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【巻頭言】「安倍談話」弾劾、戦争法案を廃案に! 中北龍太郎

8月14日、安倍首相は「安倍談話」を発表しました。「安倍談話」は、植民地支配と侵略に誠実に向き合わず、過去の過ちを清算しようとはしていません。そしてそのうえに、戦争法制定を当面の課題とする戦争国家づくりを宣言しています。「安倍談話」を弾劾し、戦争法案の廃案に向けて全力を尽くそう!

■過去の清算に逆行する「安倍談話」

「安倍談話」は、植民地支配と侵略の加害の歴史の清算(過去の清算)、東アジアの平和構築という戦後70年の現在直面する二つの課題に逆行しているばかりか、過去の植民地支配・侵略を正当化し、次の戦争に踏み出すための宣言になっています。この2点のうち、まず最初に過去の清算の棚上げ、植民地支配・侵略の正当化という問題点について検証します。

大日本帝国は苛烈な植民地支配や侵略を行い、その過程で、日本軍「慰安婦」、強制連行・労働、南京大虐殺など数え切れないほどの非人道的行為や深刻な人権侵害を引き起こしました。こうした過去の過ちに向き合いくもりなき眼で直視し、誠実に清算し、植民地支配責任・戦争責任と戦後責任(戦争責任と正面から向き合わず、日本の植民地支配・侵略戦争によって他国民に強いた罪悪や不利益に対して十分な責任を取らず放置してきた責任)を果たすことが、東アジアの平和と友好を進めるための絶対条件であり、日本を平和の国にする土台です。

(1)歴史改ざん主義者・安倍

安倍首相は、これまでたびたび、自らの歴史観に合うように事実をねつ造したり抹消したりして歴史を改ざんしてきました。93年衆院選に初当選したばかりの安倍は、自民党「歴史・検討委員会」の委員として95年に発刊した「大東亜戦争の総括」にたずさわりました。この本は、「大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)は正しい戦争だった」「南京大虐殺、従軍慰安婦はでっちあげだ」などと訴えています。安倍はこの委員会などで歴史改ざん主義に染まり、そのリーダーの道を歩み始めます。安倍は97年に結成された議員連盟「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(教科書議連)の事務局長として、教育を通じて日本の植民地支配や侵略戦争を肯定する歴史認識を広げる活動を進めました。また安倍は、日本軍「慰安婦」問題で日本軍の関与と強制性を認めた93年5月発表の河野談話を攻撃する活動の先頭に立ちました。党幹事長だった04年には、教科書議連を足場に植民地支配・侵略賛美の「新しい教科書をつくる会」の教科書採択に全力をあげるよう通達しています。こうした政治姿勢は第3次安倍内閣でも変わらず、14年にも国会で「慰安婦」問題について、国際的に認められている「慰安所」での強制の実態、性奴隷化という本質を無視し、強制連行だけにわい小化する持論を展開しました。

植民地支配・侵略を美化したり、戦争責任をあいまいにする発言の数も半端ではありません。靖国参拝について「国のために殉じた御英霊に対して尊崇の念を捧げることは当然のこと…国が危機に瀕したときに命を捧げるという人がいなければ、この国は成り立っていかない」(04年)、戦後日本の起点となったポツダム宣言について、「アメリカが原子爆弾を2発も落として日本に大変な惨状を与えたあと、『どうだ』とばかりたたきつけたもの」(05年)、日本の侵略について「(侵略の定義は)学会的にも国際的にも定まっていない」「国のどちらから見るかにおいて違う」(13年)などなどです。

安倍が歴史改ざん主義(歴史修正主義)者であることは明らかで、世界からもそう見られてきました。

(2)歴史改ざん主義と「安倍談話」

安倍首相は、大きな注目を浴びてきた「安倍談話」においては、国内外の歴史改ざん主義に対する厳しい世論を前に、日本の植民地支配・侵略の正当化などこれまでの持論を露骨に表明することはできませんでした。しかしそれでも、あちこちに歴史改ざん主義者安倍の歴史観がちりばめられています。

「安倍談話」の中で歴史改ざん主義が端的に表れているのは、「日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。」というくだりです。日露戦争は朝鮮・中国に対する植民地支配・侵略にほかならず、両国の民衆に大きな屈辱を被らせました。日露戦争の真実を歪めるこのくだりは両国民衆にさらなる侮辱を加えるものです。また、日本が15年戦争を始めた理由に「経済のブロック化」をあげ、責任を欧米諸国に押し付けているのは、歴史改ざん主義者がよく用いる侵略戦争肯定の論理です。

「安倍談話」の大きな特徴は、日本が植民地支配・侵略をしたという主語がぼかされている点です。西洋諸国による植民地支配に対する批判や「植民地支配から永遠に訣別(けつべつ)」との誓いが記されているのに対し、日本が長く台湾・朝鮮を植民地支配した事実は書かれていません。また、戦火を交えた国々に損害と苦痛を与えたとは言っていますが、それが日本の侵略戦争の結果だという明確な言及がありません。これは過去の過ちを直視しようとはしない後ろ向きの姿勢の表れです。

(3)無責任国家への転落

反省とおわびについても、「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫(わ)びの気持ちを表明してきました。」と、歴代内閣が表明してきたというだけで、自らの言葉として語っておらず、安倍首相自身の意思と責任によるものになっていません。また、「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。」と、まるで責任を歴史のせいにするかのような言い回しさえ用いています。

村山談話との関係はどうでしょうか。これまで安倍首相は村山談話について、「全体として継承する」と言ってきましたが、「安倍談話」においては具体的な言葉で村山談話との関連が明らかにされていません。村山元首相が「わい小化され不明確になった。植民地支配や侵略などの言葉をできるだけ薄めたもの。最後は焦点がぼけ、何を言いたかったかさっぱり分からない」と語っているように、村山談話から大きく後退しています。植民地支配・侵略による多くの被害者に対し加害者としての日本政府の責任さえあいまいにしなんの具体的な解決さえ取ろうとしない安倍首相が、「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と強調しています。この無責任きまわりない言明によって、安倍首相は無責任国家の象徴的存在に落ちぶれました。

■「安倍談話」=戦争国家宣言

「安倍談話」は、これからの日本のあり方について、「『積極的平和主義』の旗を高く掲げ、世界の平和と安全にこれまで以上に貢献してまいります」と宣言しています。「安倍談話」には明記されていませんが、「安倍談話」発表の記者会見で語っているように、その当面の最大の目標が安保法制(戦争法案)の制定であることはいうまでもありません。しかし、戦争法案の制定は、2千万人もの人びとの命を奪い、310万人に死の犠牲を強いた戦争を再現することになります。

集団的自衛権の行使は、日本を攻撃していない他国に日本が先に攻撃を仕かけるものであり、他国の領土・領海への侵入や米軍の先制攻撃への参加など、侵略への道を開きます。戦闘地域における核ミサイルを含む弾薬の提供などの後方支援(兵たん)は、武力行使であり戦争へ進むことは必至です。戦後70年、平和憲法によって日本は戦争しない国であり続けてきました。戦争法ができると、日本は再び、他の国の人びとを殺し殺される戦争する国になってしまいます。

参議院で戦争法案が審議されるようになった7月26日安保法制担当の磯崎陽輔首相補佐官は、「考えないといけないのは、我が国を守るために必要な措置かどうかで、法的安定性は関係ない」と発言しました。この発言の狙いは、軍事的必要性の判断を憲法解釈の論理性や法的安定性よりも優先させるべきだと訴え、戦争法制定を後押しすることにありました。

朝日新聞や東京新聞、NHKによる憲法学者に対するアンケート調査でも、圧倒的多数が違憲との見解を取っており、戦争法案の違憲性は明らかです。個別的自衛権の行使=専守防衛は合憲という従来の政府見解の論理的枠組みで、集団的自衛権の行使=他衞を合憲化するという安倍政権の憲法解釈はどう考えても無理筋です。苦し紛れに最高裁砂川事件判決を援用するというやり方も、この判決は集団的自衛権の行使は問題にしなかったという定説をひっくり返す乱暴極まりないものだ。これほどまでにでたらめな憲法解釈がまかりとおるならば、徴兵制合憲論への転換ははるかにたやすくできるようになるでしょう。

磯崎発言は、人権と平和のために権力に対する縛りという憲法の本質的役割、立憲主義を余りにもないがしろにするものです。だが、それは決して失言というようなものではなく、長年にわたる集団的自衛権行使違憲という政府見解を180度変えた憲法と立憲主義無視の安倍政権の本音が、首相側近の口から表れたものにほかなりません。戦争法制定は、まさに人権と平和のために政府をしばるという憲法の基本=立憲主義を破壊する一種のクーデターです。

安倍政権の旗印「積極的平和主義」は、「戦争すればするほど平和になる」というものであり、武力なき平和を核心とする平和憲法とは真逆です。「積極的平和主義」は、平和を守ってきた平和憲法を壊し、その実行は戦火を開き広げることになります。それは、集団的自衛権の行使や明文改憲を迫ってきた米政府への対米従属であり、米国とともに戦う日米軍事一体化を強めるだけです。

「安倍談話」は、戦後日本は平和国家だと強調しています。しかし、日米安保体制が深まるにつれ、沖縄をはじめ米軍基地問題が深刻化し、軍拡が進んできました。その行きつく先が戦争法制定です。植民地支配と侵略を美化し、戦争法を制定しようとしている安倍首相に、平和国家を語る資格など全くありません。安倍首相は、東アジアの平和のために1日も早く辞めるべきです。





■「安倍談話」を克服し、戦争法案を廃案に!

「安倍談話」の狙いは、植民地支配・侵略の肯定・美化のうえに新たな戦争国家をつくることにあります。戦後70年を出発点に、誤った過去を温存しようとする政府に対し、主体的に過去を清算するための様ざまな行動を積み重ね、国境を越えた市民同士の国際連帯活動を展開しよう。政府の戦争政策に抗して、憲法の平和的生存権を抵抗の武器として闘い、戦争法制定と憲法改悪を許さず、戦争しない国をつくりだそう。過去清算と憲法擁護を車の両輪として、「安倍談話」を克服し、東アジアの平和を築いていこう。


関西共同行動ニュース No69