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安倍政権を葬る中で新しい視野に捕らえる戦後日本をめぐる原理次元での対決

【ピープルズプラン研究所】 武藤一羊




【この文章は「検証:被爆・敗戦70年―日米戦争責任と安倍談話を問う―」実行委員会主催の「8・6ヒロシマ平和へのつどい2015」での講演です。1時間30分に及ぶ長大な講演でしたので、すべての文章化は不可能でした。演題にかかわる中心的部分に絞っての報告です。―星川】

■国家正統化の3つ原理

現在の安倍政権は非常にピンチな状況にあります。89年参議院選挙での社会党の大躍進、自民党の過半数割れを受けて土井たか子さんが「山が動いた」といいました。今回の安保法制「戦争法案」をめぐる事態は、「堤防が決壊しかかっている」といえるでしょう。安倍政権は、それほどの危機に陥っています。

この危機の背景には、日本の戦後を支えてきた3つの国家の正統化(正当化)原理をめぐる危機があります。戦後の日本の国家の正統化原理とは、第一に米国覇権原理、第二に憲法原理、第三に大日本帝国継承原理の3つです。

戦前日本帝国は、大日本帝国憲法第一条「大日本帝国は萬世一系の天皇これを統治す」とされ、天皇主権が正統化原理でした。アメリカ合衆国は独立宣言、フランス共和国はフランス革命を受けて「人間と権利の宣言」、中華人民共和国は「労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁の社会主義国家」(憲法第一条)がそれぞれ国家の正統化原理となっています。

■米国による覇権原理

第一の米国の覇権原理は、自由主義、グローバリズム、反共主義、米国国益に基づく占領支配の維持・継続の下での「独立」、日本支配集団との共同などです。

52年にサンフランシスコ講和条約が締結されたその日に、吉田首相が一人で米軍基地内で安保条約にサインしました。講和条約では外国軍隊は90日以内に撤退するとなっていましたが、日米安保条約で米軍は無期限に駐留することが認められました。さらに50年、朝鮮戦争が始まってすぐにマッカーサーの指令で、憲法で武装が禁止されているのに「警察予備隊」がつくられました。これは、現在の自衛隊に至るまで、アメリカ軍の予備兵力でしかありません。

この原理の下で、日本の沖縄への潜在主権をアメリカに認めさせた上で、沖縄を戦後日本の体制から切り離しアメリカの統治下に置きました。これは、きわめて巧妙なやり方で、こうしておけば、沖縄・琉球はこの後も日本の主権の下にとどまることを強制され、自決権を行使できなくなることを狙ったともいえ、今日の沖縄の根本的問題につながっています。

■憲法原理と大日本帝国継承原理

第二の憲法原理は、平和・民主・人権の尊重であり、米国的普遍、民衆的普遍とも重複します。

第三の大日本帝国継承原理では、戦争・植民地支配責任の回避が行われ加害体験が隠蔽されます。この第三の原理が生き延びたのは、裕仁の天皇位継続と一体でした。天皇位継続は戦争責任の全体的免罪化の装置でした。アメリカは、戦後日本支配を円滑、効率的に進めるために天皇制を存続、活用したのです。その下で大衆的加害体験の隠蔽、保守地域支配網における帝国価値の保存、継承、アジア蔑視などが続けられました。しかしこの原理は公然化することは許されません。第二の原理はもとより、第一の原理・米国の覇権とも対立するからです。

これら三原則は相互に矛盾し対立すらするものですが、それらの均衡を維持するのに、天皇の人間宣言・平和天皇の押し出し、象徴天皇制が大きな役割を果たしてきたことは間違いありません。戦後天皇制は、この矛盾する三原理をすべて体現することで延命し、かつ三原理の均衡の上に成り立つ戦後日本国家の象徴たり得たのです。

■バランスを崩す安倍原理との対決

ところが安倍は、第三の原理を公然と称揚し始めました。「大東亜戦争」の正当化、靖国参拝、「慰安婦」徴募の強制性の否定、中国敵視、天皇の元首化など「戦後レジーム」からの脱出・憲法改悪も掲げました。しかし、アメリカはこれを見過しませんでした。

13 年10月のケリー国務長官とヘーゲル国防長官の千鳥ヶ淵戦没者墓苑への献花、12月の安倍の靖国参拝への「失望」の表明などで公然と批判しました。

その関係修復のために安倍は「秘密保護法」を強行し、アーミテージ・ナイ報告が突きつけた対日要求を丸呑みにし、日米ガイドラインの制定と安保関連法改定・集団的自衛権の行使を約束しました。皮肉なことに「大東亜戦争はアジア解放戦争」帝国継承性の原理での日本改造の計略は、一層深くアメリカの支配に組み込まれることに結果したのです。アメリカは安倍の武力行使願望、列強への参加願望をとことん利用しようとしています。

このように、戦後レジームの脱出・日本を取り戻す政策=大日本帝国の継承原理と米国の覇権原理、集団的自衛権・自衛隊の米軍の戦争への参加は矛盾しながらも新次元での癒着を遂げていますが、第二の憲法原理とは真っ向から対立します。

第二の原理は、下からの運動として、憲法から平和的生存権の原理を引き出し安保と自衛隊に対決してきました。50年代の米軍基地反対運動、原水禁運動、60年の安保闘争60年代後半からのベトナム反戦闘争、リブの運動、水俣や三里塚の闘いなどがその著しい多様性の底に戦後国家に対抗する別の原理的次元を探り当ててきたと思います。さらに沖縄の民衆は、日本帝国の国内植民地、米国の軍事植民地、米日共同の植民地と形を変えつつ引き継がれてきた支配に対して強力な自己決定権のための闘いをくり広げてきました。

ところで、わたしたちは戦後レジーム=戦後国家を守り抜くことを目標にすべきでしょうか。わたしはそうは思いません。安倍の憲法クーデターに反対し抵抗するすべての勢力が連携して闘うことは絶対に必要です。闘いの方向は、この闘いを戦後国家をめぐる原理次元における闘いととらえるかどうかで決まります。安倍政権を倒しきる闘いは、戦後レジーム・戦後国家を安倍とは逆向きに乗り越える闘い、帝国の戦争責任と戦後その責任を回避した責任を今日の時点から明確にし、戦後国家を平和的生存権の原理、非軍事化と非覇権の原理で乗り越える性格のものです。


関西共同行動ニュース No69