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戦争を欲する「死の商人国家」にさせないために
【武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表】 杉原浩司

■イスラエルと無人機共同研究へ

SFが現実になるのか。あり得ないはずのことが起こりつつある。

6月30日付で共同通信が配信したのは、防衛装備庁がイスラエルと無人偵察機を共同研究する準備を進めているというスクープ記事。既に両国の軍需産業に参加を打診し、準備は最終段階だという。

あのイスラエルである。パレスチナの占領を続け、ガザの封鎖を続け、空爆や地上戦による戦争犯罪を繰り返してきた、あの国。憲法9条の文言は一字一句変わっていないのに、こんなことがまかり通っていいのか。

共同研究は、イスラエルの無人機技術に日本の高度なセンサー技術などを組み合わせるもので、日本側は三菱電機や富士重工業、NECに、イスラエル側はイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAT)、エルビット・システムズなどに参加が打診されているという。

この記事が大分合同新聞などの地方紙に掲載された同じ7月1日、朝日新聞にも「無人機 悩む防衛省」と題した重要な関連記事が掲載された。既に3年前から、防衛省がイスラエルの中型無人機の調査を始めており、6月中旬にパリで開かれた世界最大級の武器見本市「ユーロサトリ」(隔年開催)で、防衛装備庁とイスラエル国防省の幹部が無人機に関する協議を行ったこと。日本政府が購入する米国製無人偵察機「グローバルホーク」が、運航頻度の低さ、運航コストの高さ、機密情報の範囲の大きさなどから使い勝手が悪いとみなされ、その「穴埋め」の意味でイスラエルとの共同開発が現実味を帯びてきたと指摘されていた。

■モラルハザードに陥った防衛官僚

伏線はあった。14年10月に放映されたNHKスペシャル「ドキュメント武器輸出」に繰り返し登場する堀地徹(ほっちとおる)防衛省防衛装備政策課長(当時)が、その年6月のユーロサトリのイスラエルブースでこう語った。「イスラエルの実戦を経験した技術力を日本に適用することは、自衛隊員のためにもなるし、周りの市民を犠牲にしないで敵をしっかり捉えることは重要。(イスラエルの)機体と日本の技術を使うことでいろいろな可能性が出てくると思う」。

この暴言に恐怖を覚えた私は、講演などで繰り返し、堀地発言の問題性を語り、いつか本人を直接追及したいと思ってきた。そして遂に、4月末の「防衛装備シンポ」でパネラーの堀地氏に質問した。NHKスペシャルでの発言をひきつつ、「あなたは戦争犯罪国家であるイスラエルと武器の共同開発をするつもりか」と迫った。これに対して堀地氏は「編集されたものには答えるつもりはない」と逃げ、終了後に問いただしても、「イスラエルの優れた防衛装備の調査はしている」とだけ語っていた。しかし、実際には、周到に無人機共同研究に向けた準備を進めてきていたのだ。

■イスラエルの戦争犯罪企業

では、パートナーにしようとしているイスラエルの軍需企業とはどのような存在なのか。アンドルー・ファインスタインの名著『武器ビジネス』(原書房)の下巻に、エルビット・システムズに関するこんなくだりがある。09年のパリ航空ショーでの話だ。「同社は自社の無人偵察攻撃機を紹介するために、大きなIMAXスクリーンを使って、パレスチナの村を仮想攻撃する映像をくりかえし流していた。鷹を思わせるセールスマンの群れが、「わが社の数十年におよぶ『実戦状況の兵器テスト』の話で顧客候補者たちを楽しませた」と。ここで言う「実戦状況の兵器テスト」とは、まさにパレスチナの人々の大量虐殺であり戦争犯罪に他ならない。

もう一つのIAIは、しばらく前にパシフィコ横浜で開催された国際航空宇宙展に出展し、無人機や迎撃ミサイルの模型を展示していた。そこにも、パレスチナを想定したスクリーン映像があった。

この恥ずべき暴挙を許すことはできない。私たちNAJATでは、既にネット署名を開始し、日本側の3企業に対して声を届けることを呼びかけている。今後、署名提出も含む防衛装備庁、軍需企業への申し入れやボイコット(不買)運動などを展開して、なんとしても止めたいと思う。

■レピュテーションリスク

ところで、武器輸出をめぐる動きは決して順調ではない。4月末、オーストラリアの次期潜水艦商戦で、日本は米国の後押しにも関わらずフランスに敗れた。そして、6月中旬のユーロサトリでは、2年前に出展した軍需大手の多くが出展を見合わせた。危機感を覚えた防衛装備庁は「下町ロケット」なる合言葉のもと、軍事転用可能な民生品を製造する中小企業の出展を促した。武器輸出三原則の撤廃から2年経ったが、武器本体の輸出はうまくいっていない。

6月16日放映のBSフジのプライムニュースで、森本敏氏は潜水艦商戦に敗北した要因をこう述べた。「いわゆる『レピュテーションリスク』(企業への否定的な評価や評判が広がることで信用やブランド価値が低下し、損失を被るリスク)という、「武器商人になるのか」と言われる気持ちも企業の中にまだ残っている。全てではないが、そこまで苦労して現地に乗り出すことにメリットを考えない会社もあった」と。

NAJATでは、企業名と武器輸出との関わり、要請先を明記したカラフルなチラシを大量配布し、企業に「死の商人にならないで!」という声を直接届けることを呼びかけてきた。それに応じた人々の働きかけが、企業に「レピュテーションリスク」を自覚させる一助になったのではないかと自負している。




■武器輸出反対を横断的課題に

6月2日、自民党国防部会は安倍首相に武器開発提言を提出した。「総合科学技術・イノベーション会議の構成員に防衛大臣を追加」「日本版『国防科学委員会』の設立」「防衛装備庁の人員拡充」「武器研究開発予算の大幅拡充」「軍事研究への助成金を6億円から百億円に大幅拡充」など危険な内容がてんこ盛りである。安倍政権は武器輸出に向けた態勢を再整備し、中小企業や学術界を組み込む形で「オールジャパン」体制を築こうとしている。

反戦運動に関わる人たちには、武器輸出問題を運動の一分野という狭い位置づけではなく、戦争の駆動力としての「軍産学複合体」を形成させない課題として共有してほしい。そして、地域の軍需企業への働きかけなどに取り組んでいただきたい。ここ1年から2年ほどの間にどれだけ頑張れるかが勝負どころだ。

※お薦め書籍 『武器輸出と日本企業』(望月衣塑子、角川新書)


関西共同行動ニュース No72