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●反国民的な民主党政権の安保・核政策 【広島平和研究所・所長】 浅井基文

 民主党政権が登場(2009年9月)して早くも10ヶ月余が立った。自民党政治に失望した国民の期待を担って高い支持率で出帆した鳩山政権は、普天間基地移設問題に対するぶざまな対応と「政治とカネ」にまつわる疑惑を主な原因として支持率が急落して政権を投げ出した。その後を襲った菅政権も、政治担当能力を疑われても仕方がないパフォーマンス(特に消費税問題)で参議院選挙に大敗して党内外から責任を問われ、本年9月に予定されている民主党代表選をにらんで、本腰を入れて内外政治に取り組む余裕もない状況に追い込まれている。
 しかし、2009年1月に登場したアメリカのオバマ政権は、クリントン及びブッシュ両政権の時代に達成された日米軍事同盟の再編(地域的同盟から全世界を股にかける同盟へ)、変質(少なくとも建前としては日本防衛を中心とする守備的同盟から、朝鮮有事、台湾海峡有事はもちろん、世界各地の紛争に積極的に介入する攻撃的同盟へ)、強化(日本の国内有事法制及び国民保護計画による、(準)有事における日本全土の米軍基地化及び日米軍事一体化)の成果を全面的に評価する作業を早々に終え、民主党政権に対してその忠実な履行を迫る政策を取ってきた。
 普天間代替基地の辺野古移設、厚木基地所属の59機の艦載機の岩国基地への移転などは、ブッシュ・小泉時代における「2+2」(日米安全保障協議委員会)で決定されたいわゆる「ロードマップ」に盛り込まれた内容である。オバマ政権は、ロードマップをはじめとする、2005年から6年にかけて「2+2」で達成された諸合意に基づき、日米軍事同盟の再編・変質・強化を推進し、日本列島を今後長きにわたって自らの軍事支配下に置く政策を追求する姿勢を明らかにしているのである。
 このようなオバマ政権に対して、鳩山首相が自民党政治下で推し進められてきた日米軍事同盟のあり方を微修正する必要性を感じていたことはたしかだと思われる。しかし、クリントン及びブッシュ政権が達成した政策を全面的に受け入れて、日本に対して明確な同盟分担を迫るオバマ政権に対して、鳩山首相の「個人的思い」が通じるはずはなかった。改定安保50年に際して出された「2+2」の共同発表(1月19日)は、日米軍事同盟の再編・変質・強化を着実に進めることを確認するものであったし、同じく「2+2」の共同発表(5月28日)は、ロードマップの履行を再確認するものだった。



 鳩前首相より「目先の機転が利く」菅首相は、鳩山政権のもとでアメリカ政府との間で行われた2つの「2+2」共同発表をそのまま受け入れることで政権をスタートさせた。日米軍事同盟問題の争点化隠しという手法は、参議院選挙ではとりあえず「成果」をあげた。というのは、たしかに普天間及び代替基地の問題は選挙戦における重大な争点として取り上げられることはなかったからだ(マスメディアの責任は極めて重いが、ここでは触れない)。しかし、消費税問題での支離滅裂な言動で首相としての力量に重大な疑問符がついた菅首相は参議院選挙大敗の責めを一身に背負わざるを得ない羽目に陥った。9月の民主党代表選挙、11月に予定される沖縄県知事選挙などの政治日程を前にして、菅政権が安保政策で大胆に行動する余地はほとんどない。日本政府の当事者能力がゼロの今、沖縄を代表とする日本の民意と世界戦略を推進しようとするアメリカ政府との間の綱引き結果如何によって日本の平和と安全保障は大きく影響されることとなるだろう。
 ただし民主党政権は、アメリカの「核の傘」に依存する政策だけは露骨に推し進めようとしている。「核密約」の存在を公表した後、岡田外相は、「国民の安全が危機的状況になってもあくまで(非核三)原則を守るのか、例外をつくるのか、…将来を縛ることはできない」、「一時的寄港を認めないと日本の安全を守れないという事態がもし発生したとすれば、そのときの政権が政権の命運をかけて決断し、国民のみなさんに説明するということだと思う」(3月17日 衆議院外務委員会答弁)と述べて、将来的にアメリカの核兵器の持ちこみを認める姿勢を公言している。
 菅首相に至っては、早くも2002年に「密約」を公表すれば、従来の政府答弁なども改める必要が出てくる。特に、非核三原則のうち「核の持ち込み」については、日本の国土への導入・配備 (introduction)と寄港とを区別して、導入・配備は事前協議の対象だが、寄港は対象外であることをはっきりさせるべきだ」と発言していた(『月刊現代』2002年8月号所掲の「救国的自立外交私案」)。彼は根っからの非核三原則見直し論者なのだ。
 つまり、安保政策全体としては自民党政治を踏襲している民主党政権だが、核政策に関しては非核三原則を2ないし2・5原則化して、核兵器の「持ち込み」に道を拓こうとしている。これは、オバマ政権が出した「4年毎の防衛見直し」(QDR)、「核態勢報告」(NPR)に盛り込まれた同盟国への核兵器配備の方針(拡大核抑止政策)明記に対応するものだ。
 私たちはともすると、「核のない世界」を表明したオバマ大統領のプラハ演説に幻惑されているが、同政権の核政策の根幹にあるのは核拡散防止であり、同盟国に対する「核の傘」提供であり、核兵器廃絶ではないことをハッキリと認識するべきだ。オバマ頼みでは核兵器廃絶は実現しない。オバマ政権の核政策により沿う民主党政権を糾弾し、アメリカの「核の傘」と決別し、日米安保を清算する日本にならなければ、世の中の根本的変化はあり得ない。日本政治の根本的転換を図る国民的一大決意のみが日本を変えることができることを強調しておきたい。


関西共同行動ニュース No54