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【巻頭言】  戦争前夜―戦争への対抗運動を! (Ⅱ) 中北龍太郎



 前号( 70号)では、同じタイトルで、(1)「積極的平和主義」の起源・由来、(2)新たな戦前―①安倍壊憲クーデター、②戦争への道、③新たな戦前へ、(3)戦争化の動き―①戦争への国民動員、②経済的徴兵制、③死の商人国家へ、の小見出しで情況分析をしました。

 今号はその続編で、改憲の動きと沖縄基地問題、そして戦争への対抗運動について問題提起します。私たちは、稲嶺進名護市長をお招きして、3・27「イラク開戦13年 廃止しよう!戦争法 とめよう!辺野古新基地建設」関西集会を開催しますが、本稿はこの集会の意義を訴えることも兼ねています。

■風雲急を告げる安倍改憲の動き

 安倍首相は、今年に入って憲法「改正」をめぐる発言を強めています。(1月)「憲法改正は参院選でしっかり訴えていく」、(2月)「自衛隊の存在自体が明記されていない。実力組織、海外では軍隊だが、新たな現実的な段階に移ってきた」、(3月)「私の在任中に(憲法改正を)成し遂げたい」と発言をエスカレートさせ、改憲へ突き進んでいます。明文改憲の突破口が憲法への緊急事態条項の導入です。

 緊急事態条項とは、国家存立の危機を克服するために、首相に権力を集中させ、市民の権利を制限するなど、憲法の核である三権分立と人権保障のいわば一時停止です。緊急事態条項は、12年発表の自民党憲法改正草案にも盛り込まれています。武力攻撃や自然災害に加え、「内乱等による社会秩序の混乱」を緊急事態に含めており、「等」の拡大解釈により際限なく拡大される危険があります。そして、首相が緊急事態宣言をすると、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定」でき、さらに市民は国などの指揮命令に従う服従義務を負うことになります。

 憲法は一切緊急事態に関する定めをおいていません。戦前は憲法上水ももらさない緊急国家体制が取られており、これが軍国主義と戦争に最大限利用されました。憲法は、この反省に立って、平和と民主主義破壊の元凶となる緊急事態条項を排除したのです。この憲法の趣旨を踏みにじる緊急事態対処の改憲は、憲法の停止による人権と民主主義の廃墟の上に戦争体制を築く、そんな危険に満ちています。

 ナチス政権は、国会で授権法を制定して、国会から立法権を奪い取り、憲法違反の法律を制定できる権限まで手にしました。これにより、ヒトラーは、独裁的権力を手中におさめ、当時最も民主的とされたワイマール憲法を空洞化して、侵略戦争への道を突き進んだのです。安倍政権は、麻生太郎の「ナチス政権の手口に学んだらどうか」の発言を忠実に実行して、再び戦争への道をひた走っています。



■新基地建設は沖縄の軍事要塞化

 名護市辺野古での米軍新基地建設は、日本を米軍と共に戦う国にするための最も重要なベースづくりです。代執行訴訟における国と沖縄県の和解成立で辺野古基地問題は新たな段階に入りましたが、今後の展開は予断を許しません。この問題は、「日米沖関係史の戦後70年の総括点であり、その今後を考える起点でもある」(新崎盛暉著「日本にとって沖縄とは何か」岩波新書)。沖縄に米軍基地を集中させ、その結果深刻な基地被害を沖縄に押しつけてきた沖縄米軍基地問題は、決して沖縄問題ではなく、まさに日本問題です。そのことは、沖縄基地問題の根本が、日本政府に米軍への基地提供を義務づけた日米安保条約にあることからも明らかです。

 沖縄の米軍基地問題の起点は沖縄戦にあります。太平洋戦争の転換点となったミッドウェー海戦で勝利した米軍は、太平洋の島伝いに北上していきました。平和な島・沖縄は、日本の侵略戦争が破局を迎えるとき、日本本土の防波堤と位置づけられ、日米最後の決戦場になりました。沖縄戦は、「国体(天皇制)護持」を条件とする和平交渉の条件をつくるための「捨石作戦」と位置づけられていました。一人当たり平均1トンもの砲弾が撃ちこまれ、「鉄の暴風」が吹き荒れました。民間人約9万4千人をはじめ県民の4人に一人が命を失いました。日本軍は、国体を守る組織であり、住民を巻き込み犠牲にして戦いを進めたばかりか、住民殺害事件(スパイ容疑による虐殺、乳幼児虐殺、軍の命令による集団自決の強要など)まで引き起こしました。

 米軍は、沖縄上陸と同時に、沖縄における米軍政府の設立を宣言しました。米軍にとって、沖縄戦の最大の目的は日本本土への侵攻作戦の最前線基地をつくることでした。米軍は、沖縄戦の最中にも、地域住民を北部の民間人収容所に集め、中南部一体で集落を敷きならして軍事施設をつくっていきました。

 日本はポツダム宣言を受諾し連合国に降伏した結果結局本土決戦は行われず、日本は連合国軍の占領下に入り、沖縄は米軍単独の軍事占領が続けられました。米政府は、冷戦が進んだ47年から48年にかけて沖縄を「太平洋の要石」と位置づけ、49年から沖縄の恒久基地建設に乗り出しました。50年6月に朝鮮戦争が始まると、嘉手納飛行場には戦略爆撃機B 29が配備され、朝鮮半島への直接出撃拠点になりました。

 国体護持のための本土の捨石として沖縄に苛酷な犠牲を強いた沖縄戦の敗戦を通じて、沖縄は戦後、米軍基地の集中というもう一つの苦難を押しつけられることになったのです。ここに、沖縄基地問題の原点があります。

■戦争への対抗運動を!

 戦争への道を突き進む安倍政治によって、民主主義と立憲主義が踏みにじられ、平和と人権が壊されています。私たちは、新たな戦前に抗して、民衆の手でこの二つの原理を再生し、平和と人権を取り戻す、そんな戦争への対抗のうねりを創りだすことが求められています。

(1) 民主主義の形骸化と非立憲の政治

 秘密保護法から戦争法まで反対世論が多数であったように、安倍政権の「戦後レジームからの脱却」=戦後民主・平和主義の解体という極右的政治理念は、世論との間に大きな溝ができています。民意を踏みにじって法案を強行採決した安倍政治は、国会を数の暴力の場におとしめ議会制を形骸化しました。選挙時のほんの一時の支持のみをもって、その後は何をしてもおかまいなしに万能の権力をふるう政治は、民主主義の原理から全くかけ離れています。これが安倍政治の戦後政治における突出した特質です。

 安倍政権は次々と、違憲の法律を制定したり、憲法の趣旨に反する政策を実行して憲法を空洞化し、さらには全面的明文改憲を狙っています。憲法は、個人の尊厳を基礎にした平和と人権を達成するために、憲法制定の主体である民衆がつくった政府の暴走に対する法的なしばり・歯止め(法規範)です。この憲法を侮蔑し、ないがしろにする非立憲の政治が、安倍政治の際立った特質です。

 民主主義と立憲主義を捨て戦争に走った昭和ファシズムの歴史を再現してはなりません。戦争がこの二つの原理の最大の敵であり、二つの原理を再生して戦争をとめましょう。

(2) 民主主義の再生が鍵

 議会制が形骸化し民意無視の政治が横行している現在、民主主義の原点に立ち戻って、議会制とは別の回路である直接民主主義の発展を期すことが重要になっています。戦争法案廃案運動は、新たな憲法の理念を取り戻す直接民主主義のうねりとなりました。辺野古基地反対運動は、地方自治と民主主義をかけた何よりもいのちを大切にする文字どおりオール沖縄の闘いとして大きく発展しています。本土でも沖縄でも直接行動が社会全体のダイナミズムを生み出し、新しい政治への地殻変動を巻き起こしています。

 こうした一人一人の行動を通じて、参加する政治、民衆の多様な声が反映される政治に近づいていくことができます。まさにデモがデモクラシーを創っていくのです。形骸化した制度としての議会制を乗り越え、永久革命としての民主主義(政治学者丸山真男)、未完のプロジェクトとしての民主主義(ドイツの哲学者ハーバーマス)の実践こそが憲法の理念に立った希望の政治を切り拓く鍵になっています。

(3) 立憲主義の再生こそが重要

 憲法は、民主主義と立憲主義を踏みにじって戦争に突き進み大量殺りくに行きついた歴史に対する根本的反省から、この国の新しいかたちを抜本的に再構築していくための法規範として誕生しました。この憲法の最大の意義は、憲法前文で、「政府の行為によって再び戦争の惨禍がおこることのないようにすることを決意し」て、全世界の民衆の「平和のうちに生存する権利」(平和的生存権)を保障することをうたい、憲法9条で、政府が戦争や武力行使の軍事暴走をしないように武力なき平和を法規範として確立したことにあります(立憲平和主義)。

 しかし、歴代政権は9条のしばりを緩める政策をとり、安倍政権は戦争法制定によって9条の空洞化を極限まで推し進めました。こうした政府の9条破壊に抗して、民衆は9条を政府の軍事政策に対する抵抗の武器として活用してきました。民衆自らの力でファシズムを倒す市民革命によって新憲法を制定することができなかった負の歴史を、憲法を守りいかす民衆運動によって日本の宝として憲法を市民社会の中に定着させてきました。9条を失うことは、日本民衆のアイデンティティを失うことを意味します。安倍政権の改憲策動が強まってきた今年が、憲法をめぐる決定的な1年になることは間違いありません。

 昨年来の新しい平和のうねりは、民衆の手で憲法の理念を根づかせる市民革命への胎動です。民衆が主体となった民主主義と立憲主義の再生、すなわち平和の世を築く市民革命を起こしましょう。オール沖縄による辺野古新基地建設反対運動が、まさに基地も戦争も許さず、民主主義と立憲主義を再生する最前線の闘いとして大きく発展しています。この闘いを本土でしっかり支え連帯を強めましょう。戦争法廃止と新基地建設をとめる、この二つの課題を戦争への道を断ち切る一体の闘いとし、巨大な戦争への対抗運動を創りだしましょう!


関西共同行動ニュース No71