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仏テロと戦争拡大 【フリージャーナリスト】西谷文和



昨年11月13日パリで同時多発テロが起こった。そして今年3月22日にはベルギーのブリュッセルでもテロが起きた。確かにIS(イスラム国)のテロを容認するわけにはいかない。しかし「テロの恐怖」「イスラムへの差別偏見」が煽られ社会が分裂することこそ、ISが望むものだ。テロという強烈なショック、国民の思考停止とパニック、その後に急ピッチで戦争拡大・・・。これが9・11事件直後に起こったことだ。ここは立ち止まって冷静になるべきだ。

米国のCNNテレビによると、フランスのイスラム教徒は全人口の7〜8%を占める。なぜ1割近い人々がムスリムなのかというと、それはフランスが歴史的に北アフリカを占領してきたから。アルジェリア、モロッコなどアラブの人々が、仕事を求めてパリにやってきた。ちなみにパリの地下鉄は1900年から営業を始めるが、重機も何もない時代、手作業で地下を掘り進んだのはアルジェリア系移民労働者だと言われている。

では、そんなフランスに収監されている囚人のうち、何%がムスリムだろうか?

答えは70%。移民たちは相対的に貧困であり、犯罪率は高いだろう。しかし人口の7%に過ぎないムスリムが、「刑務所内人口」に限ればその10倍、70%というのは「同じ犯罪を犯しても、ムスリム、つまりアラブ系は必要以上に拘束される」ということだろう。フランスは本当に「自由・平等・博愛」の社会なのか?

フランス憲法35条は「フランス軍の海外派兵」を認めている。しかし35条の後半は、「政府は、海外派兵が4ヶ月を超える場合、その期間の延長について、議会から承認を得なければならない」と規制している。フランスがIS空爆に踏み込んだのは、14年9月19日。4ヶ月を足してみよう。15年1月18日までに「空爆延長決議」を通さなければ、軍を撤退させねばならない。15年1月の時点で、オランド大統領の支持率は史上最低の12
〜15%。「オランドは戦争をやめて失業対策に予算を使え」というデモがパリで起こっていた。そんな時、1月7日にシャルリーエブド事件が勃発。イスラム教徒を風刺する漫画を掲載していた新聞社を、犯人たちが襲撃し、合計で17名もの犠牲者を出すという世界を震撼させる事件が勃発したのだ。1月9日に犯人3人が射殺され、事件は収束する。2日後の日曜日、つまり1月11日にオランド大統領は「フランスはテロに屈しない。みんなでデモをしよう」と国民に呼びかけ、なんと370万人のフランス市民が集会に参加した。街には「私はシャルリー」と書かれたポスターが張り出された。

大集会の後、オランド大統領の人気は急上昇。そしてその2日後、1月13日にフランス議会はISへの空爆延長決議を、賛成488、反対1で通過させる。



かくしてフランスは現在も空爆を継続しており、評判の悪かったラファール戦闘機もたくさん売れていく。

ペンタゴンの資料によると、米、露、仏、英などによる空爆は合計で1万回を超え、その予算は何と空爆1回あたり1億円だ。欧米ロシアの軍産複合体は、「テロとの戦い=戦争」で大儲けしている。

オランド大統領は昨年11月の同時多発テロ事件直後にも、首謀者とされる若者アバウド容疑者を殺害した。殺害現場はパリ郊外、サン・ドニのアパート。アバウドがこのアパートに隠れていることをつかんだフランス警察と軍は、約100名でアパートを取り囲み、突入し約5千発の銃弾を浴びせた。5千発もの銃弾が体に入れば、肉体は粉々に飛び散ったのだろう。指紋が一致したので、アバウド殺害が証明された、と報道されている。でもこれっておかしくないか?本当に「テロと戦う」なら犯人を捕まえて尋問し、背後関係を探り、対策を立てるべきではないか?私は現場のアパートを取材し、確信した。テロリストは1人、警官と軍は100人。麻酔銃でも撃ち込んで眠らせれば殺さずにすんだはずだ。ライフル銃が簡単に手に入ったのはなぜか?自爆用の爆薬はどこから?非常に重要な事柄が「死人に口無し」なので判明していないのだ。

私たちはもう少し冷静に事態を見つめる必要がある。凄惨なテロ、そして戦争の拡大、という図式では誰も幸せになれない。「ここにテロリストがいる。だからテロとの戦いで壊滅させねばならない」。これが安倍首相やオランド大統領の理屈。しかし実際は逆で、「テロとの戦い=戦争」で大儲けをしたい人たち(軍産複合体)がいて、わざとISなどを取り締まらずに、テロが起きれば、「やっつけろ!」と、戦争を拡大させているのではないのか?

騙されてはいけない。私たちは「テロとの戦い」そのものを疑ってかかるべきなのだ。


関西共同行動ニュース No72