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2/9国家と徴兵制 ~集会を終えて ~~韓国の兵役拒否者に聞く~~ 

【「子ども脱被ばく裁判」を支える会・西日本】水戸喜世子



ある日、友人から「兵役拒否の為に日本に留学して、卒業後も日本で暮らしている韓国の若者から、日本人に話を聞いてほしいと頼まれているんだけど・・・」と相談を受けた。朝鮮半島の緊張を口実に、この国では史上最高の軍事予算が国会を通過したが、緊張の最前線に立たされている徴兵制のある国の若者は何を思うのか、ぜひ聞いてみたいという思いが沸き上がった。

幸いそんな思いを受け止めてくださったのが「関西共同行動」の皆さんで、てきぱきと実行委員会が立ち上がり、 50年前のジャテックメンバーにも参加要請が届けられた。その手際よさに、関西の地の反戦運動の年輪を見る思いがした。わずか1か月の準備期間にもかかわらず、発信元の友人の奔走もあり、韓国側との打ち合わせを重ね、ふたを開けた2月9日当日には、関西からのみならず、関東からも、この種の集会ではめったに出会えない顔をみることができ嬉しかった。

レジュメが 30部も不足してご迷惑をかけたが、大阪の地では初めての「平和」をテーマにした日韓市民の草の根交流が実現したのだった。韓国側の参加者は5人で、徴兵制反対の活動は共通するものの、活動分野はばらばらのメンバーだった。とても紙数に収まる内容ではないが、当日の概略をお伝えしたい。

初めに韓国在住の現代史研究者、藤井たけし氏から日本による植民地支配後の南北分断、アメリカ主導の朝鮮戦争を経て軍事独裁政権下になって、人民の銃口が支配者側に向けられないことを慎重に確認する中で「徴兵制」が完成した経緯、精神を国家統制下に置く機能を社会の隅々まで浸透する役目としての徴兵制が語られた。大いに蒙を啓かれた。

兵役を体験し、今は「徴兵制廃止のための市民の会」ソウル支部長として活動しているミュージシャンのアキ・アンさんは斬新なヘアカットの若者で、こんなに多くの日本人と平和について話し合えてとても嬉しいと、 素直に友情を示す一方で、控えめながら「徴兵制を通じ、韓国社会の中で旧日本軍の伝統が今も拡大再生産されている。日本の社会に、徴兵制がすぐ来るとは思わないが、国家統制を強めてくる社会にどう立ち向かおうとしていますか」と問いかけた。何と重たいメッセージか。

唯一女性の参加者であったチェ・ジョンミンさんはNGO「戦争なき世界」の活動家で、90年代から平和運動、兵役拒否運動、反基地、女性問題などに取り組んできて、今は「武器取引」に反対する中で、軍事化に反対する活動をしているという。初めは軍隊内で心身の虐待を受けている可哀想な個人を救う運動だったのが、イラク戦争派兵のあたりから社会性が前面に出てくるようになり、兵役者の中から選ばれる「戦闘警察」に「あなたたちには拒否する権利がある」とビラ配りをしたり、バスにビラを貼ったりして軍隊拒否の呼びかけをしてきた。これまで米・欧との交流をしてきたが、これを機に日本とつながれたら嬉しいと語ってくれた。

次いで立った青年は映画ディレクターのアン・ジフヮンさんで、彼は兵役拒否者、刑事犯として1年半の獄中体験者である。受賞の関係でアメリカから直行しての参加だった。中学の頃、音楽教師が一人の生徒を殴りながら教室の後ろから前まで引っ張り出す暴力で教室を制圧していた。教室の中に軍隊が入り込んでいると感じた。韓国軍は驚くほど旧日本軍を受け継いでいて、それが兵役を通じて、社会の中で拡大再生産されている。兵役も刑務所も同じ国家による役務だから、自分は信念に従って、刑務所を選んだと淡々と語った。

最後の発言者は、日本を亡命先として選び、徴兵拒否をしているAさん。兵役のない海外に亡命して難民認定の道を探りたいと思ったという。留学生として来日して 13年になるので韓国の若者に亡命による兵役拒否の相談を受けることが多いが、途中で挫折して韓国に戻れば、大変な困難が待っているので、誰にでも勧めることはできないと語った。フランスに亡命したイエダさんのように生活援助も難民認定もない日本での暮らしの厳しさが思われ、やるせない気持ちになった。かつてのジャテックの活動に関心を持っていると語った。

以上が全員の大まかな発言である。静かな表情の中に秘めた怒りの深さが伝わってきた。社会の隅々まで張り巡らされた「徴兵制」に象徴される差別・管理社会に身もだえながらも、あるべき未来を思い描く韓国の青年。その青写真を作った韓国軍創設時の首脳が日本の関東軍、陸海軍出身者であったと、青年たちは指摘する。本家本元の日本社会はどう未来を展望するのですか、と。「日本人が忘れている「古い過去」が、軍産複合体となった韓国の徴兵制の中で生きていて、東アジアの軍事化の一部分として、軍縮と世界平和を妨げている。平和な東アジアのために徴兵制(軍隊)を廃止しなければならないとアキ・アンさん。次回は日本の若者との討論を実現したいものだ。

会場からはとても貴重な質問が続出したのに、時間不足で、十分なやり取りができなかったことは、この集会唯一の後悔であった。またの機会が必ず訪れることを期待したい。そして海の向こうからはるばる自費で駆けつけてくださった韓国の若い友人の熱意と、集会の実現に奔走された友人たちに心からの敬意と感謝を伝えたい。




関西共同行動ニュース No77