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18/7/20 シーサーネット年次総会&特別講演から

沖縄米軍基地と 日本の安全保障を問い直す 屋良朝博(採録)

【フリージャーナリスト・元沖縄タイムス論説委員】



僕が基地問題に取り組むきっかけは、少女暴行問題でした。事件を起こした米軍・海兵隊をとことん突き詰めて調べてみようと思い立ちました。

今年は沖縄は激動の年でした。名護市長選のときは「稲嶺さんは大丈夫だ」と思っていました。しかし外してしまいました。知事選についても、「翁長さんは大丈夫ですよ」といっていたのですが雲行きが怪しくなってきました。

その一つの要因は翁長さんの健康問題もありますが、全国的な流れもあります。名護市長選は、新潟知事選とまったく同じでした。自民党の人寄せパンダや大物政治家が毎週地元に入り、企業や保守系を締めつけ、公明党は創価学会をフル動員し、期日前投票を徹底的にやりました。もう一つは焦点ぼかしです。基地問題や原発問題で保守系候補も賛成なのに、「慎重だ」などと主張したりして人々に「厭戦気分」を創り出したのです。

1 海兵隊は沖縄も日本も守らない

沖縄にいる米軍の内、海兵隊が兵力としては61%、面積としては 70%です。海兵隊が沖縄から出ていくと残る問題は嘉手納の爆音などの問題に限定されます。

海兵隊は何をしているのでしょうか。日本を防衛しているのではありません。アジア・太平洋地域でのアメリカのプレゼンスをキープしているのです。そのために沖縄にいるのです。

海兵隊は海の兵力ですが沖縄にはその船はありません。海兵隊の船は佐世保にいます。沖縄の地理的優位性と言いますが、朝鮮半島で何かが起これば船が佐世保から南下し沖縄で人と物資を積み込み再び北上します。乗せることができる戦力は2200名です。これで、尖閣で中国軍と衝突の危機でアメリカ軍と自衛隊が動くときは朝鮮での衝突は必定です。そのときこの2200名では何もできません。実際は、沖縄は、佐世保からの艦隊とアメリカ本土からの実戦部隊の海兵隊のランデブーポイント(合流点)なのです。ここで合流した軍隊がアジア・太平洋地域をぐるぐる回るのです。ですから、このランデブーポイントが沖縄である必要はありません。今どき沖縄の地理的優位性を言っているのは日本政府、防衛省だけです。

さらにおかしいのは、2012年に日米両政府で決めた米軍再編です。それによると2025年頃から沖縄の海兵隊はどんどん減り7分の1になります。残る海兵隊は 31MEUだけです。それも現在の、前線で戦う歩兵・砲兵連隊6000人、それを運ぶ航空団3000人、その役務支援軍3000人が、それぞれ800人、500人、300人になります。こんなに小さくなる海兵隊のために、政府は、「普天間の危険性を除去し、抑止力を維持するために辺野古を埋めるしかない」というのです。工事には1兆何千億もの費用がかかります。そのために沖縄の民意を壊し、海を壊そうとしているのです。



2 安全保障環境の大変化に向き合う

今、アジアでも、安全保障に関する考え方、環境が大きく変化しようとしています。かつては、安全保障と言えば対ソ連・中国との関係でどう対抗するのかが中心で、近年は、特に日本では中国抑止論、尖閣問題、北朝鮮、台湾海峡問題への対応などでした。しかし、今日、世界的には安全保障の課題は、テロ対策と災害対処が中心になっています。

1980年から2011年の間にアジア太平洋地域では16億人が自然災害の影響を受け、この地域で災害に遭う危険性は、アフリカの3.2倍、中南米の5.5倍、北米の9.9倍ヨーロッパの67倍になっています。そうした中で、2013年の自衛隊も参加した米比合同軍事演習には、中国軍がオブザーバーとして初参加し、翌 14年の米タイ合同演習には、中国軍が初めて本格参加し、中国人民解放軍の元陸軍司令官が「中国軍の参加は米中のアジア太平洋地域の安全保障でより緊密な協力関係を構築していこうとする意思の現れだ」と述べました。この考え方は日本の従来の「必ず敵がいて、どこかと組んで守ってもらう」というものとは違い、「人道支援、災害救助の共同訓練」などを通して、アジア太平洋地域の安全保障ネットワークを作ろうというものです。 13年のフィリピンの台風被害の折には、中国は病院船を派遣し救援に乗り出すなどしました。



しかし安倍総理は、こうした中で、靖国参拝を強行し中国で抗日運動が燃え上がり、オバマ政権の失望を買いました。これは安保上での大事件です。

安倍首相の安全保障観は、冷戦時のそれを受け継いだものでしかありません。自分が対立をかき立てながら、「日本を取り巻く安全保障環境が近年厳しさをましており・・」などとますます敵意をかき立てています。こうした安倍政権は、共謀罪、安保関連法などを進め、今年おそらくこの言葉で憲法改悪に乗り出すでしょう。

私たちには、この動きにどう対処するのかが大きなテーマになるでしょう。安全保障とは「心配事がない状態」のことを言います。これまでアメリカは、ハードパワーによる伝統的な安全保障を考え、近年は非伝統的なソフトパワーによる安全保障を重視し、今日、双方を会わせたスマートパワーの方針で行こうとしているようです。しかし日本は、今もハードパワー一本槍で行こうとしています。

日本にとって、また沖縄にとって安全保障問題とは何かを深く考えていく必要があります。

(文責 星川洋史)



関西共同行動ニュース No78