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【巻頭言】改憲状況と私たちの課題 中北龍太郎

■はじめに
現在の改憲状況を、@憲法改正案の策定など改憲のための準備、A改憲を推し進める政治の動き、B改憲の主要なターゲットである9条と矛盾する軍事の動向、以上の3点に分けて明らかにします。そのうえで、紙面の関係でワンポイントだけになりますが、改憲を阻むための課題について問題提起します。

■動き始めた憲法審査会
憲法改正案の策定など改憲のための準備は、衆参両院に設置されている憲法審査会で進められています。憲法審査会は、07年の国民投票法の成立を受けて、両院に設置された機関であり、初めて「憲法改正原案、憲法改正の発議」を審議できると規定されています。安倍政権下で自公両党が国民投票法を強行採決したことに対し、民主党などが反発したことから、審査会が実質的なスタートを切るために必要な審査会規定の制定ができない状態が続いていました。ところが、民主党が、参院敗北を契機とするねじれ国会の下で自民党との協調路線の一環として、11年に衆参とも、審査会規定の制定、委員選任に応じました。こうして、衆参憲法審査会は始動し、11年10〜12月にそれぞれ4回審査会を開きました。
衆院憲法審査会では、衆院憲法調査会会長だった中山太郎が、参考人として、これまでの経過を説明し、その中で改憲のためには与野党の協力が重要だと力説し、大震災時の「非常事態」条項への真摯な議論を期待すると話しました。自民党の中谷元委員も、憲法に非常事態規定を設けるべきだと強調しました。民主党の委員からも非常事態規定の新設に前向きの発言が行われました。また、改憲派委員から、憲法96条の国会の発議の要件を総議員の3分の2以上から過半数に緩和すべきだといった意見が相次ぎました。参院憲法審査会でも、改憲を求める意見が多数を占めています。
審査会委員は衆院50名、参院45名ですが、両院審査会とも改憲賛成論者が圧倒的多数です。このような憲法審査会が審議を積み重ねていくと、次第に改憲の危機が高まっていくことになります。

■野田政権下の改憲の動き
野田首相は、「私は新憲法制定論者です。…古い憲法になっている…9条はもちろんです…修正することをタブー視してはいけない…もう一息なのかもしれません。」(著書「民主の敵」新潮新書)と記しているように、新憲法制定論者です。野田政権が改憲に前のめりになる余裕はなさそうですが、自民党の改憲路線を容認し、バックアップする危険性は少なくありません。
自民党は12年も改憲政党としての本領を発揮しそうです。自民党は、10年の新綱領で改憲政党であることをそれまで以上に明確化し、11年発表の報告書では、大震災対策などを理由にあげて、武力攻撃を含む緊急事態に対応できるよう憲法改正すべきだと訴えています。自民党憲法改正推進本部は、サンフランシスコ講和・日米安保60年目にあたる12年4月28日を憲法改正の「Xデー」にしようと、この日に、これまで以上にタカ派色の濃い新しい改憲案を発表しようとしています。保利耕輔同本部長は、「真の独立国になったこの日を機会に憲法改正をしっかりやろうじゃないかというのが自民党の考え方」だと発言しています。
ねじれ国会の下で、民主党は、政権公約を踏みにじって、何かにつけ自公へすり寄っています。こうした中、石破茂自民党前政調会長と前原誠司民主党政調会長が「与野党対決はもう古い」といったタイトルで対談し(「中央公論」11年11月号)、石破が「安全保障の分野は政争の具としてはいけない」と言えば、前原が「外交の基軸はあくまで日米同盟、どう発展させていくのかという方向性に何ら違いはなかった。これを日本の財産として定着させることこそが重要です。」と同調しています。このような協調路線が定着していくと、いつの日か改憲大連立ないし改憲大連合が実現されかねません。そうなると、国会で改憲発議に必要な総議員の3分の2以上という要件がクリアーされることになってしまいます。




■9条改憲へ―
戦争のできる国づくりの動向
民主党政権の軍事政策は、自民党と本質的に変りなくなったといっても過言ではありません。「防衛計画の大綱」(10年12月)は、北朝鮮・中国脅威論をことさらに強調し、自衛隊の外征軍化を核心とする動的防衛力論や海外での軍事行動の即応運用態勢の強化を打ち出しています。11年版防衛白書(8月)は日米軍事一体化、在日米軍の抑止力強化をうたっています。
このように民主党が米軍とともに戦う国づくりの方針を明確化すると、自民党は民主党に負けじとこれまで以上にタカ派色をエスカレートさせています。自民党国家戦略本部報告書「日本復興」(11年7月)は、国家安全保障会議の常設、集団的自衛権の法制化、非常事態法の法制化・憲法への挿入、海外派兵恒久法の制定、非核・武器輸出3原則の緩和などを訴えています。
野田首相は、父がいた自衛隊の精鋭の姿を間近に見たことが安全保障観の原点にあると自ら語っています。そして「集団的自衛権の行使を認める時期、できないという憲法解釈を踏み越えることが一番の肝。派兵恒久法の制定が必要」との発言に見られるとおり、戦争のできる国づくりをもくろんでいる点で自民党といささかも変わりません。
集団的自衛権の行使すなわち米軍とともに戦争のできるようになるための国づくりは、今や自民党―民主党に共通の国策になっているのです。こうした安保翼賛体制の強まりが9条改憲の根っこにあります。9条改憲はアメリカがやむことなく求めつづけており、10年10月にも米議会調査局報告書は「憲法9条と集団的自衛(第3国に対する米国との戦闘協力)権の行使の否定が日米共同作戦の支障」と明記しているところです。

■9条改憲をとめよう!
国政において多数を形成する安保体制の強化―9条改憲の政策は、市民の多数意見との間に大きなねじれが生じています。11年4月の朝日新聞の調査では、9条を守る59%、変える30%、11年9月の読売新聞の調査では、9条を守る58%、変える32%という結果が出ています。改憲を許さないという私たちの思いは、市民の多数に支えられています。悲観もせず、油断もせず、いのちが大事、平和が大切、だから9条を大事にという民衆の思いを原点に、草の根の抵抗によって、既成政治を超えて、改憲策動に立ち向かっていきましょう。



関西共同行動ニュース No58