集会・行動案内 TOP
 
憲法から考える沖縄基地問題 辺野古新基地建設をめぐる訴訟と和解  【関西大学】 髙作正博


序――埋立承認の取消から和解まで

 仲井眞弘多・前沖縄県知事が、公有水面埋立法に基づいて埋立承認を行った処分について、翁長雄志・現沖縄県知事は、それを取り消す処分を行った( 15年10月13日)。これに由来する国と沖縄県との対立と訴訟は、軍事的合理性のためであれば、民主主義、自由主義、法治主義をも無視する権力行使の現実を浮き彫りにした。事態を読み解くには、2つの大きな軸に区別して整理することが必要となる。

2016.03.05 毎日


《1》 「執行停止決定」取消訴訟と手続上の問題

 第1に、国交相による「執行停止決定」をめぐる軸である。国は、行政不服審査法に基づき不服審査請求を行った( 15年10月14日)。これを受けて、国交相は執行停止を決定し( 10月27日)、工事が続行されることとなった。新基地建設を止めるには、執行停止決定自体を取り消す必要がある。沖縄県は、国地方係争処理委員会に審査申出をし( 11月2日)、その却下裁決( 12月24日)を受けて2つの取消訴訟を提起した。執行停止決定を直接対象とする取消訴訟( 12月25日、行政事件訴訟法)と、国地方係争処理委員会の採決を経て執行停止の取消を求める訴訟( 16年2月1日、地方自治法)である。

 手続上の問題として、次の2点を述べることとする。第1に、国が不服審査請求を行うことができるのか、という点である。判例は、①不服申立制度の趣旨が「原則として、国民の権利・利益の救済を図ること」であること、②それ故、不服申立を行うことができるのは、「自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」とし(最高裁78年3月14日判決)、行政主体による申立を認めていない。埋立の目的が、米軍基地を提供するためのものであり、私的権利の救済ではないという点が重要であり、国が「私人」として現れる余地はない。国の不服審査請求は法律の趣旨を逸脱するもので、法治主義に反する行為と解される。

 他方、第2に、沖縄県による取消訴訟の申立が認められるかどうかも問われる。取消訴訟の趣旨も、「国民の権利・利益の救済」にあると考えられるからである。判例は、那覇市情報公開決定取消訴訟(最高裁01年7月13日判決)、宝塚市パチンコ条例事件(最高裁02年7月9日判決)等で、国や地方自治体による訴訟を「一般公益の保護」を目的とする等の理由で却下とした。しかし、地方自治権は憲法上保障された原理であり、自治体に対する国家の関与がその限界を越えた場合には、救済手段が認められなければならない。諸外国でも、市町村にその独自の利益を防衛するため、国家行為を争うことが認められている。以上の点からして、自治体からの取消訴訟は許容されるべきと解される。

《2》 「代執行訴訟」における論点と新基地建設の是非
 
 第2に、国による「代執行訴訟」をめぐる軸である。国からの是正の「勧告」( 15年10月28日)、埋立承認取消の撤回「指示」( 11月9日)を沖縄県が拒否したことから、国が福岡高裁那覇支部に提訴した( 11月17日)。ここでは、訴訟の成立自体が問題視されないため、埋立承認の取消処分の正当性が正面から問われるものとなる。国の主張は、①翁長県知事の処分は判例に違反すること、②仲井眞前沖縄県知事の埋立承認には法的瑕疵はなく、辺野古に新基地を建設することが「適正且合理的」であること等である。

 まず、第1の点について、判例は、市民の信頼確保と法治主義の必要性とを考慮し、「処分の取消によって生ずる不利益」と、処分を「そのまま維持することの不利益」とを比較考量して判断すべきとする(最高裁昭和43年11月7日判決)。国は、それぞれの不利益を挙げ、「前者が後者をはるかに上回ることは火を見るより明らか」とする。しかし、国の主張には説得力がない。本件では、私人の信頼を保護する必要性は存在せず、法治主義に基づき行政行為に瑕疵がある場合には当然に取り消されるべきと考えられる。①住民の騒音被害や自然環境への影響や、②沖縄の過重な基地負担が固定化される不利益は過小に評価されるべきでなく、③辺野古埋立は、普天間飛行場の危険性と置換可能な要素ではないこと等からして、埋立承認を維持することの不利益の方が大きいというべきである。

 第2の点について、国は、①沖縄県には「適正且合理的」かどうかの判断権はない、②辺野古に新基地を建設することは「適正且合理的」である、③前知事の承認処分には裁量権の逸脱・濫用はないと主張する。特に、②について、沖縄県の「地理的優位性」「抑止力維持」を強調している。しかし、この主張にも問題がある。軍事的に沖縄に固執する必要のないことは指摘されており、海兵隊の運用の実体(ローテーションの現実)と合わせて、米軍の「抑止力」論には重大な懐疑がある。また、米軍再編による兵力削減が決定されており、有事対応能力にも疑問があること等が指摘されなければならない。

結――和解の意義と今後の事態

 国と沖縄県との間で成立した和解(暫定的和解案)により、国は、代執行訴訟及び不服審査請求を取り下げ、埋立工事を中止することとなった。工事は中断されたものの、「辺野古移設が唯一の選択肢」とする立場は変わっておらず、国と沖縄県との協議は継続され、同時に、一本化された別の訴訟の結果に従うことも合意された。沖縄県の側からすれば、第1に、他の許認可権による移設阻止の手段を封印された形となること、第2に、代執行訴訟では、裁量権を行使した被告として有利な立場にあった(それを覆す原告の方が負担が大きい)が、別の訴訟では主客逆転となり、沖縄県が原告となって国の是正指示を取り消す必要があること等、和解に伴う不利益も看過できない。代執行訴訟の議論が沖縄県有利に進められていたように思われるだけに、和解が及ぼすマイナスの効果が危惧される。

2016.03.05 毎日



関西共同行動ニュース No71