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【巻頭言】風雲急を告げる9条改憲 中北龍太郎

■改憲スケジュール

明文改憲を掲げて登場した第1次安倍政権は、明文改憲の突破口となる改憲手続法を制定し、明文改憲の布石となる集団的自衛権行使の部分的合憲化を実現するための安保法制懇を立ち上げました。第2次安倍政権は、安保法制 ( 戦争法 ) を制定して集団的自衛権行使の部分的解禁を実現したうえ、いよいよ本命の9条改憲案を発表しました。

安倍政権は、衆参両院で3分の2以上の改憲議席を獲得している今こそが、改憲実現のビッグチャンスの時期だととらえています。5月3日、安倍首相は満を持して、読売新聞掲載のインタビューと、日本会議主導の「民間憲法臨調」「美しい日本の憲法をつくる国民の会」主催の改憲集会へのビデオ・メッセージで、9条改憲案を発表しました。そして、「東京五輪・パラリンピックが開催される 20年を日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだ。 20年を『新しい憲法』が施行される年にしたい」と改憲の時期を明示しました。そのために、来夏には憲法改正の発議をし、衆院選と改憲国民投票との同日選も視野に入れると述べています。6月 24日には、神戸「正論」( 産経新聞社発刊の月刊雑誌 ) 懇話会の設立記念特別講演会で、今秋の臨時国会が終わる前に衆参の憲法審査会に自民党の改憲案を提出したいと述べ、スケジュールを前倒ししました。



■自衛隊明記の改憲案

安倍首相の発表した9条改憲案は、「今の国会の状況を活かした憲法改正」を実現するためとして、9条1項、2項はそのままにして、3項に自衛隊を明記する ( 「自衛隊明記案」といいます ) というものです。何故この案なのかについて、安倍首相は5/3読売インタビューで次のように語っています。「自衛隊が全力で任務を果たす姿に対し、国民の信頼は今や9割を超えている。一方、多くの憲法学者は違憲だと言っている。……『違憲かもしれないけれど、何かあれば命を張ってくれ』というのはあまりにも無責任だ。」「私の世代が何をなし得るかと考えれば、自衛隊を合憲化することが使命ではないかと思う。……政治は現実であり、結果を出していくことが求められる。 ( 自民党の憲法 ) 改正草案にこだわるべきではない。( 衆参両院で ) 3分の2の賛成を得て、かつ国民投票で過半の賛成を得なければならない中、党として責任を果たしていくことを考えるべきだ。9条1項、2項をそのまま残し、そして自衛隊の存在を記述する。」

ここで語られていることは、9割を超える自衛隊の支持で自衛隊を合憲化するということである。だが、自衛隊明記案はそれだけなのか。

自衛隊明記案でも、自衛隊は個別的自衛権の行使 ( 専守防衛 ) の範囲を超えて、集団的自衛権の行使や海外派兵の道が開かれることに変わりはありません。改憲案に関する自民党のこれまでの自衛権の行使に関する説明でも、その中に集団的自衛権の行使も含まれるとしてきたからです。最近の例では、日本会議国会議員懇談会の3月 15日発表の「『自衛隊』の存在を、国際法に基づく自衛権を行使する組織として、憲法に位置づける」をあげることができます。この「国際法に基づく自衛権」の中には集団的自衛権の行使も含まれているとされています。

安倍政権の下で、閣議決定と戦争法制定によって、従来の政府の見解を覆して限定的な集団的自衛権の行使が容認されることになりました。こうして今や自衛隊は専守防衛の「自衛」隊ではなくなっています。そんな自衛隊の明記は、限定的な集団的自衛権の行使はもとよりその全面的な行使を合憲化することになるでしょう。というのは、自衛隊の明記によって、これまで専守防衛、集団的自衛権の行使や海外派兵禁止の原則の主要な根拠となってきた戦力不保持・交戦権否認原則を定めた2項が空文化するからです。空文化によって、全面的な集団的自衛権行使や際限なき海外派兵への憲法上の橋頭保となり、そうした憲法解釈が堂々と罷り通ることになるでしょう。

さらには、武力によらない平和解決という9条の根本原理・精神は、自衛隊明記によって失われ、安倍首相が唱えてきた積極的平和主義、つまり積極的な武力行使による「平和主義」へと180度転換されることになります。世界の宝・憲法9条は地球上から消え去ってしまいます。

自衛隊明記案は、現状の自衛隊追認だけだと見せかけて、実は、戦争する国づくりを完成させる恐るべき改憲案です。こうした安倍首相のペテンを見抜けるかどうかが、改憲を許すか止めるかの勝負どころの一つになっています。


■安倍首相を退陣させよう!

極右改憲団体・日本会議は、従前 12年自民党改憲草案以上に復古的な改憲案を唱えていましたが、昨秋からは方針を変更して復古的改憲案を棚上げするようになりました。そして、「今の国会の状況を活かした憲法改正」を実現するためとして、9条1、2項をそのままにして3項に自衛隊を明記する改憲案を打ち出しました。安倍首相の9条改憲案の源流はここにあるのです。

ところが、モリ・カケ疑惑、南スーダン日報問題などを契機に、安倍政権に対する支持率が激減する事態に陥りました。 毎日新聞の世論調査では、不支持率 59%、支持率 26%と結果が出、東京都議選で歴史的惨敗を喫しました。これによって、安倍首相の勢いに陰りが見えるようになりました。8月3日、安倍首相は「スケジュールありきではない。」と語り、軌道修正をしました。

だが、あきらめたわけではありません。今後の改憲論議については「さらに議論を深める必要がある。党主導で進めていってもらいたい。」と述べているのです。当面の主導権は首相から自民党に移りました。加計疑惑で渦中の人となった萩生田光一幹事長代理は「 ( 改憲の ) 旗を掲げながら歩みは止めない。党内の議論をまとめて、自民党案を正式に出せる準備をする。」 と明言しています。
自民党憲法改正推進本部の体制を一部見直し、事務局長の上に事務総長ポストを新設し、安倍首相に近い根本匠元復興相を起用する方針を固めてもいます。

憲法改悪反対運動の圧倒的高まりによって、安倍政権を退陣に追い込もう!安倍政権による改憲策動にスットプをかけよう!




関西共同行動ニュース No75