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慰安所制度は奴隷制度だ 連行方法の問題ではない 【同志社大学教授】 岡野八代


 (この文章は、4月13日、関西共同行動連続学習会・第3回での講演を起こしたものです。岡野さんのお話は、内容が深く、多岐にわたるものでしたが、紙面の都合上前半の「慰安所」問題の核心の部分が中心になりました。後半の民主主義についての提起は残念ながら本当に大雑把な要約です。岡野さんと皆さんにお詫びします。文責は星川にあります。)


 91年、キム・ハクスンさんが初めて「日本軍の慰安婦だった」と証言されました。残念ながら、私はそのときは重大なことと気づきませんでした。93年に、大学院修士課程を修了しカナダに留学に行く年でしたが、初めて彼女のことを知りました。私は、北米のフェミニズムの研究をしていますが、それ以来、この問題は私の研究に力を与えてくれました。

 安倍首相は議員になってからずっと、「慰安婦」「慰安所」問題の解決に激しい敵意を示している政治家の一人です。私にとっては最悪の対象です。「軍を使っての強制連行はなかった」「合法的だった」というのです。メディアもなかなか声を上げられていない中では、安倍首相の「70年談話」の発表前に、私たち市民が大きな声を上げていかなければならないと思っています。

 これまでは、戦争で負けた相手国の女性が戦利品として扱われる性被害を受けることはよくありました。しかし、第二次世界大戦が終わった後、特に91年にキム・ハクスンさんの証言があってからは、国際社会では、「戦時の性被害は人道に対する罪」だということで、告発に時間的制限がなく、いつでも告発できることが明記されるようになりました。

 それに対して、日本は、この20年間、国際社会からの反応も一切聞かず非常に内向きな社会になっています。

 関西共同行動の連続講演集会・第2回には朝日新聞の植村さんが話されたそうですね。去年の8月5日、6日に出た「吉田証言に対する検証記事」の後のバッシングは本当に恐ろしいもので、以来、民主主義を破壊するような大きな出来事が続いています。安倍政権の後押しを受けて、非常に多くの人が「朝日新聞を糺す国民会議」を立ち上げ、集団訴訟を起こしたりしています。

 告訴の中では、朝日新聞などが、日本軍慰安婦制について報道したこと自体を「世界で最も軍律が厳しく道義心が高かった皇軍兵士に対する貶めであり名誉毀損である」と訴えています。彼らは「軍律が厳しかった日本軍の名誉を守りたい」といっています。「慰安婦たちは、強制連行されたわけではないので合法だ、正当だ」といいたいのです。旧日本軍の軍律とは何だったのか。国家・市民のために、(彼らは、国家と市民を同一のものだと扱いたがります)「厳しい軍律を守っていた」といいたいのです。彼らがいう「厳しい軍規」というのは慰安所に居ることができる時間や払う金額が将校や兵など身分によって「厳しく」決められていたり、性病から兵士を守るためにコンドームの使用を義務づけられたりすることなのです。この通り、軍隊が直接慰安所の運営に関わっていました。軍律・軍隊こそが人権を侵害し、人道に対する罪を犯していたのです。問題は、彼女たちの慰安所への連れてこられ方ではないのです。そこで、どう扱われたかということなのです。

 軍のために、政府・国が法制度によってこうした人権侵害、女性の性を搾取する、しかも暴力を振るうような制度(慰安所)を合法的に作り、軍によって管理されていたということです。これらを彼らは、「女性使用規則」といっていました。安倍首相も「女性活躍」という前には「女性活用」といって厳しい批判を受けました。安倍首相も、当時の政府や軍と共通する女性に対する認識を持っているということです。

 奴隷制というのは、人権を侵すことが合法的に法律に定められているということです。それが個々人の犯す罪とは根本的に違うところです。「軍律厳しい」と彼らが言う軍隊こそが、人権を侵害し人道の罪を犯しているのです。ここが慰安所問題・性奴隷制の核心です。

 もう一つ強調したいのは、激戦地には慰安所が設置されるということです。沖縄は、日本で唯一地上戦が行われたところです。あの狭い沖縄に百三十カ所もの慰安所がつくられました。沖縄だけでなく、旧日本帝国の支配地域全般、とりわけ激戦地になったところには慰安所がつくられました。本当に命がかかった激戦地なので、政府や一部の人が言うように民間人が経営することなど考えられません。軍の直接的関与無くしてはあり得ないことです。インドネシアやフィリピンでは、なかなか女性が「調達」できないので、現地の女性を強姦してそのまま慰安所に連れてくるなどの例がたくさん残っています。だから「日本軍慰安婦」問題を韓国だけとの政治問題として絞るような日本政府のやり方は間違っています。

 奴隷制度は、確かにアメリカ合衆国にも黒人の奴隷制度があり、多くの大統領も奴隷を持っていました。しかしアメリカなどでは、「かつては合法だったから問題にしない」などとはいいません。「反省して、二度とそういう制度は繰り返さない」としています。そうしたことの上に、過去に与えた被害は補償するというのが民主主義の原理・原則だと思います。

 私や中央大学の吉見さんに衝撃を与え、この問題に取り組む多くの研究者や活動家が起ち上がったのは、朝日新聞の植村さんの記事だけではなく、それよりも91年のキム・ハクスンさんの告発であり、世界中から元被害者の女性たちが起ち上がったこと、それが国際法まで変えていく大きなうねりとなったことでした。

 「慰安婦」問題を「合法だったからいいんじゃないか」ということに対していち早く反論したのは藤目ゆきさんでした。「国家が女性の身体をもののように管理、搾取してよいという法律を作ったのだから、国家が責任をとれ」といったのです。だから、私は藤目さんの訴えに賛成し、「法的責任は無いが道義的責任として見舞金を出す」としたアジア女性基金に反対したのです。これは、声を上げた女性たちを侮辱するものだったはずです。

 重大な被害を受けた人たちがその謝罪と補償を求めているのに、被害を与えたものが、自らの法や規範に基づいて「期限切れ」や「権利が無い」などといって拒否するのは民主主義に対する冒涜です。日本が「慰安婦問題」を解決できないのは、日本の民主主義が根付いていない、私たちの力が弱いからだと思います。私たちの責任でもあります。(この点についての詳しくは「世界」14年11月号掲載の岡野さんの論文を参照ください)

 戦争になると何が怖いか、緊急法によってこれまで私たちが持っていた権利を奪うことができるようになることです。有事法制は民主主義の対極にある法律です。いま日本では、そうしたことが起ころうとしています。ドイツ政府は「道義的責任があるのだから、政治責任をとるために特別立法をする」としました。ドイツは非常に民主主義的です。

 私たちにできること、やるべきことは、正しい代表を選ぶことだけでは無く、私たち自身が様々な行動をすることです。


写真は慰安所につれてこられた朝鮮人女性。
儒教国朝鮮の女性は性病が少ないとして、日
本政府は頻繁に徴発を行った(古橋)。



関西共同行動ニュース No68