可になったり、そうでなければ「会場運営に支障が予想される」などという理由で、講演が中止となる事態が続いている。11月24日もまた、エルおおさかでの香山さんの講演の前に京都でも予定されていたのだが、かくの如しであった。


2018.11.24毎日新聞


関西共同行動ニュース No79