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【巻頭言】必ず改憲発議をとめよう! 中北龍太郎

安倍首相は臨時国会中に衆参憲法審査会に改憲案を提示したいと画策しましたが、この試みは失敗に終わりました。その結果、来年の通常国会での憲法審査会(審査会)の審議・議決→国会発議→国民投票といったスケジュールの達成は相当困難になりました。それでも、安倍首相は改憲に向かって、「今年こそは」の勢いで突き進もうとしています。こうした改憲の動向と情勢について報告します。 

■臨時国会での安倍首相の試み
 
安倍首相は2018年9月20日の投票で自民党総裁として3選され、第4次安倍政権が誕生しました。安倍首相は、総裁選のときから、くり返し「秋の臨時国会には改憲案を提示する」と表明してきました。3選後の10月14日には、陸上自衛隊朝霞訓練場で行われた自衛隊観閲式での訓示で、「自衛隊員が誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは政治家の責任」「今や国民の9割が敬意を持って自衛隊を認めている。次は政治がその役割をしっかりと果たさなくてはならない。私はその責任をしっかりと果たしていく決意だ」と述べ、9条改憲に向けた決意を語りました。10月24日開催の臨時国会冒頭の所信表明演説では、「政党が具体的な改憲案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく」「あるべき姿を最終的に決めるのは国民だ。国民と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を共に果たしていこう」と訴えました。

憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定めています。行政府の長である首相が憲法改正の発議権を持つ国会・国会議員に対して改憲を迫るのは、憲法99条の「憲法尊重擁護義務」違反に外なりません。現職の首相が改憲をあおりたてるのは、歴代政権では見られなかった異常事態です。船田元元自民党憲法改正推進本部長は首相の改憲発言について、「憲法は権力を縛るもの、最高権力者の首相が改憲の方向性を示すのは矛盾」と述べ、自民党内からも安倍発言の違憲性が指摘されました。
安倍首相は3選を決めた9月20日の記者会見で「憲法改正案の国会提出に向けて、対応を加速していく。その際には公明党との調整を行いたい」と述べ、与党内で調整したうえで条文案を国会に提出する方針を示していました。ところが、公明党の山口那津男代表は、翌21日のテレビ番組で「与党だけで調整を先行して(憲法改正案を)出すのは考えていない」と明言し、10月2日にも記者団に「国会に具体案を出す前に(与党で)協議して案を固めるという手法は取らない」と語っていました。このように、公明党は改憲案をめぐって与党内の事前協議には応じられないという対応を取りました。これには、選挙における公明党の推進母体ともいうべき創価学会婦人部が、9条改憲に強い反対の意向を示しているという背景があります。このため自民党内では、「憲法審査会という公開の場で、各党に意見を出してもらって議論を進めた方が円滑に進む」という見方が強まりました。首相も同月3日、改憲案を自民党単独で審査会に提示するように指示しました。こうして、審査会を舞台に改憲を進めていくという方針が固まったのです。

3選後の党役員人事では改憲に向けたシフトが敷かれました。衆院憲法審査会筆頭幹事には、中谷元憲法審査会与党筆頭幹事を外し、新藤義孝元総務相を起用しました。従来の体制が野党との協議を重視する余り改憲論議を遅らせているという不満が安倍首相にあり、それが役職者の交代につながりました。自民党憲法改正推進本部長には細田博之氏に替え下村博文前文科相を配置、総務会会長に加藤勝信前厚労相をすえました。これら新たに登用された役職者はいずれも、日本会議国会議員懇談会に所属するタカ派議員で、安倍首相の側近でもあります。改憲案は18年3月に自民党憲法改正推進本部で取りまとめられただけで、党で改憲案を正式に確定するには総務会の決定を得る必要があり、総務会の役職者交代はそのための布石です。こうした体制によって、改憲を強行突破しようというのが安倍首相の魂胆でした。



■憲法審査会の動向

自民党が臨時国会中にめざしたのは、国民投票法改正案の成立と4項目の党改憲案(9条の2を追加して自衛隊を明記、緊急事態条項、合区、教育無償化)の審査会での提示でした。とはいうものの、議論の舞台となる審査会の開催自体が難航しました。与野党交渉の野党側の窓口役を務める立憲民主党は、当初から審査会の開催に消極的でした。

下村氏は、11月9日のテレビ番組で、「(憲法審査会で)率直に議論さえしなかったとしたら、それは国会議員としての職場放棄ではないか」などと開催要求に応じない野党を攻撃しました。これに対し、野党側から、発言の撤回と謝罪とともに、内定していた下村氏の審査会の幹事就任の撤回を求め、このような状況では審査会は開けないとの反発が強まりました。安倍首相は憲法尊重擁護義務違反を侵し、常軌を逸した改憲暴走を続けており、こうした状況で野党が改憲論議を拒否することを「職場放棄」と中傷することはまったく筋違いです。立憲民主党の枝野幸男代表は「円満に議論を進めるための基礎的な認識や配慮が野党になかった。」と怒りをぶつけています。

自民党の二階俊博幹事長は下村発言について「野党にものをいう場合は慎重のうえにも慎重であってもらいたい」と発言し、公明党の山口代表も「よろしくない発言だ。かえって議論が進まない状況を作ってしまうのではないか」と述べています。まさにタカ派・側近人事が裏目に出たのです。

しかも、下村氏は保守系団体の会合で「『護憲だ』と言って(憲法に)指1本触れさせないところもある中で非常に苦慮している」と発言しました。この発言もまた野党の反発を招く発言でした。自民党幹部からも「今国会ではもう論議ができないのではないか」と嘆く声もあがりました。下村氏は「職場放棄」について謝罪するとともに、審査会の幹事就任を取りやめました。

ところが11月29日、会長職権で今国会で初めての衆院憲法審査会を強行開催しました。審査会が職権で開催されるのは異例で、与野党合意で開催するとの慣例破りでした。野党6党は欠席し、自民に「絶対やってはならない、おきて破りだ」と抗議しました。開催された審査会で、審査会の運営を協議する与党筆頭幹事ら6人の幹事を選任しました。

自民党と安倍政権は12月6日にも審査会を強行開催し、改憲4項目の国会提示の強行を狙っていました。しかしながら、野党の反対と安倍改憲反対の多数世論の前に、審査会の開催を断念しました。臨時国会での強硬路線は破綻したのです。

11月中旬に実施された朝日新聞の世論調査では、自民党改憲案を今の国会で提示すべきだという意見が20%、急ぐ必要はないが70%、同時期の毎日新聞の世論調査でも、急ぐべきだが20%、急ぐ必要はないが64%という結果が出ています。世論でも、改憲を急ぐべきではないという考え方が大勢を占めているのです。

■今年の改憲動向

 2019年のスケジュールは極めてタイトです。通常国会は3月ころまでは予算審議があり、4月には統一地方選挙、4月末からは天皇代替わり儀式があり、7月には参議院選挙があります。国会の実質審議は最長で1カ月半です。こうしたタイトな日程の中で、参院選前に改憲を強行しようとすれば、予算審議中にも審査会を開催しなければならなくなります。自民党が強行すれば、国会は大荒れにならざるを得ません。

公明党の山口代表は11月26日、「来年は政治課題が目白押しだ。(改憲の)合意を成熟させる政治的な余裕は見いだしがたい。」と指摘し、「国会の憲法審査会で議論は深まっていないし、国民の理解が成熟する兆しも十分ではない」と述べ、改憲に慎重な党の立場を強調しています。北側一雄副代表も、参院選前の改憲発議は「あり得ない」と否定的です。

しかし、安倍政権と自民党中枢から、通常国会で巻き返しを狙う発言が相次いでいます。自民党の荻生田光一幹事長代行は「4項目を提示したい」、吉田博美参院幹事長は「(憲法審査会で)提案し議論していきたい」、下村博文憲法改正推進本部長は「ぜひ憲法審査会で、平場で国民にわかる形で議論することが重要」、加藤勝信総務会長は「憲法審査会でしっかり議論していただく」とそれぞれ述べ、首相の側近が巻き返しへ一斉に憲法審査会での改憲案提示を呼号しています。そして、急ピッチで全国289の小選挙区支部における憲法改正推進本部の立ち上げをはかり、国民投票の草の根運動づくりを急いでいます。

 安倍首相の祖父岸信介首相は1957年訪米を前に、自衛隊の海外派兵を可能にする憲法改正構想をまとめ、米側に提案していました。その思いは孫の安倍首相に確実に受け継がれています。安倍首相の改憲への執念はここから来ています。

 私たちは、何としても改憲の動きをストップしなければなりません。参院選前の改憲発議を阻止し、参院選で改憲議席を3分の2以下に減らせば、安倍政権は改憲を断念せざるを得なくなります。市民と野党の共闘で、何としても反改憲議席を3分の1以上にしましょう。 




関西共同行動ニュース No79