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偽りの「事故収束」とその意味 【元京大原子炉実験所・講師】小林圭二

■慌ただしい事故《収束》宣言
年の瀬は、政府と東電による福島第一原発事故の《収束》策動が実に慌ただしかった。12月中の動きを見ても、2日に東電の「社内調査委員会」事故調査中間報告書の発表があり、6日に文科省原子力損害賠償紛争審査会が避難指示区域外の「自主避難者」「滞在者」への賠償指針を出し、翌7日には原子力委員会から1〜4号機の廃炉計画が出た。16日には政府原子力災害対策本部から「冷温停止状態」達成と「工程表」の「ステップ2」完了が発表されるや、野田総理は、早々と事故の収束を宣言した。ほどなく(26日)発表される政府「事故調査・検証委員会」中間報告書さえ待たずにである。しかし、原発敷地外に及んだ事故の《収束作業》はこれから始まる。18日には「警戒区域」と「計画的避難区域」の見直し、22日に厚労省審議会部会が食品中放射性セシウムの新基準値を発表、28日には細野環境相らが福島県双葉郡の8町村長に会い、除染作業で出る放射能汚染土壌など廃棄物中間貯蔵施設の当地建設に了解を求めた。政府と東電は、まるで歳末の大掃除をするかのようだ。
■事故は収束していない
しかし、事故が収束したという証は何もない。それどころか、原子炉に近づくことさえ出来ず、原子炉圧力容器内がどうなっているかわからない。推定では、原子炉圧力容器は落下してきた溶融燃料により溶かされ、底に穴が開き、1号機では燃料の85%以上(2〜3号機では7割)が外へ流れ落ちているという。つまり、原子炉内はほとんど空っぽだというのだ。
流出した燃料はいったいどこに行ったのか? 一部は冷却水に溶けて高濃度放射能汚染水となり、やはり穴の開いた格納容器から流れ出て、原子炉建屋と隣接するタービン建屋の各地下室に大量に溜まった。その汚染水中の放射性物質を低濃度に浄化し、一時海水を使ったため淡水化して原子炉圧力容器に再注水する「循環注水冷却システム」によって原子炉は安定的に冷やされているとされている。しかし、底の抜けた空っぽの容器に水を流したところで何の意味があるだろうか。この冷却システムはたびたびトラブルを起こし、その都度、一週間ほど停止を余儀なくされている。この12月でも45立方メートルの汚染水が漏れ、一部は海へ流れてしまった。よしんば燃料が少量残っていたにしても、冷却システムは仮設で耐震性は考慮されておらず、余震やより長期の停止がおこれば燃料を冷やせなくなり、燃料温度は再び上昇し、新たな危険や放射性物質放出をまねきかねない。
溜まり続ける高濃度汚染水の低減をも目的とした「循環注水冷却システム」だったが、汚染水は減るどころか増加の一途をたどっている。原因は地下水の混入と思われ、高額のため、地下遮水壁の建設を先延ばししてきたツケが回ってきた。その浄化汚染水貯蔵タンクが3月には満杯となる事が確実となったため、東電は4日、海へ放流しようとしたが、全漁連の抗議で見送った。
■国民だましのテクニック
国連会議の演説で野田首相が「工程表」ステップ2の一ヶ月の前倒し達成を予告したため、年内の「事故収束」宣言は至上命令となった。そのためには、収束していない事故を、収束したかのように装う必要がある。福島第一原発事故では、当初から、東電と政府による情報隠し、虚偽、情報操作が横行した。「事故収束」宣言は、今年のウソの総仕上げで、そのウソを「冷温停止」、「除染」、「ストレステスト」が三本柱となって支えている。



■「冷温停止」で目くらまし
「冷温停止」は、原子炉が、相変化のない百度以下で安定した停止(核分裂連鎖反応の停止)状態にあることを示し、燃料が正常な状態に配列された原子炉炉心に対し定義された用語である。今回のように原子炉圧力容器内に燃料が殆ど無く、どこへ行ったか不明な場合には当てはまらない。容器底部の温度が百度以下で安定していると言われても、それは単に流れている水の温度を示しているに過ぎず何の意味もなさない。現に、9月の原子力学会でも、原子力ムラ研究者たちの嘲笑や失笑の的になっていた。それでも使い続ける政府と東電の意図は、専門用語の衣を借りて市民に《収束感》を与えることにあろう。冷温停止の達成が、当初の「事故収束工程表」で避難住民を帰宅へ誘導する条件の一つに挙げられているため、引っ込めるわけにはいかないのだ。最近では市民にもインチキに気がつかれてきたためか、「冷温停止『状態』」なる珍語を使うようになった。
■「除染」はできない
「除染」も住民に帰宅を促す条件とされた。しかし、除染は不可能なことである。「放射能は人の手ではなくせない」という放射性物質の基本的性質を思い出せばわかるだろう。除染とは放射性物質を単に移動させるだけで、異動先が新たな汚染個所となるに過ぎない。焼却すれば大気中へ広く拡散し、焼却灰に何十倍何百倍と濃縮される。そもそも除染自体が大変で、有効な手段がない。土壌汚染の場合、表土を5センチほど削り取ることが最も有効だが、農地にとっては致命的になる。非汚染の農業用土壌をどこからか手に入れなければならない。何よりも、はぎ取った汚染土壌の捨て場がない。除染によって限られた地域の放射線量を多少下げられても、雨が降れば森林等からまた流れ込み、元の木阿弥となる。結局、被曝基準を引き上げ、危険度の高いままの自宅へ帰宅を強いることにならざるを得ない。これは子供と妊婦にとっては許されないことだ。しかし政府は、除染の幻想をばらまき続け、帰宅路線を変えない。それも一部に過ぎず、「警戒区域」、「計画的避難区域」の多くは、土地の放棄を意味するほどの長期にわたり住めなくなる。
■「ストレステスト」でアリバイ作り
「ストレステスト」は、菅首相が提起した当初は、停止中原発の再稼働に歯止めをかける役割を持っていた。しかし、今は再稼働の許可条件の一つとなっている。冬場の電力需要ピークを前に、年末は電力会社による同テスト評価報告書の提出ラッシュとなった。
このテストの意味は極めて曖昧である。現行の設計前提を越える地震や津波、電源喪失等にどこまで絶えられるか、机上の計算によって回答を出すもので、実際に負荷をかけるテストではない。テスト結果の合否を判断する基準もない。そもそも福島原発事故を踏まえたテストのはずが、事故原因自体が解明されていないため、形式的なものにならざるを得ない。再稼働へのアリバイ作りであることは明白である。
■なぜ“収束”を急ぐのか
政府が「除染」にこだわるのは、避難住民の帰宅願望に応えるためではない。帰宅願望につけ込み、出来もしない「除染」でだまし事故収束ムードを盛り上げ、住民を危険の残る自宅に早く追い立てようとしているのだ。その目的は、国の負担と東電の賠償額を出来るだけ減らすとともに、早く国中が国際競争に全面復帰することにある。その背景には、電力を心置きなくふんだんに使える原発の再稼働が欠かせないと、政府に圧力をかけ続ける財界の意向がある。
12月に入り、原発海外輸出に向けた政治・外交活動がにわかに活発化してきた。9日にはベトナム、ヨルダン、ロシア、韓国四カ国との原子力協定が国会で承認された。28日日印首脳会談、トルコとの会談が次々持たれた。野田政権は日本を再び原発推進へ向き直らせようとしている。年明け早々に発表された細野大臣の「原発寿命40年」も、むしろ、この路線を支えるためと考えられるだろう。
■3・11には数万でオキュパイ中之島を
政府と東電は国民の命より経済復活を優先し、原発漬け社会の形成に責任の一端があるはずの財界は、事故をまるで人ごとのように目先の金儲けに奔っている。彼らはこぞって原発再稼働を狙っているが、東京、福島、九州などで空前の反対運動が起きている。
フクシマの事故は若狭湾の原発でも起こりうること。若狭の原発で起これば、琵琶湖はたちどころに放射能汚染される。その日から近畿2000万人の飲料水は失われるのだ。
すべての原発を止め、直ちに廃炉にしよう。その大きなうねりを関西でも作ろうと、事故一周年の3.11に万を超える人々が中之島全域を占める集会とデモを実行する準備が進められている。グループで、個人で、子連れで、趣向を凝らし、どなたもふるって参加してほしい。


関西共同行動ニュース No58