集会・行動案内 TOP
 
米朝首脳会談後の課題と展望 康宗憲(カンジョンホン)

【韓国問題研究所代表】


1 米朝首脳会談と共同声明

昨年、 朝鮮半島には戦争危機が常態化していた。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の相次ぐ核・ミサイル実験と米国の先制攻撃威嚇や国連安保理の制裁強化によって、まさに一触即発の危機状況が展開された。日本を始め国際社会は“北朝鮮の脅威”を糾弾する世論で覆われていたが、なぜ朝鮮が核・ミサイル開発に執着するのか、どうすれば朝鮮が非核化の道を選択できるのか、冷静な分析や解決策の模索は皆無に等しかった。

朝鮮の核開発疑惑が表面化したのは 25年前の93年であり、最初の核実験は 06年だった。その間、朝鮮が一貫して要求してきたのは、朝鮮戦争の終戦と平和協定の締結であり米朝関係の正常化だった。もし米政府がその間の米朝合意を誠実に履行していたなら、9番目の核保有国朝鮮の出現は回避できただろう。イラン・イラクと同じく朝鮮を「悪の枢軸」と規定したブッシュ政権がその典型だが、歴代の米政府は朝鮮を平和共存ではなく制圧の対象とみなした。結果として、朝鮮戦争の休戦体制という構造的要因に加え、恒例化された世界最大規模の米韓軍事演習による直接的な脅威は、朝鮮を核・ミサイル開発を通じた抑止力誇示という選択に追いこんだ。朝鮮の核・ミサイル保有は、米朝敵対関係の産物に他ならない。よって“北朝鮮の核・ミサイル脅威”を除去するには、米朝の敵対関係を解消し国交を正常化することが最優先課題となる。換言すれば、朝鮮が核・ミサイルに依拠しなくても体制の安全が保証される状況を提示することだ。

18年6月 12日、 70年に及ぶ米朝の敵対関係に終止符を打つべく、トランプ大統領と金正恩国務委員長はシンガポールで初めての首脳会談を開催し、4項目からなる共同声明に署名した。共同声明の骨子は、①新たな米朝関係の樹立、②朝鮮半島の平和体制構築、③朝鮮半島の完全な非核化、④朝鮮戦争における米兵遺骨の返還、 などである。

上に述べた内容からも明らかなように、今回の米朝共同声明は問題の正鵠を射ている。おそらく、現状で達成し得る最良の合意と言えるだろう。共同声明はその前文で「両首脳は新たな米朝関係の樹立が朝鮮半島と世界の平和・繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼構築が朝鮮半島の非核化を促進する」と謳っている。歴史的な意義はこの一文に象徴されており、4項目の合意も、その重要度に従った順序となっている。これまでの米朝交渉が合意履行の過程で挫折したのは、同時行動の原則を無視した米政府が「朝鮮の核放棄」を先行条件として固執したからだ。歴代政権の失敗を教訓としたのかトランプ大統領は、相互の信頼構築に
よる新たな米朝関係の樹立(敵対関係の解消、究極的には国交正常化)、朝鮮半島の平和体制と完全非核化などを包括的に推進する立場を表明したのだ。


2 今後の課題と展望

ところが米朝共同声明に対し、政界や主要メディアなど米国内の反応は芳しくなかった。日本の世論も同様である。非核化への具体的な工程が明示されていないことへの不満だった。今回の首脳会談はトップダウン形式で総論的な合意を交わす場であり、各論は今後の実務交渉で段階的に解決していくしかないだろう。交戦当時国であり 70年もの敵対関係にある米朝間の諸問題が、ただ一回の首脳会談で全て解決されることはあり得ない。

両首脳は今回、敵対関係の解消と相互信頼の構築を優先する新しいアプローチを選択した。だからこそ、非核化だけではなく関係正常化と平和体制構築を包括的に推進する合意を交わしたのだ。しかし、米政府の主要閣僚たちですら、旧態依然とした敵対意識を払拭できていない。「米朝交渉=非核化交渉」という古い図式に支配されており、「朝鮮半島の非核化=北朝鮮の核放棄」とする誤った認識に囚われている。その結果、朝鮮が「CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄)」を先行させない限り、制裁緩和や平和協定など一切の譲歩はありえない、との硬直した態度に終始している。

米朝共同声明の履行に向け7月6~7日に平壌を訪問したポンペオ米国務長官は、成果なく帰国することになった。すべての外交交渉はギブ・アンド・テイクが原則であり、そこでの意味ある合意は双方の譲歩と妥協によるものだ。どうやら、国務長官の訪朝目的は「非核化交渉」に限定されていたようだ。新たな関係樹立と平和体制構築に関する提案は持参しなかったので、朝鮮側から非核化に関する具体案も提示されなかった。彼は 「空手来、空手去(手ぶらで来れば手ぶらで帰る)」という朝鮮の諺を学んでおくべきだった。

では、現在の膠着状態をいかにして打開するのか。8月4日、アジア地域安保フォーラム(ARF)に参席したリ・ヨンホ朝鮮外相の発言に注目したい。彼は米政府の姿勢に関し「核・ミサイル実験の中止や核実験場の廃棄といった我が国の主導的な先行措置に対し米政府は制裁維持で応え、朝鮮半島の平和保障に向かう初歩段階である朝鮮戦争の終戦宣言すら躊躇している」と非難した。そして「共同声明の履行を保証するのは相互信頼の構築であり、そのためにはすべての項目を均衡的に、同時的かつ段階的に履行していく新しい方式こそが成功可能な唯一の道だ」と述べている。

米朝共同声明を再吟味しよう。先ず、新たな米朝関係の樹立とは敵対関係の解消を意味する。その入口は、朝鮮への制裁緩和であろう。敵と握手するには、攻撃するための拳を解くことだ。 次に、朝鮮半島における平和体制への入り口は、 68年前に始まり今も続いている戦争の終結であろう。朝鮮戦争の終結宣言こそが、 平和への入り口なのだ。そして、戦争状態が継続する限り、朝鮮半島の完全非核化は見果てぬ夢でしかない。交戦状態のままで、一方が他方に「核・ミサイルの先行放棄」を求めるのは、無条件降伏の強要でしかないからだ。非核化の速度は、米朝関係正常化の速度に正比例することを喚起したい。

米朝交渉は今後も紆余曲折を経るだろう。しかし、 18年が朝鮮半島の冷戦構造解体に向かう偉大な転換点だったことを、後世の歴史は記録するはずだ。南北と米朝の首脳会談によって、朝鮮半島非核平和への道はその第一歩が踏み出された。その余波は日本の平和運動にも及んでいる。従属的な対米軍事同盟からの脱却を図る、絶好の機会になると期待したい。





関西共同行動ニュース No78