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●【巻頭言】市民の反改憲戦略を鍛えよう! 中北龍太郎

■本格改憲政権の登場
衆院選を抜けると改憲の国だった。衆院選後永田町の政治の景色は一変しました。選挙戦で自民党がこれほどまでに改憲問題を重要争点にしたことはかってなかったことです。その自民党が圧勝し、「無効の憲法は破棄すべきだ」と訴える石原が率いる日本維新の会が伸張しました。その結果、衆院では改憲派議員は朝日新聞社の調査で89%にのぼり、改憲発議に必要な3分の2の議席を突破しました。
第1次安倍政権は、改憲を要とする戦後レジームからの脱却によって「美しい国」をつくると唱え、その一環として改憲手続法を制定し、改憲に向けていわば外堀を埋めました。その後野に下った自民党は、10年1月新綱領を決定し、そのトップで「新憲法の制定を目指す」と謳い、改憲政党であることをより明確にしました。そして、「真の独立国になったこの日を機会に憲法改正をしっかりやろう」という方針にもとづいて、新たな憲法改正案づくりを急ぎました。その過程で、東日本大震災の被害が大きくなった原因は憲法に非常事態条項がないことにある、憲法に国家緊急権を盛り込む必要があるという惨事便乗型改憲アピールが盛んに行われました。サンフランシスコ講和条約60年となる12年4月27日、「日本国憲法改正草案」が発表されました。こうした改憲の動きの延長線上で、改憲を前面に出した衆院選公約が発表されました。自民党内の動きと並行して、11年10月から改憲原案を国会に提起できる権限を持った衆参両院憲法審査会が始動しました。
改憲への様ざまな動きの中心に安倍がいたことはいうまでもありません。安倍の改憲への執念は、安倍が最も尊敬する政治家であり、A級戦犯として巣鴨プリズンに3年間収監されていた祖父岸信介元首相の改憲の悲願に由来しています。安倍第2次政権が改憲の本丸攻めを仕掛けてくることは必至です。




■新改憲案の危険な本質
日本国憲法改正草案(「新改憲案」といいます)は、05年(小泉政権時代)公表の自民党「新憲法草案」(「05年案」といいます)よりも国家主義的内容が顕著になっています。それは、1950年代に岸らがつくった9条改憲と戦前の天皇制国家の原理に親和的な改憲案と五十歩百歩です。新改憲案のポイントを、05年案と比べながら見ていきましょう。
日本国憲法の最大の特徴は立憲主義と平和主義を結合したところにあります。この特徴は、憲法前文の「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」て憲法を確定したと述べたくだりに明確に表れています。この決意を具現化したのが憲法9条です。これに対し、新改憲案の前文は、憲法制定の目的を「天皇を戴(いただ)く国家」を「末永く子孫に継承」することにあるとしています(05年案の「象徴天皇制を維持する」よりも復古的なものになっています)。そうなると憲法は、市民による政府に対する平和のためのしばりではなく、天皇制国家を護るための市民へのしばりになってしまいます。近代憲法の根本原理である立憲主義の破壊は、99条の「天皇…その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。」との憲法尊重擁護義務の規定を変えて、国民にその義務(その実質は天皇制国家に忠誠を尽くす義務)を課し、天皇をその対象から除外している点にも表れています。新改憲案は、国家と国民との関係を180度変えてしまうことになります。
新改憲案は、05年案の「自衛軍」を「国防軍」に「格上げし」て、集団的自衛権の行使を認め、「国際的に協調して行われる活動」や「公の秩序を維持する活動」などを行う権限を与え、他国の領土における武力行使、海外での戦争をできるようにしています。しかも、「緊急事態」の章を設け、「外部からの武力攻撃、社会秩序の混乱、大規模な自然災害」などの「緊急事態」において、内閣が国会をバイパスして法律と同じ効力を有する政令を制定できるようにして、国民に対し人権を制限しまた国の措置に服従する義務を課して、戒厳令の復活をもくろんでいます。さらに、「機密の保持に関する事項は法律で定める」という規定を盛り込んで、市民の知る権利の蹂躙、政府による情報統制を企んでいます。それにとどまらず、国の領土保全条項の中に、「国民と協力して」を加えて、徴兵制などの強制的な戦争動員に道を開いています。これらはどれも05年案にはなく、新改憲案で新たに導入されたものです。集団的自衛権の行使、国家緊急権、秘密保全、戦争動員を盛り込んだ新改憲案は、日本を戦争する国に変えることを狙ったものです。
新改憲案の国家主義的・復古的アナクロニズムは、天皇の元首化、天皇の公的行為の拡大、国旗・国歌の尊重義務、政教分離原則の緩和、「公益及び公の秩序」の名による人権の大幅な制限、戦前の治安維持法を彷彿とさせる「公益及び公の秩序を目的とする結社の禁止」、福祉を後退させる家族制度の重視、公務員の労働基本権の制限にも露骨に表れています。
これら条項から浮かび上がってくる新改憲案の本質は、戦争をする国、天皇制国家の再構築、戦後平和・民主主義の否定に外なりません。

■権力者の改憲戦略
強硬な改憲論者で固められた安倍政権は、明文改憲への道筋として、一方で、まず集団的自衛権の行使は違憲であるとする政府見解を覆す解釈改憲を先行し、次いで国家安全保障基本法や秘密保全法を制定するという立法改憲を実行して、憲法を変えやすくする環境を整備しようとしています。そして他方で、憲法審査会を舞台に改憲案づくりを進めるとともに、衆参でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要な改正要件を定めた96条を2分の1に緩和して、国民投票にかけるための国会の改憲発議をしやすくして、それを呼び水に明文改憲に進むという2段階戦略を描いています。
自民党は、改憲の実現のために、今夏の参院選で参院でも改憲派議員が3分の2を超える議席の獲得をめざしています。また、領土問題で強硬な姿勢を取り排外主義をあおって、改憲の機運を醸成しようともするでしょう。日本維新の会は、改憲の先兵として自公政権を挑発するでしょう。改憲潮流を加速する様ざまな危険な動きを無視できません。
また、9条改憲の根源となっている日米安保体制の強化も多面的に推し進められようとしています。米国の中国包囲網を核とするアジア太平洋重視の新戦略に呼応していくために、司令塔となる安全保障会議の設置、集団的自衛権の行使に踏み込んだ日米軍事協力の指針(ガイドライン)や防衛計画大綱の見直し、沖縄辺野古への新基地建設をはじめとする米軍再編強化の動きが進んでいけば、改憲に向かうスピードが上がっていくことになります。

■市民の反改憲戦略
衆院選で自民党は7割の議席を得ましたが、得票率は4割に過ぎず、有権者比では小選挙区で24%、比例代表で15%の支持しかありません。民意と議席数の乖離は小選挙区中心の選挙制度の欠陥によって生じています。憲法改正についての民意も選挙の結果に反映されていません。そのことは、安倍政権発足後の9条改正に関する世論調査の結果、例えば朝日新聞では賛成32%、反対53%、毎日新聞では賛成36%、反対52%で、いずれも反対意見が多数を占めていることからも明らかです。改憲策動は、議会多数派による民意蹂躙の専制に外なりません。
改憲は、過去の忌まわしい軍国主義、天皇制国家の侵略戦争を正当化し、またそうした歴史観に立って戦後平和・民主改革の一環としての憲法を全否定するものです。そのことは、改憲を要とする戦後レジームからの脱却が、教科書検定における「近隣諸国条項」の削除や村山・河野談話の否定、領土紛争における侵略の歴史の無視や強硬方針を含んでいることからも明らかです。そのため、歴史問題と一体の改憲の策動によって、日本がアジアばかりでなく欧米からも孤立することは避けられません。
今こそ、市民の力で憲法を守りいかして平和・人権・民主の日本を創り、アジアをはじめ世界の人びととの共存・共栄を実現していかなければなりません。憲法を変えるかどうかを決める決定権は主権者である市民にあります。形骸化した代議制を乗り越える草の根市民の直接民主主義の実践を通じて、憲法改正の国民投票を実施すれば改憲反対が過半数を超えるという目に見える世論をつくって、改憲の息の根をとめましょう。




関西共同行動ニュース No61