集会・行動案内 TOP
 
今後の裁判結果がどうあれ 国は辺野古の埋立工事に入ることはできない!
-「和解」の前提が崩れ、国はますます苦境に陥っている

【抗議船船長、沖縄平和市民連絡会】 北上田 毅




7月10日の参議院選挙、沖縄選挙区では伊波洋一さんが10万票を超える圧倒的な大差で当選した。県知事選、名護市長選、衆議院選、県議選に続く勝利である。政府はなおも「辺野古が唯一の選択肢」と主張して工事強行を狙っているが、これだけ連続して示された沖縄県民の民意を無視することはもう許されない。

以下、「和解」以降の辺野古の状況を説明し、今後、辺野古はどうなっていくのか考えてみたい。



【1】 国地方係争処理委員会の結論と今後の法廷闘争について---頓挫した国のもくろみ

本年3月の国と県の「和解」により現場の作業は全て中止され、大浦湾には静寂が戻っている。海上に張りめぐらされていたフロートもほとんど撤去された。まだ海底には大量の大型コンクリートブロックが放置され、臨時制限区域も解除されていないが、一昨年夏以来続いていた海上保安官らの暴力的な規制もなくなった。今では、カヌーや抗議船が大浦湾を自由に航行できるようになっている。その意味で、今回の「和解」、工事中止の意義はきわめて大きい。

今回の「和解」で翁長知事の埋立承認取消処分の効力が復活した。しかし国は、和解条項で求められた「円満解決に向けた協議」にも入らないまま、埋立承認取消しに対する「是正の指示」を行った。県は、ただちに国地方係争処理委員会(以下、「係争委」)に審査を申立てた。

裁判所の和解条項では、係争委が国の「是正の指示」が違法でないと判断した場合に県は不服があれば「是正の指示」の取消訴訟を提起する、また、違法と判断した場合でも国がその勧告に応じた措置を取らない場合も、県が「是正の指示」の取消訴訟を提起するとされていた。そしてその判決確定後は、国と県は「同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続きを実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する」(第9項)とされていたのである。

国は、「是正の指示」取消訴訟の勝訴を見込み、この和解条項第9項を拡大解釈して「県が今後の裁判に敗訴した場合、県は埋立に協力しなければならない」と主張してきた。この「是正の指示」取消訴訟は年末までには最高裁で確定すると言われており、国は来年1月頃には工事を再開することを狙っていた。

ところが6月21日、係争委は国の「是正の指示」の適否を判断せず、「国と県は、普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯に協議することが問題の解決への最善の道である」という結論を出した。和解条項でも「円満解決に向けた協議」の必要性が指摘されたが、係争委からも「真摯に協議する」ことを求められたのである。その意味では、早急に司法判断を得て工事再開を狙っていた国の目算は完全に狂ってしまった。

県は、この係争委の結論は和解条項の県提訴の条件に該当しないとして1週間以内の提訴を見送った。また、地方自治法で「係争委の審査結果に不服の場合に提訴できる」とした30日の期限は7月21日となるが、やはり県は国を提訴せず、解決に向けた協議を国に求めていくという方針を出した。

翁長知事の埋め立て承認取消の効力が復活しているため、このままでは国は工事を再開できない。国が工事を再開するためには、県が「是正の指示」に従わない(不作為)として違法確認訴訟を提起するほかない。しかし、今後の裁判の行方も国にとって決して予断を許さないと言われている。

【2】 今後の裁判結果がどうあれ、国は辺野古埋め立て工事に着手できない

⑴ 知事の最大の対抗手段---埋立承認の「撤回」さらに今後の裁判で県が敗訴した場合でも、知事権限で埋め立て工事を阻止することができる。もし今後の裁判で県が敗訴した場合、知事の埋め立て承認取消処分は効力を無くし、国はただちに工事を再開しようとする。それを止めるためには、知事はすぐに埋立承認を「撤回」すればよい。

今まで争われていた埋立承認の「取消し」は、承認の審査の過程に法的瑕疵があったとして行われたが、「撤回」は承認後に生じた事由によりその効力を存続させることができない新たな事情が生じた場合に行われる。新基地建設に反対する県民世論、そして事業の実施段階での防衛局の様々な違法行為等が「撤回」の事由となる。

知事の埋め立て承認の「撤回」により、国はまた工事を中止しなければならなくなる。そして再度、何回もの法廷闘争で知事の「撤回」処分の取消を求めなければならず、事態は振り出しに戻る。

⑵ 今後、何回も必要となる設計概要変更申請の承認も知事権限

さらに埋め立て承認の「撤回」が、国の法廷闘争で取り消された場合でも、まだ知事には強い権限がある。

まず防衛局は、当初の埋立承認願書の「設計の概要」を変更する場合、設計概要変更申請(以下、「変更申請」)を知事に提出し、承認を得なければならない(公有水面埋立法第13条)。大規模な埋立の場合、通常、何回もの変更申請が必要になる。米軍岩国基地の埋立では、防衛省は8回の変更申請を行った。今回の事業ではさらに多くの変更申請が避けられない。それを知事が承認しない限り、埋め立て工事は頓挫する。

防衛局は一昨年9月、①美謝川切替ルートの変更※1、②埋立土砂運搬方法の一部変更※2等の変更申請を当時の仲井真前知事に提出した。ところが埋め立てを承認した仲井真前知事時代の沖縄県政でも、これらの変更申請は環境への影響が危惧されることから承認ができず、結局、防衛局はこれらの申請を自ら取り下げざるを得なかったのである。

※1 美謝川の切り替え

美謝川は辺野古ダムから大浦湾の最初に埋め立てが行われる箇所に流れ込んでおり、川のルートを切り替えない限り、埋め立て工事に着手できない。そのため埋立承認願書では、辺野古ダムの支流から国道329号線を暗渠で横断し、第2ゲート付近から埋立区域の北側に新しい水路を造成する計画だった。

しかし、辺野古ダムの管理者・稲嶺名護市長の反対でこの計画は頓挫。防衛局はやむなく、現行河川の下流部を全て暗渠化し(長さ:1023m)、埋立区域の北側に放流するという設計概要の変更を申請したのである(別図参照)。しかし、長さ1 km以上もの暗渠は環境への影響があまりに大きいとして仲井真前知事の承認が得られず、防衛局は変更申請を取り下げてしまった。今後、少し手直しされた変更申請が再提出されても翁長知事の承認は有り得ない。この美謝川の切り替えが、防衛局が最も苦慮している問題であろう。

※2 土砂運搬方法の変更

今回の埋立工事は、大浦湾の奥の区域からまず施工される。この区域の埋立には、辺野古ダム周辺の土砂が持ち込まれる(約200万㎥)。埋立承認願書では、ベルトコンベアで土砂を大浦湾に運び込むとされていた。

ところが、辺野古ダムを管理している稲嶺名護市長が、ダムを跨いでベルトコンベアを架設することを認めない。そのため防衛局は一昨年の変更申請で、辺野古ダム西側の土砂については、ダンプトラックで国道329号線を通って運び込む計画に変更せざるを得なくなった。防衛局は土砂運搬のダンプトラックは、「1日592台」と説明したが、他の工事車両を合わせれば、ピーク時では合計1400台/日以上の工事車両が国道を通行することとなる。一日の作業時間を8時間とすれば、約20秒に1台という大変な通行量だ(他にも当然、一般車両や米軍車両等が通過する)。

この土砂運搬方法の変更申請についても、仲井真前知事の承認が得られず、防衛局は申請を取り下げてしまった。今後、変更申請が再提出されても翁長知事の承認は有り得ない。



⑶ 他にも多くの知事権限

他にも知事は、① 岩礁破砕許可の取消し権、②埋立区域のサンゴ類移植のための特別採捕許可権、③赤土等流出防止条例に基づく協議権、④実施設計の事前協議権、⑤県外からの土砂持込計画の協議権、⑥「土砂の採取場所及び採取量の変更」の承認権等の多くの権限を持っている。知事がこれらの権限を毅然と行使すれば、防衛局が埋め立て工事に着手することはできない。

【3】 最後に

以上、述べてきたように知事が毅然と対応する限り、辺野古新基地建設事業が頓挫することは明らかだ。

また、今回の米軍属(元海兵隊員)による女性殺害事件により、キャンプ・シュワブのゲート前だけではなく、嘉手納基地や北部訓練場でも、県民の「危険な米兵を基地から出すな!」、「全ての米軍基地撤去!」という身体をはった抗議行動が始まっている。辺野古新基地建設に反対する県民の闘いも新たな段階に入ったといえよう。

しかし、防衛局は参議院選挙の翌日、多くの機動隊を動員して北部訓練場のヘリパッド工事に着手した。さらに全国からの500人の機動隊をあわせて、1000人規模の警察官を高江に動員するという。

政府のなりふりかまわない強行姿勢を阻止するためにも、全国から高江に結集されるよう訴えたい。




関西共同行動ニュース No72