集会・行動案内 TOP
 
「核廃絶」に逆行する トランプ政権を許すな!
-弾頭の低威力化と新型核巡航ミサイルの開発-

【ピースデポ共同代表】湯浅一郎


17 年7月、核兵器禁止条約が採択され、今、その発効へ向けた世界的努力が進んでいる。核兵器の禁止を掲げた国際的規範ができることの意義は大きい。しかし、同じ時に米ロを初めとした核保有国は、核兵器を頂点とした戦力の近代化による安全保障体制の強化に向かい、終末時計の針は何と2分前になっている。


核戦力強化の動きは、米ロの核政策に典型的に示されている。 18 年2月、トランプ政権による「核態勢見直し(以下、NPR) 」は、オバマNPRと同様に核兵器の役割として「自国と同盟国、パートナー国の死活的な利益を守るという極限的な状況においてのみ核兵器の使用を検討する」としつつも、「極限的な状況には、非核の重大な戦略的攻撃が含まれる」として、核兵器使用の対象を、通常兵器による攻撃にまで広げた。これは、核兵器の役割低減をめざしたオバマNPRを根本的に覆し、安全保障における核兵器の役割を拡大するものである。

この背景には、核兵器を近代化し、新たな核能力を開発するロシアや中国、更には新たに核兵器国に加わろうとする北朝鮮を含め、米国に対する核戦力上の脅威の急激な高まりがあるとする。これら多様な挑戦課題に対処し、抑止の安定性を維持するために、米国は目的に適合した抑止オプションの柔軟性と多様性を強化するとした。


■弾頭の低威力化と新型の海洋発射巡航ミサイル開発へ

そのために、「非戦略核による抑止の強化」を打ち出し、新たな核兵器の開発と既存の核兵器の 改造が必要であるとし、以下の措置を取るとする。

▼戦略爆撃機B 52Hのみに搭載されてきている空中発射長距離スタンドオフ巡航ミサイル(LRSO‐ALCW)を次世代ステレス爆撃機B 21レーダーに搭載する。これは、B 21のステルス性から先制攻撃兵器としてみなされる危険性がある。

▼核搭載爆撃機および核・非核両用戦術航空機(DCA)を世界中に前方配備する能力を維持、強化する。DCAを核爆弾搭載可能なF‐35戦闘機に切り替える。岩国基地では、 17年から最新鋭のF35Bステレス戦闘機16機が配備されている。トランプNPRの方針通りになれば岩国配備F35Bへの戦術核配備の問題も生じかねず、日本の非核三原則の堅持と矛盾した政策が在日米軍においてうちだされる可能性もある。

▼短期的には、敵対国の防衛網を突破することができる迅速対応の選択肢を確保するため、既存の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)弾頭を低威力爆弾に改修する。

▼長期的には海洋発射核巡航ミサイル(SLBM)を開発する。 80年代半ば以降、米国は核トマホークというSLBMを保有していたが、 10年のオバマNPRは従来型の核巡航ミサイル(SLCM)を退役させ、既に解体が終了している。トランプNPRは、それらの能力を復活させる努力を即時開始する。

トランプNPRは、弾頭の低威力化や新たな核巡航ミサイルの開発が、ロシアの非戦略核の削減につながるとしているが、実際には、全く逆にロシアの警戒感を強め、非戦略核への依存を強化する結果にしかならないであろう。プーチン大統領は、3月1日の年次教書演説で、ミサイル防衛網をすり抜ける巡航ミサイルや無人潜水機の開発などを公表した。このまま進めば、米ロの核軍拡が激化することは必至である。



■NPT(核不拡散条約)の合意も無視

またトランプNPRは、 01 年のブッシュNPRに回帰した側面がある。ブッシュのNPRは、脅威の現状に対応して新型核弾頭の研究を開始する必要性を述べた。特に現有兵器には強化され地中深く埋められた標的(HDBT)をうち砕く能力がないとし、地下施設に対しバンカーバスターという低威力の地中貫通兵器を創るとした。目的は異なるが、トランプNPRも、低い威力の核兵器を開発することで、先行使用がしやすい新型核兵器の開発を打ち出している。

この帰結として、トランプNPRは「地下核実験を再開することができる能力を維持する」 とし、包括的核実験禁止条約(CTBT)には参加しないと明言した。更に新たな低威力核弾頭の開発を含め、今後、何十年にもわたり安全保障を広範かつ多様な核兵器に依存し、核兵器の役割を高めることを想定している。まさに核軍縮に反する計画だ。これらは、NPT第6条に沿って核軍縮を進めるべく長年にわたり積み上げられてきた「核兵器国は、保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束を行う」( 00年NPT再検討会議)などのNPT再検討会議における合意にことごとく反する方針である。核兵器禁止条約が採択されたときに、今後長期にわたり安全保障を核兵器に依存し、核兵器の役割を強化する方針が米国から出てきたことを見逃すわけにはいかない。

このような特徴を持つトランプNPRを、河野外務大臣は、「米国が同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを示したことを高く評価する」とした。「唯一の戦争被爆国」として核兵器廃絶を掲げる日本政府にあるまじき姿勢である。今、日本の市民は、自らの安全保障を米国の核抑止に依存する政策にこだわり続ける日本政府に対し、その政策転換を迫っていかねばならない。

韓国での文政権の登場を契機に、北東アジアの安全保障を非軍事、外交によって解決していく動きが始まっている。今なお北東アジアに残る冷戦構造を解消し、停戦でしかない朝鮮戦争を早期に終結させていく動きとも重ねながら、核兵器を禁止する国際的な法的規範としての「核兵器禁止条約」と核抑止に依存しない政策を具現化する「北東アジア非核兵器地帯」を一つながりの目標と捉え、日本政府の政策転換を求める世論をつくりだすときである。




関西共同行動ニュース No77