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「集団自決」問題はいま  【大江岩波沖縄戦裁判支援連絡会世話人】 栗原佳子


 昨年10月31日の大阪高裁判決から9カ月あまり。作家の大江健三郎さんらが訴えられた「大江・岩波裁判」はいま、審理の場を最高裁に移している。一審、二審とも、大江さん側の全面勝訴だったが、日本軍の元戦隊長(91歳)らは、なおも上告して争っている。いずれにしても、何らかの判断が示される日が近づいていることは確かだ。
 この裁判が、政治的な目的で起こされたことは改めていうまでもない。それが教科書改変という目に見えるかたちであらわになった07年、沖縄の人たちの怒りは、超党派の「9・29検定意見撤回を求める県民大会」を、11万人という空前の規模で実現させた。
 沖縄が熱く激動した夏から2年。残念ながら私の周囲でも「その後」に関心を寄せる人は少なくなっている。しかし検定意見は撤回されず、書き換えられた教科書も元に戻っていない。それどころか検定の場では逆に右傾化が進んでいる。今年春、「新しい歴史教科書をつくる会」が主導した自由社の中学歴史教科書が検定に合格したが、つい先日、横浜市教育委員会がその教科書を8地区で採択したことが明らかになったばかりだ。
 大江・岩波裁判も大江さん側が連続して勝利しているが、元戦隊長側に連なる右派は攻撃の手を緩めていない。
 最近では、沖縄の地元誌『うらそえ文藝』が元戦隊長らを擁護する論調の対談を組んだ。雑誌『SAPIO』の小林よしのりさんの漫画「ゴーマニズム宣言」のように、渡嘉敷島の体験者、金城重明さん兄弟を貶める論調も後を絶たない。金城さんは大江・岩波裁判で大江さん側の証人に立った人物だ。
 そもそも元戦隊長側は裁判で、例えば、島の人たちが、遺族年金をほしいがために戦隊長の自決命令をでっちあげたかのように主張してきた。しかし、それは一、二審判決できっちり否定された。にもかかわらず、いまも性懲りもなく同じ主張を繰り返す。作家の目取真俊さんは「ウソも百回つけば真実になる」と警鐘を鳴らしていたが、まさにその通りの手法だ。一人ひとりが繰り返し、反撃していかなくてはならないと痛感する。
 裁判はいつか決着する。しかし攻撃が止むことはないだろう。同時に体験者や遺族の悲しみも癒えることはないだろうと思う。私が取材した遺族の中には、いまも泣かない日はないという人もいる。体験者や遺族の声を胸に刻む。そこから反撃の一歩が始まると思う。

なお今年6月23日の沖縄慰霊の日、『狙われた「集団自決」―大江岩波裁判と住民の証言』(社会評論社刊、二千三百円+税)を出版しました。体験者の証言をベースに裁判の経過や教科書問題などを絡めた書き下ろしのルポです。
よろしければぜひご一読下さい。


関西共同行動ニュース No51