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【巻頭言】2017 年-反戦平和運動の課題 中北龍太郎

南スーダンPKOで自衛隊が戦後初めて殺し殺される危険が高まっています。PKOを踏み台にした海外での武力行使の本格化、戦争法の全面的発動が画策されています。日米共同作戦体制の深化も同時進行しています。沖縄では県民を蹂躙して基地建設が強行され、事故原因を究明しないままオスプレイの飛行・空中給油訓練が再開されました。こうした日米同盟の強化が、トランプ政権の登場によって、さらなる戦争同盟化へ推し進められようとしています。日米両国が共に戦場に向かう軍靴の足音が次第に高まってきています。

戦争する国を完成させるための憲法改悪も着々と準備されています。安倍政権は、棺に入った隊員の帰国を改憲に最大限悪用しようとするでしょう。ますますきな臭い2017年、共に、戦争への対抗運動を拡充しましょう!

■史上最悪のトランプ政権

政権の顔ぶれを見ても、トランプ政権は史上最悪です。国防長官ジェームズ・マティスは米中央軍司令官を歴任した生粋の軍出身者で、「誰かを銃の標的にするのは楽しい」と発言するほどの「狂犬」・戦争屋で、イランとの核合意に反対しオバマ政権と対立した前歴があります。国家安全保障担当補佐官のマイケル・フリン元国防情報局長は、イスラム教徒を「癌」呼ばわりするほどのイスラム敵視論者です。マイク・ポンペオCIA長官は、草の根保守の茶会運動を基盤にする下院議員で、エドワード・スノーデンが暴露した米国家安全保障局の情報収集活動やCIAによる「拷問」を対テロ戦争の最重要任務だとして擁護してきました。

大統領選挙期間中にトランプが叫んできた「イスラム排撃」が政権誕生後加速され、イランとの核合意の破棄をはじめイスラム敵視政策として実行される可能性が強まっています。また、共和党は、シリアやイラクへの地上軍派遣を強硬に主張してきました。トランプ政権下で、米国と中東との軍事緊張は高まるばかりです。

アメリカ・ファーストを最大公約に掲げたトランプ大統領は、日本政府に対し、軍事費の負担増はもとより、戦争協力を押し付け、中東で戦闘が勃発すれば自衛隊の参戦を強硬に求めてくるでしょう。その時、戦争法を強行可決した安倍政権は対米従属の本質を見事なまでに露わにするでしょう。

■南スーダン ―内戦と武力行使

昨年12月下旬から陸上自衛隊は南スーダン国連平和維持活動(PKO)で、戦争法にもとづいて付与された駆け付け警護・宿営地防衛の新任務を帯びて活動を展開しています。離れた場所にいる国連関係者・邦人などが武装集団などに襲われた場合に武器をもって助けに行く駆け付け警護も、他国軍と一緒にPKO活動拠点を守る宿営地防衛も、海外での戦闘任務です。どちらも、憲法違反とされてきた任務遂行のための武器使用=武力行使に限りなく近づいています。

このような武器使用は、PKOだけではなく、11法で構成される全戦争法体系に埋め込まれており、その主眼は日米共同作戦です。湾岸危機以来歴代政権によって、日本国内の国連神話,PKO幻想を利用して、PKO参加をテコにして海外での武力行使に道を開く試みが繰り返されてきました。安倍政権がこの手法を踏襲するとともに、稲田防衛相にデタラメな安全宣言をさせて新任務付与に踏み切ったのは、集団的自衛権の行使など対米軍事協力のための戦争法の発動に道筋を付けるためにほかなりません。このように、南スーダンPKO参加は米軍と共に戦う体制づくりの踏み台になっています。

2011年にスーダンから独立した南スーダンでは、13年暮に大統領派と副大統領派が富と権力の分配をめぐって武力衝突し、16年春に和平協定にもとづく国民統一政府が発足したものの、早くも夏に自衛隊の活動する首都ジュバで戦闘が再開され、和平崩壊という経過をたどり現在に至っています。戦闘再開は、大統領派が副大統領派を排除して権力を独占するために引き起こしたものでした。このように、南スーダンではPKO参加5原則の停戦合意がすでに崩れています。しかも、南スーダンPKOの性格も大きく変質しています。自衛隊が初参加した独立当初のPKOは国づくりの支援が主たる目的でしたが、内戦開始後は軍事力による強制性の強い「平和構築」活動へ移行し、内戦再開後はさらに先制的攻撃もできる軍事的色彩の濃厚な4千人規模の地域防護部隊が発足しました。こうした状況下での新任務が自衛隊の戦闘参加、武力行使に至る危険が高いことは明らかです。

国連安保理は、南スーダンで蔓延する武器が、武力衝突の拡大や民族浄化に利用されることへの懸念から南スーダンへの武器禁輸決議をめざしてきました。ところが、日本政府はPKO活動の安全などを理由に反対に回りました。日本の反対もあって、決議案は廃案になりました。廃案によって大虐殺への危機が強まることになりました。何のための自衛隊の参加なのか、国際社会からも疑問が湧き起こっています。



■日米軍事一体化の現在

15年4月の日米防衛協力指針と16年9月の戦争法制定によって、日米軍事一体化が急速に進んでいます。今進行中の陸上自衛隊の全国的統一指令部・陸上総隊とその下に日本版海兵隊といえる水陸機動隊を創設する動きは、海外で戦闘する陸軍づくりにほかなりません。そして、埼玉県朝霞基地に置かれる陸上総隊のうち日米共同部だけが、米陸軍第1軍団前方司令部が移駐してきた(07年)米陸軍基地座間に派出されます。こうして、陸上自衛隊は陸上総隊と日米共同部をつうじて、米陸軍との一体化を遂げようとしています。

また、海上自衛隊の最高司令部と自衛艦隊は神奈川県横須賀基地で米第7艦隊と、航空自衛隊・航空総隊も東京都横田基地で米第5空軍と統合を遂げようとしています。

このように、海外で米軍と共に戦争をする、恐るべき戦う自衛隊の態勢づくりが、安倍政権の下で着々と進行しているのです。



■沖縄―建設・飛行再開の凶行

高江で世界遺産の価値がある自然を破壊して、オスプレイ用のヘリパッド新設と訓練場整備の工事が強行されました。その「見返り」として返還された北部訓練場の約51%は基地として使用不可能な土地であり、他方、上陸訓練が5倍増も可能となるなど基地機能が強化されました。工事強行の最中の10月、反対運動弾圧要員として派遣された大阪府警の機動隊員は「ぼけ、土人」「こら、シナ人」と差別意識丸出しの暴言を吐き、闘う人たちを弄しました。ところが、松井大阪府知事は「出張ご苦労様」と機動隊を慰労し、鶴保沖縄担当相は差別性を否定しました。「土人」「シナ人」発言とそれを容認する言動は、基地押しつけの根っこにある構造的沖縄差別の表れにほかなりません。

工事が完成に近づいた12月、米軍普天間飛行場のオスプレイが空中給油訓練中に墜落しました。ところが、事故原因が解明されないまま、事故からわずか6日後に空中給油以外の飛行再開、3週間後には空中給油訓練が再開されました。沖縄に駐留するニコルソン米第3海兵遠征軍司令官は「県民に被害がなかったから感謝すべきだ」と占領意識丸出しの発言をしました。安倍政権は、県民の命よりも、攻撃力増強をめざす米軍の方針にひたすら追随するばかりです。

12月27日には、名護市辺野古の米軍新基地建設の工事が再開されました。辺野古訴訟で最高裁が県側敗訴の判決を出してから1週間後のことです。最高裁は安保政策にかかわる裁判では一貫して、憲法棚上げ、政府追随一辺倒で、まさに絶望の裁判所です。辺野古訴訟でもその姿勢は変わらず、民主主義や地方自治を蹂躙する判決を出しました。高江―伊江島―辺野古を結ぶ米軍のトライアングルのカナメ=辺野古新基地建設の凶行に対するオール沖縄の闘いの火蓋は切って落とされました。

■改憲と戦死

安倍首相は、年頭から明文改憲への強い執念を露わにしています。「本年、安倍内閣は、新たな国づくりを本格的に始動する。」(1日)、「本年は日本国憲法の施行から70年という節目の年。…今こそ新しい国づくりを進めるときだ」「戦後のその先の時代を切りひらく、次なる70年を見据えながら、未来に向かって、今こそ新しい国づくりを進めるときだ」(4日)、「新しい時代にふさわしい憲法はどんな憲法か。今年は議論を深め、形づくっていく年にしていきたい」(5日)。「新たな国づくり」「戦後のその先」「次なる70年」という言葉に、安倍の核心的持論「戦後レジームからの脱却」のための改憲の狙いがよく表れています。「戦後レジームからの脱却」すなわち戦後平和・民主主義の破壊のための改憲に向けて、安倍政権は今年本格的に、憲法審査会を舞台にした改憲案づくりと政界再編を仕掛けてくるでしょう。

南スーダンから自衛隊員が棺となって帰国したとき、「戦死者」を「英霊」のようにほめたたえる声が湧きあがり、情動的な報道があふれるかもしれません。そんな空気を、安倍政権は戦争する国づくり、憲法改悪に最大限活用しようとするでしょう。

■共に闘わん

トランプ―安倍政権下での日米同盟の戦争同盟化、戦争法体制の強化、沖縄の自治と県民を踏みにじる基地新設・強化、いよいよ本格化してきた憲法改悪の準備、これらが全体として襲いかかってくる2017年、まさに反戦平和運動の正念場です。共に、歴史を刻む志を抱いて闘いぬきましょう!




関西共同行動ニュース No73