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過去と未来に対する責任 「戦争をさせない1000人委員会」 事務局長 内田雅敏


敗戦の日から69年を経た。今、この国は、再び戦争のできる国に突き進もうとしている。私たちは、アジアで2000万人以上、日本で310万人の死者をもたらした先の戦争の敗北を抱きしめて、「政府の行為によって、再び戦争の惨禍が起こることのないようすることを決意し」(憲法前文)、戦後の再出発をし、これまで、戦争をすることなく過ごしてきた。この戦後の誓いは、72年の日中共同声明、85年の中曽根首相の国連総会演説、95年の村山首相談話、98年の日韓共同宣言(小淵内閣)、2002年の日朝平壌宣言(小泉内閣)、2012年の日韓併合百年に際しての菅首相談話に引続がれている。これが戦後日本の国際公約であり、また戦後世界の平和秩序でもある。いわゆる「従軍慰安婦」についての93年、宮澤内閣河野官房長官談話もこの流れに中に置くことができる。安倍内閣は、来年、戦後70年に際し、前記村山首相談話、及び河野官房長官談話を見直し(覆し)、新たな談話を目論んでいるが、それは、前記日本政府の国際公約、戦後世界の平和秩序に対する挑発であることを理解しなければならない。

85年10月23日の中曽根首相の国連総会演説は、次のように述べている。

「1945年6月26日、サンフランシスコで、国連憲章が署名された時、日本は唯一国で、40以上の国を相手に絶望的な戦争を戦っていました。戦争終結後、われわれ日本人は、超国家主義と軍国主義の跳梁を許し、世界の諸国民にもまた自国民にも多大な惨害をもたらしたこの戦争を厳しく反省しました。日本国民は、祖国再建に取り組むにあたって、わが国固有の伝統と文化を尊重しつつ、人類にとって普遍的な基本価値、すなわち平和と自由、民主主義と人道主義を至高の価値とする国是を定め、そのための憲法を制定しました。わが国は平和国家をめざし、専守防衛に徹し、二度と再び軍事大国にならないことを内外に宣明したのであります。戦争と原爆の悲惨さを身以って体験した国民として、軍国主義の復活は永遠にあり得ない事であります」。

ゴリゴリの改憲論者である中曽根氏ですら国際社会ではこのように、専守防衛論を述べざるを得なかった。なおこの年5月8日、西ドイツのヴァイッゼッカー大統領(当時)は、欧州における戦争終結40周年を記念して「荒野の40年」と題する演説をし、「過去に対して目を閉ざす者は、現在を見ることができない」と述べ、歴史に正面から向き合おうとする戦後ドイツの姿勢を示すものとして全世界の人々を感動させた。

現在を生きる私達は、過去と未来に対する責任がある。過去に対する責任とは、冒頭で述べた先の戦争において、非業、無念の死を強いられたアジアで2000万人以上、日本で310万人の死者たちに対する責任である。私たちが、不戦の国是を堅持し、専守防衛に徹すること、これこそが、死者たちに対する追悼、慰霊となる。非業、無念の死を強いられた死者たちに感謝したり、称えたりしてはならない。感謝したり、称えたりした瞬間に、死者達の政治利用が始まり、彼らを非業、無念の死に追いやった者の責任が曖昧にされる。未来に対する責任とは、この不戦の国是を私たちの子、孫の世代に伝えて行くことである。



2014年7月1日、安倍首相は、日本を取り巻く安全保障環境が変わったとして、閣議決定により、歴代の政府が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権行使についてこれを容認するとした。これは、不戦、専守防衛、というこの国の戦後の国是の放擲であり、日米安保を憲法上の制約から解き放とうとするものであり、絶対に許されないものである。安全保障を巡る環境の変化が本当にあったかどうか正確に検証されなければならないが、仮に、安全保障環境の変化があったとしても、その原因の多くは、尖閣諸島(中国名釣魚島、台湾名釣魚台)、竹島(韓国名独島)など、「島」を巡る問題と、先の戦争をアジア解放のための「聖戦」であったとし、戦後世界の平和秩序に公然と敵対する靖國神社への安倍首相の参拝にあることは明らかである。

2001年ドイツ国防軍改革委員会報告書は、冒頭において「ドイツは歴史上初めて隣国すべてが友人となった」と述べている。「隣国すべてが友人」、これこそ究極の安全保障政策ではないか。「隣国すべてが友人」と云う関係を作り出すためには、私達が、先の戦争に対して真摯に向き合うことが不可欠である。

72年9月29日に発せられた日中共同声明は「日中両国は、『一衣帯水』の間にある隣国であり、長い伝統的友好の歴史を有する。両国国民は、両国間にこれまで存在していた不正常な状態に終始符を打つことを切望している。戦争状態の終結と日中国交の正常化という両国国民の願望の実現は、両国関係の歴史に新たな一頁を開くことになるであろう。日本側は、過去において、日本国が戦争を通じて、中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し深く反省する」と述べ、「日中両国間には社会制度の相違いがあるにもかかわらず、両国は平和友好関係を樹立すべきであり、また、樹立することが可能である。両国間の国交を正常化し、相互に善隣友好関係を発展させることは、両国国民の利益に合致するところであり、また、アジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献するものである」と結んでいる。

今こそこの日中共同声明の精神に立ち戻り、最悪な状態にある日中、日韓関係を改善し、欧州におけると同様、北東アジア共同の家を創るため、懸命な努力をしなければならない。

『戦争をさせない1000人委員会』は、大江健三郎、奥平康弘氏ら117名の学者、知識人、法律家、平和運動家らの呼び掛けによって結成され、多くの賛同人を得て、2014年3月20日の出発集会以降、全国に作られた(現在、35県)。「戦争をさせない1000人委員会は」官邸前抗議集会、国会包囲行動、学習会等多様な活動により、また他の平和団体との共闘による「総がかり行動」等も含め重層的な運動を展開し、安倍首相による、「戦後の否定」に対する闘いを展開している。闘いには困難さがある。しかし、それを行うことが過去と未来に対する私達の責任である。





関西共同行動ニュース No66