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12・2秋の憲法集会から

安倍政権とジャーナリズムの危機  【望月衣塑子さん講演要旨】 文責:星川洋史




東京新聞に入った頃は社会部記者、事件記者として千葉、神奈川支局に勤務しました。二人の子どもの産休・育休を経て、以前のように夜討ち・朝駆け、張り込みなどが無理になったこともあり昼間でもできる武器輸出をテーマに防衛企業や防衛官僚を取材しました。


2014年、第2次安倍内閣は、佐藤内閣時代の武器輸出三原則を防衛装備移転三原則に変え武器輸出の自由化を進めました。東京新聞も危険性を評価し、私が書いた武器輸出に関する記事を大きく掲載しました。


私が三菱重工の傘下の企業に取材の電話をかけても「東京新聞の望月さんには何もいうなと三菱さんからいわれています」というような返答でした。防衛省の幹部に会って名刺を渡したときには「君にとって国益とは何なの。国防についてまったく分かっていないよ」と延々と国防についての説教をされたりもしました。しかし私の記事を読んでいることは分かりました。企業でも武器輸出の拡大について、「武器商人」といわれてイメージを落としたくないとの思いを持っている部分があることも分かりました。また、オーストラリアなどへの潜水艦の輸出では、それを通して軍事技術の機密が中国などに漏れることを心配している企業や防衛官僚いることも分かりました。


森友学園問題では、ほとんどのメディアは、塚本幼稚園での教育勅語など極右教育については、安倍首相、昭江夫人との関係での批判を抑制していました。それが変わったのは 17 年2月9日の朝日新聞の「非公表で用地が近隣国有地の 10 分の1で売却」とのスクープからでした。これをきっかけに他のマスコミも一斉に動き始めました。東京新聞は大阪には二人しか居なくて、それまではこの件ではほとんど共同通信を利用するだけでしたが、政治部中心で森友問題の取材チームをつくり社会部の私もその一員になりました。


5月 17 日には、またも朝日新聞が加計学園問題で「総理の意向」とのスクープを行いました。今度は安倍首相の腹心の友・加計光太郎氏が求める獣医学部の今治市での新設のために内閣府が文科省に働きかけたのです。競合する京都産業大学の申請を不可能にする新設3条件(「広域的に」「存在し」「限り」)の書き込みを行った萩生田光一内閣官房副長官は加計氏が経営する千葉科学大学の名誉教授で月 16 万円を得ています。今治市での新設に特別な配慮をした前加戸愛媛県知事は安倍首相を支える日本会議のメンバーです。


こうした内閣府や安倍首相周辺の動向を事実だと発言し、加計学園の獣医学部新設承認は良くないと主張していた前文科省事務次官の前川さんを、その直前の5月 22 日、読売新聞が「出会い系バー通い、文科省在職中 平日夜」と異例に報じました。その2日前から読売からこの件での質問が寄せられたり、文科省官房長の藤原誠氏から、「(菅官房長官を呼び捨てにする官邸の主のような)和泉補佐官が会いたいといえば会うか」とのショウトメールでの連絡があったと言います。前川さんは何もやましいこともないので放置していたということです。前川さんの告発を恐れていた官邸側の「打診」と読売新聞の「質問」が連動し、告発を潰すために一メディアが荷担したとすると絶対に許されてはならないことだと思いました。


その後すぐに前川さんは記者会見を行い、「 (政府がないと言っている)文書は確実に存在していた」「出会い系バー通いは女性の貧困の実態を調査するため」としました。後者については若干の疑問を持っていた私ですが、6月1日に前川さんとの4時間近くのインタビューを通してその誠実さ、まじめさに疑問はなくなりました。前川さんは、出会い系バーでの女性達との会話から、生徒達が脱落しやすい難関の高校の数学を必須から外すことや、いい加減な通信教育への対応など文科省への教育改革の提案などしていました。


前川さんは、 06 年、第1次安倍内閣のときの教育基本法の改正で「平和の希求」という文言を削られ平和憲法、民主憲法が危なくなると非常な危機感を持ったといいます。籠池さんは逆にこの改正で安倍首相にますます傾斜することになったといいます。これ以降籠池さんは、それまで相手にされなかった行政から丁寧な扱いを受けるようになります。


何故、お粗末な2枚だけのプレゼンスの加計学園が選ばれ、 21 枚の詳しくレベルの高い京産大が落とされたのか、 記録は残っていないといいます。森友の土地取得についても記録は残っていないといいます。政権中枢は第三者による検証・調査を嫌い行いません。まるで裸の王様です。安倍首相の記者会見は恣意的です。手も上げていない某国営放送記者は手を上げていなくてもさすし、5年間も無視された記者が、たった1人しか手を上げていないときでもこれを無視して会見を終わらせます。そういうことなので、元々政治記者ではない私は、安倍さんの記者会見ではなく菅官房長官を選びました。菅さんはアメリカのホワイトハウス、国防省を見習い、手が挙がっている限り指すからです。


しかし菅さんは質問に対して「問題ない」を連発して応えない人です。前川さんの件でも、「安倍政権は次官級みんなに同じことをしているのですか」と聞いたら「そんなことは絶対しない」と応えるが「では何故そんなこと(出会い系バーなどのこと)を知っているのか」と聞いても応えません。その上で前川さんのことを「教育者としてあるまじき」 と非難する文書を読み上げるのです。6月8日の2回目の会見では、横行する権力の横暴を糺すためにも、詩織さんを強姦した安倍首相や麻生大臣に食い込んでいるTBSの記者が、逮捕直前に警視庁の刑事部長の指示で中止になりその後不起訴になった問題や「文科省の職員が実名で『文書』の存在を証言した場合は再審査するのか」との質問などで、通常 10 分くらいで終わるところを 30 分、 23 回にわたって質問しましたが「警視庁が判断したことだ」「仮定の質問には答えない」などのいつもの応答に終始しました。


その後、あろう事か記者クラブの方から、「1人の質問が長すぎると、今後官邸が記者会見をしなくなる」などとの意見が出ましたが、良識ある人の「そんなこというと記者クラブが世論の批判にさらされる」という意見もあり取り下げられました。


安倍政権の中枢は裸の王様です。裸の王様はそのうち倒れます。


政権の横暴、メディアの萎縮などはきわめて深刻な問題です。権力者の不都合なこと、報じられたくないことを報じることがジャーナリズムの任務です。それ以外は報道ではなく広報でしかありません。


最後に、憲法9条を提唱した幣原喜重郎首相の言葉を贈ります。


「正気の沙汰とは何か。武装宣言が正気の沙汰か。それこそ狂気の沙汰だという結論は考え抜いた結果出ている。世界は今一人の狂人を必要としている。自ら買って出て狂人とならない限り世界は軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことはできまい。これは素晴らしい狂人である。世界の扉を開く狂人である。その歴史的使命を日本が果たすのだ(日本国憲法―9条に込められた魂―より)。」



関西共同行動ニュース No76