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崩壊する武器禁輸政策―「防衛3文書」に読む安倍政権の意図―
【軍事ジャーナリスト】 前田哲男


13年12月17日に閣議決定された3つの防衛政策文書、①「国家安全保障戦略」、②「新防衛計画の大網」、③「中期防衛力整備計画」( 14~ 18年度武器調達計画)は、安倍政権が向かおうとする【戦争できる国家】への見取り図を系統的にあきらかにしたものであった。①で【脱専守防衛】を明確に宣言し、②において「南西重視」「離島防衛」を打ちだしつつ【中国の脅威】に「統合機動防衛力」をもって対峙する姿勢をしめし、③に攻撃的な部隊(陸上総隊、水陸機動団)と新型装備導入をかかげる、という意思表示である。そこには、憲法の規定や従来の防衛政策との整合性に配慮したふしなど見当たらない。
「非核3原則」とともに、ながらく国是とされてきた「武器輸出3原則」も、すべての文書で実質的に廃棄する方針がしめされている。その一端は、「南スーダンPKO」に派遣された陸自部隊が韓国軍に「小銃弾1万発」を【例外的に】提供した( 12月)ことによっても裏づけられた。本稿では、「武器輸出問題」に焦点をしぼって安倍政権の意図を考える。

憲法秩序と日米安保体制が相容れないことはいうまでもない。その矛盾を露呈させまいと、歴代自民党政権は「憲法と安保」の亀裂でいわば綱渡り的なバランスを取りつつ、しかし、着実に”9条の反対方向“へとすすんできた。そこで使われたのが「二つのトリック」というべきものである。
名づければ「顕教と密教」、「原則と例外」ということとなろう。最初のほうは、国会答弁や文書で、表向き「安保の範囲は極東に限られる」「自衛隊の領域外活動はあり得ない」「核持ち込みにはいかなる場合もノーという」などと強調しつつ、じつは「密約」によりそれらをくつがえし、在日米軍の自由行動を保証する手法だ。ここでは言及しないが、「沖縄核密約」や「9・11事件」以降の沖縄、佐世保、横須賀、三沢基地などからの「海外出動」をみればよい。
いまひとつが「原則と例外」の使い分け、あるいは「例外の本則化」である。目下検討中されている「集団的自衛権行使容認」がそれであり、「武器輸出3原則」の空洞化もその見本にあたる。

「武器輸出3原則」は、憲法理念を具現化させる要求を受けて、佐藤内閣( 67年)と三木内閣( 76年)が設けた基準である。「佐藤3原則」は、共産圏、紛争当事国、国連決議対象国に武器輸出を禁ずるというものであった。「三木3原則」はさらに進め、それ以外の国にも輸出を慎む、また武器製造関連技術も武器に準じてあつかうとした。憲法前文と9条の規定から、日本が「死の商人国家」とならない決意を実践するのはとうぜんだが、しかし、この「原則」が、以後「例外措置」の積みかさねによってくずされていくのである。最新の「例外措置」が「韓国軍に銃弾提供」だった。安倍政策の特徴は「例外の本則化」、すなわち「武器輸出3原則」そのものを撤廃しようとするところにある。
はじめて「3原則」に風穴をあけたのは中曽根内閣だった。83年、次期支援戦闘機の日米共同開発計画がもちあがると、「米国に武器技術を供与するに当たっては武器輸出3原則によらないこととする」と政策転換がなされた。90年代には「弾道ミサイル防衛」分野にひろがり、技術面ばかりでなく、ミサイル製造やF‐ 35戦闘機の共同生産に発展していく。
政府は、そのたびに「武器そのものの対米輸出については従来どおり対処する」とし、あくまで「例外措置」だと強弁したが、世界最大の武器生産国にして最大の輸出国であるアメリカに「例外」をみとめながら、なお禁輸原則堅持をかかげるのは、【裸の王様】が見えない衣装を見せびらかすような行為でしかない。それ以上に、日本の軍需産業-――財界と自民党国防族――からの絶えざる解禁圧力があった。米軍産複合体と結託した三菱重工、川崎重工、IHI(旧石川島播磨重工業)に代表される企業グループは、【原子力ムラ】より密接な利害関係(それは【安保ムラ】とも名づけ得る)をもつ。こちらの【ムラ】のほうが古く、また強力だ。
たとえば、日本経団連の「提言」( 10年)は、「新しい武器輸出管理原則の確立」の部分で、「現状は技術的鎖国状態」にあるとし、「国際共同開発に積極的に取り組む」ようもとめ、「共同生産国からの再輸出も考慮しておく必要」があるという。つまり、日米で共同開発・生産した武器を、第三国に「再輸出」可能にせよともとめているのである。
F‐ 35がイスラエルにわたれば、「パレスチナ攻撃」に使用されるのは火を見るよりもあきらかだ。

こうみてくると、安倍政権が「防衛政策3文書」すべてに「武器輸出3原則」廃棄の方向を書きいれたのはおどろくにあたらない。安倍は、流れに身をまかせるだけでなく「加速」させようとしているのだ。前記「3文書」がそれをかたる。
▼「防衛装備品の国際共同開発・生産に参画することが求められている。こうした状況を踏まえ、武器等の海外移転に関し、新たな安全保障環境に適合する明確な原則を定めることとする」(「国家安全保障」)
▼「積極的平和主義の観点から、防衛装備品の活用等による平和貢献・国際協力に一層積極的に関与するとともに、防衛装備品等の共同開発・生産等に参画する」(「防衛計画大綱」)
▼「米国や英国をはじめとする諸外国との国際共同開発・生産等の防衛装備・技術協力を積極的に進める。その際、民間転用の推進が製造業者と国の双方に裨益するものとなるよう検討の上、これを推進する」(「中期防衛力整備計画」)これが安倍首相のいう「積極的平和主義」の(武器輸出政策における)正体なのである。

以上の3文書、「国家安全保障」と「防衛計画大網」はおおむね10年をめどとし、「中期防」は向こう5年間の実施計画として策定された。とすれば、「武器輸出3原則」の命運は、あと5年から10年のうちに尽きることになる。中期防「別表」には、航空自衛隊がF‐ 35Aを28機取得すると明記してある。その時期と合わせて「3原則廃棄」がもくろまれているのだろう。メイド・イン・ジャパンの武器が世界に拡散するのを防ぐため、のこされた時間はすくない。憲法具現化の柱のひとつである「武器輸出3原則」を維持するための努力結集がもとめられる。




関西共同行動ニュース No64