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【巻頭言】  戦争前夜―戦争への対抗運動を! 中北龍太郎



 安倍政権は、戦争法を制定して海外での武力行使への道を突き進み、軍事・政治・経済・社会・文化・精神の戦争化を推し進めています。戦争前夜ともいうべき状況下で、戦争への対抗運動づくりが急務になっています。対抗運動の発展に向けて、戦争する国づくりの旗印になっている「積極的平和主義」の起源・由来や新たな戦前の現況と動向について問題提起します。

■「積極的平和主義」の起源・由来

 安倍政権の「積極的平和主義」(以下でも、安倍式積極的平和主義にはカギかっこをつけます。)とは、海外派兵など武力を用いて国際社会に積極的に軍事貢献することを意味しています。これに対し、平和学では、積極的平和主義は、貧困・抑圧・差別などの戦争の原因となっている構造的暴力を非暴力手段により克服して平和を達成することだと理解されてきました。安倍式「積極的平和主義」と平和学の積極的平和主義とは名称は同じですが、その内容は真逆です。

 「積極的平和主義」は安倍政権の下で初めて登場したものではなく、冷戦時代の80年代半ばに中曽根首相が唱えた「国際国家日本」に胚胎しています。中曽根は、「強いアメリカ」を掲げるレーガンの「力による平和」戦略に呼応して、武力による積極的な国際貢献を通じて「国際国家日本」をめざしました。自民党政権の「積極的平和主義」の起源はこのあたりにあります。

 冷戦終結後の90年の湾岸危機、91年の湾岸戦争が海外派兵の契機になりました。湾岸戦争が勃発した91年1月自民党は、軍事的国際貢献のための抜本的な制度の見直しを打ち出しました。

 海外派兵法制定に向けて「国際貢献」や「国連協力」といった美名がふりまかれるなか、92年6月PKO等協力法が成立しました。これにより海外派兵禁止原則に風穴があけられ、安保体制の世界化、日本の政治・軍事大国化の突破口になりました。

 その後も、海外派兵の拡大をめざす動きはやむことなく続き、93年2月自民党小沢調査会は、海外派兵による軍事貢献=「積極的平和主義」の実行を提言しました。その一環として、「積極的平和主義」こそが平和憲法に適合するというように憲法解釈を改めるべきだと訴えています。こうした解釈は、憲法の精神を軍事的安全保障に合致するように180度転換する究極の平和憲法否定の論理にほかなりません。

 こうした80年代~ 90年代の海外派兵政策と憲法解釈の歪曲の動きが安倍式「積極的平和主義」の起源であり由来になっているのです。



■新たな戦前

(1) 安倍壊憲クーデターの暴発

 安倍政権は、民主主義と憲法を踏みにじって、戦後70年積み重ねてきた他の国の人々を殺し殺されないこの国のかたちをこわしてしまいました。

 安保法制(戦争法)は、どの世論調査でも「今国会での成立に反対」が6割をこえていました。にもかかわらず、安倍政権は、民主的な議会運営とほど遠い暴力的・独裁的手法で戦争法を強行採決しました。民主主義の府とされる国会の場で、この国の民主主義は安倍政権の手でズタズタにされたのです。

 戦争法が憲法違反(違憲)であることは、今や市民社会の常識になっています。政治は、市民が人権と平和の保障を徹底するために制定した憲法にもとづいて行わなければならないという立憲主義の原則は、近・現代世界の普遍的原則になっています。集団的自衛権の行使は違憲であるとしてきた歴代政権の憲法解釈をでたらめな解釈でくつがえした戦争法強行可決は、9条はもとより憲法全体を根こそぎ台無しにする暴挙であり、安倍政治が終わらない限り憲法と立憲主義は無視され続けることになります。

 まさに戦争法の強行採決は安倍壊憲クーデターでした。これにより、「戦闘地域」での米軍への後方支援、戦乱が続く地域での治安出動、海外で米軍を守るための武器使用、集団的自衛権の行使など、自衛隊が地球のあらゆる場所で武力行使を行う仕掛けが何重にも張りめぐらされました。戦後初めての武力行使に至る日が刻々と迫っています。

(2) 戦争への道

 海外で戦争する国づくりは米国の一貫した対日要求であり、その狙いは、米世界軍事戦略に日本を組み込み、米国の戦争に自衛隊を活用することにあります。戦争法制定は、「自衛隊が米国人のために命をかけることを宣誓」(アーミテージ元国務副長官発言)したことを意味しています。日米同盟は「血の同盟」(安倍発言)になり、対米従属の下での日米軍事一体化と日米共同戦争体制がさらに深まることは必至です。安倍政権の野望は、日米共同戦争体制を通じて軍事強国・政治大国への道を進め、米国の地球規模での支配体制に参与することにあります。

 戦争への道はもちろん戦争法制定で完結するものではありません。海外で戦争するための兵器・装備の拡充、沖縄名護市の辺野古基地など基地の新設・強化、平時における日常的な日米軍事一体化や日米共同の戦争訓練・準備、戦争法の発動による海外派兵、マスコミ・教育統制や管理・治安体制の強化などの政治・社会・経済・文化・精神の戦争化、過去の植民地支配・侵略戦争の美化、よりハードな新戦争立法、憲法改悪など、戦争への道は多面的に推し進められようとしています。その行きつく先は戦争です。戦争への一歩一歩は、民主主義や立憲主義を次々となぎ倒しながら進んでいくのです。

(3) 新たな戦前へ

 戦争する国づくりを推し進める安倍政治の根本理念であり究極の目的が、第1次安倍政権下の07年9月の所信表明演説で唱えられた《戦後レジームからの脱却》です。

 脱却すべきだとされる《戦後レジーム》(戦後体制)は、敗戦後占領下における民主改革によって誕生した日本国憲法とその理念のもとにつくられた平和と人権、民主主義と立憲主義を何よりも大切にする体制をさしています。安倍は、明治以来の日本の戦争は自存・自衛の戦争であり、侵略戦争という見方は自虐史観であると訴える歴史改ざん主義者です。今年8月14日に発表された「安倍談話」にも、植民地支配と侵略を美化する歴史観をあちこちにちりばめていました。安倍は、侵略戦争を裁いた東京裁判は勝者による誤った断罪であり、民主改革は日本を弱体化するためだったととらえています。軍事・政治・経済における強い国をつくり、国のために尽くし命をささげることが何よりも美しいとされる国を取り戻す、これが《戦後レジームからの脱却》です。

 安倍は、第1次政権下で、教育基本法を「改正」し、憲法「改正」の布石として改憲手続法を制定しました。第2次政権下の13年12月にはわずか1か月足らずの間に、秘密保護法制定、「国家安全保障戦略」発表、国のために戦死した人々やA級戦犯をまつっている靖国神社への参拝、仲井真沖縄県知事に辺野古基地建設のための埋め立てを承認させました。こうして着々と実行されてきた“戦後レジームからの脱却”は、戦争法制定によって飛躍的に進み、時代は新たな戦前へ大きく回ってしまいました。

 その犠牲となり失われていくものは、平和と人権、民主主義と立憲主義です。安倍政治を変えなければ、戦争する強く美しい国づくりが果てしもなく続くことになります。

■戦争化の動き

 戦争法成立によって、戦争への国民動員、若者の経済的徴兵、死の商人国家化の動きなど、多面的に戦争化の動きが強まっています。

(1) 戦争への国民動員

戦争への国民動員システムは、米国がアフガンからイラクへ戦火を広げていた03年、04年に、あいついで成立した有事(戦時)法制によって整えられました。第1に、地方公共団体や放送・新聞・運送・電気・道路・電力・ガス・空港など多くの民間企業が戦争協力を義務付けられました。第2に、国民も日米両軍の作戦行動に動員されることになりました。第3に、生産・販売・保管・輸送などの業者から物資を取り立てたり、建築・医療関係者に戦争協力を強制できるようになりました。これら動員体制は、日本への武力攻撃事態と大規模テロへの対策を目的とするものでした。

 アフガン・イラク派兵の終了にともなって、有事法制は無用の長物になっていました。ところが、他国への武力攻撃に対する集団的自衛権の行使や米国の戦争への後方支援に道を開く戦争法の成立によって、有事法制は米国の戦争に参戦するための国民総動員システムとなりました。戦争法の中に集団的自衛権が発動される存立危機事態が生ずれば官民は協力すると定められており、この規定は地方公共団体や民間企業を国の戦争体制に組み込む役割を果たします。また、存立危機事態は多くの場合日本への武力攻撃事態とは重なるため、この場合有事法制が発動され、官民あげての戦争体制になります。自衛隊や米軍の軍事活動の支援を目的とした、運送事業者による輸送、空港の軍事優先利用、報道統制、物資の取り立て、建築・医療関係者への業務の強制、住民の強制移動など例をあげれば切りがありません。誰もが米国の戦争への協力を強いられるのです。

 戦争法を廃止しない限り、戦争協力の名のもと、市民は日常的に重大な人権侵害にさらされることになります。それにとどまらず、国民総動員体制へ向けた有事法制の拡大・強化、緊急事態条項を中心とした第1次改憲の動きも迫ってくるでしょう。

(2) 経済的徴兵制

 戦争法成立によって自衛隊員が戦死する危険が高まり、慢性的な若者不足という自衛隊の実態は一層深刻になるとされています。その対策のウルトラCが国民に対して兵役を課す徴兵制ですが、いきなり制度としての徴兵制が導入されるというわけではなく、まず経済的徴兵制が先行することになります。経済的徴兵制とは、本人が望んでいないにもかかわらず、貧困に苦しむ若者に軍隊に入ることを強いる体制です。

 志願兵制を取っているアメリカの場合、若年貧困層に対し「大学の奨学金がもらえる」「奨学金返済を肩代わりする」などの言葉で軍隊に勧誘し、若者を戦地に駆り出しています。 自衛隊は、これまでもぼう大な労力と経費をかけて新隊員の募集にやっきになってきました。戦争法成立後、隊員獲得活動はさらに激化すると言われています。14年5月、日本学生支援機構運営委員の前原金一経済同友会専務理事が、奨学金の返済延滞者に対して防衛省で就業体験をさせたらどうかと提言しました。これも経済的徴兵制のススメにほかなりません。

 非正規雇用が4割にも達し、アベノミクスの下で経済格差が急速に拡大し、若者の貧困化が深刻化しているなかで、貧困から抜け出すために海外で戦死する危険を覚悟で自衛隊に入るというような絶望の2択を強いる社会がヒタヒタと近づいています。



(3) 死の商人国家へ

 安倍政権は14年4月、憲法9条にもとづいて国是とされてきた武器輸出(と共同開発)の禁止原則を廃止し、武器輸出を解禁すると決定しました。武器輸出は他国との軍事協力の一環と位置づけられており、武器輸出は海外派兵と直結しています。武器輸出は軍需産業が強く求めてきたものであり、オーストラリアとの新型潜水艦の共同開発だけで10年で総額4兆円が動きます。これだけで、日本は世界の武器輸出ランキングで一気に第3位になります。武器輸出は、産業の軍事化で経済の活性化をめざすもので、アベノミクスの隠し玉と言われています。15年10月には、武器輸出の推進や軍需産業の強化を図る職員1800人の防衛装備庁が発足しました。

 米国では、軍部と産業のゆ着構造=軍産複合体が戦争によって巨大化してきました。米国は世界最大の軍事費支出国、武器輸出国であり、軍需産業は、政府の軍事予算や武器輸出からばく大な利益を得、米産業の支柱になっています。軍産複合体は、世界を軍事化し、戦争にかり立てているのです。アイゼンハワー大統領は61年の退任演説で、軍産複合体の危険性に警鐘を乱打しました。しかしその後、軍産複合体はとてつもなく危険な巨大怪物と化し、軍拡と戦争の最大の元凶になっています。

 戦争法成立後のこれから、日本版軍産複合体の巨大化が始まろうとしています。そうなると、武器輸出により地域紛争を激化させ、また軍需産業の利益のために武器・弾薬を消耗する戦争に参加する構造ができあがります。戦争でもうけ、もうけるために戦争する死の商人国家、それが安倍政権の進めるこの国のかたちにほかなりません。




「我々は、政府の委員会等において、それが意図されたものであろうとなかろうと、軍産複合体による不当な影響力の獲得を排除しなければなりません。誤って与えられた権力の出現がもたらすかも知れない悲劇の可能性は存在し、また存在し続けるでしょう。 この軍産複合体の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにせねばなりません。」(アイゼンハワー米第34 代大統領)




関西共同行動ニュース No70